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「上司が部下におごる時代」は、とっくに終わっている?

横山信弘経営コラムニスト
(写真:アフロ)

■ 食事を「おごる」と、ついつい見返りを期待する?

デートで男性が女性に(もしくは女性が男性に)おごったりするように、上司が部下に食事を「おごる」ことはよくある出来事だ。ビジネスにおいて、部下をねぎらったり、お客様を接待したりするときに「おごる」という行為は、頻繁にある。

相手の喜ぶ顔がみたい、自身の甲斐性を見せたいという欲求から、誰かにおごりたいという気持ちが芽生えるのは自然のこと。

とはいえ「おごる」ほうは、無意識のうちに等価交換を考えてしまうことがある。

等価交換とは、同等の価値があるものを相互交換することだ。どんな事情であれ、おごった側の人は、知らず知らずのうちに「見返り」を期待する心理が働くのも無理はなかろう。

■ 上司が部下におごる心理

上司からすれば、「おごる」ことで、部下から「いい人」と思われるだろう、自分のことを気に入ってもらえるかもしれない、こちらの言い分を聞き入れて、仕事に精を出してくれるかもしれない……。

このように、「同等の価値」を要求しなくとも、上司が少しばかりの期待をいだくことは自然だ。特に「おごり慣れていない」人は意外と、そのような心理に陥ってしまうことがある。

しかし、部下にとって「見返り」を期待して「おごられる」のは、あまり気持ちがいいものではない。だから「おごる」側は『ギブ&テイク』を考えずにおごったほうがよいと私は思う。

■「おごられる」側は、どうか?

ところで、「刺激馴化」という心理現象を覚えておこう。

刺激馴化とは、ある刺激を受け続けると最初に受けた反応が徐々に鈍くなっていく現象だ。「おごられる」側は、同じ相手におごられ続けることで、感謝の気持ちが鈍くなる。そのため次第におごられることが「当たり前」と受け止めていっていく。

最初は感謝の気持ちをあらわしていた相手も、おごられることが当然となり、だんだんと「ありがとう」の言葉も言わなくなる。さらに「刺激馴化」が進めば、おごられないと残念に思うようになる。

いつものように「おごられる」ものと思い込んでいたら、上司から「今日は割り勘ね」と言われた瞬間に、ムッとしてしまった経験はないだろうか。これは「刺激馴化」が引き起こす感情である。おごられ続けた過去が、その感情を発生させたと捉えよう。自分の性格が傲慢で、謙虚さに欠けているわけではない。

■「おごる」ことと信頼の構築は関係は?

接触を繰り返すことで、相手との信頼関係(ラポール)が少しずつ深まっていくことがある。これを「単純接触効果」と呼ぶ。

美味しい食事をしたり、飲み会をしたり、プレゼントを渡したりするのは、接触する「ネタ」としては、格好の材料だ。信頼関係を構築することと「おごる」こととは関係がないので、たとえ「割り勘」であっても、一緒に食事をともにすることで、上司と部下の関係は構築できていく。

だから、どんなときに上司が部下におごるべきかと問われたら、それは、部下におごりたいと思えば、おごっていい。自分がおごりたいから「おごる」。それでいい。コミュニケーションしたい相手とその機会が増えてラッキーだと受け止める程度でよく、「見返り」は期待しないことが重要だ。

また、反対に「おごられる」側の部下は、前述したとおり、その状態が続いてしまうと、ついついそれが「当然」のことのように感じてくる。その心理現象は特別なことではない。しかし人間関係を良好に保つためにも、おごられたときは、ためらうことなく感謝の気持ちをあらわしたほうがいいだろう。10年、20年のお付き合いしている相手に対しても、同じだ。

■「ギバー」「テイカー」「マッチャー」

「ギバー」「テイカー」「マッチャー」という言葉をご存知だろうか。

簡単に書くと、見返りを求めずに与えるのがギバー(与える人)。相手に与えず、自分の取り分を増やそうとするのがテイカー(奪う人)。与えるけれども、見返りを求めるのがマッチャー(損得のバランスをとる人)だ。

「おごる」「おごられる」ことは、人の価値観によって受け止め方は違う。「おごる」側の上司の好きにしたらいい。しかし、どうしてもおごる相手に関する基準がほしいなら、これら3つの属性は知っておいて損はない。

ひとつひとつ、特性を知っておこう。

もしも部下が「ギバー」タイプなら、快く感謝してくれるだろう。そしてその部下は、はやく自分も上司になって部下におごるようになりたい。そして、もっと仕事をがんばって上司になろう、と受け止めるのだ。

もしも部下が「マッチャー」なら、おごられた以上、何か返さなくてはと思うだろう。見返りを求められてもいい上司にはついていくが、期待されたくないと思うような上司には、食事にもついていかないかもしれない。常に「貸し借りゼロの関係」にしておきたいからだ。

もしも部下が「テイカー」なら、上司からおごられるのが当然だと思うし、おごられたからといって引け目も感じないだろう。「割り勘だ」と言われたら、上司と食事には出かけないかもしれない。

どういう部下におごったらいいのか。もし疑問を抱いたら、「ギバー」「テイカー」「マッチャー」という基準で考えてもいいと私は思う。

多様性の時代だ。

いろいろな価値観があっていい。上司が部下におごる、という価値観が当然だ、という時代は、もうとっくに終わっている。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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