人口減少にはSuicaで活路、空港アクセス線で都市基盤強化【JR東日本グループ経営ビジョン】
JR東日本グループはグループ経営ビジョン「変革 2027」を7月3日に発表した。人口減少社会や自動運転技術など、経営環境が変化していく中で、その変化を先取りするために「鉄道を起点としたサービスの提供」から「ヒトを起点とした価値・サービスの転換の創造」への転換をJR東日本グループは訴える。経営ビジョンから見える、2027年のJR東日本の姿とは?
人口減少社会に立ち向かうSuica
日本はすでに人口減少社会に突入し、JR東日本エリアも例外ではない。面積では大きな位置を占める東北エリアは、2040年には2015年に比べて3割近く減少していると予測される。
人口減少の波は、東京圏にも押し寄せる。2020年をピークにした東京圏の人口は、2025年以降ゆるやかに人口が減少していくと考えられている。
そのため鉄道での移動ニーズが減少し、利益が圧迫されるとJR東日本グループは予測している。
輸送サービスを維持・発展させていく一方で、生活サービス事業を拡大させていかなければならないことを、JR東日本グループは自覚している。現在、運輸と非運輸の売上比率は7:3であるところ、2027年には6:4にしていかなくてはならない。JR東日本グループの発表した資料では輸送サービスは横ばいであるものの、実際の人口減少社会の進み具合を見ると、この分野は縮小を余儀なくされる可能性が高い。ましてや2040年、人口が3割も減った段階では、輸送サービス以外の事業にも力を入れないと、経営規模を確保できない。
この状況下、人々のライフスタイルの中核にSuicaを位置づける。移動のシームレス化だけではなく、決済サービスのプラットフォームとして、人々の活動の中核になるようにする。また、「JRE POINT」で各サービスを幅広く結びつける。
地方でもSuicaを共通基盤にする。「地方を豊かに」という考えの中で、駅を中心としたまちづくりや、輸送サービス変革などの中心にSuicaを位置づける。
Suicaという1枚の交通系ICカードを、JR東日本グループのサービスの中心として位置づけ、人口減少社会などのネガティブな側面がある中で、利便性を向上させる一方、多くの人の生活プラットフォームになることをJR東日本グループは目指している。
JR東日本グループを救うのは、鉄道事業だけではなく、鉄道事業によって得られた信頼をベースとするサービス事業であり、より多くの人が「JR東日本経済圏」で生活することにより企業価値を維持していこうというのはグループの方向性である。
期待の新線計画などは?
一方で鉄道ファンからは、「新線はどうなるのか」「どんな車両が出てくるのか」ということへの期待も高い。「変革 2027」で大きく取り上げられたのは、羽田空港アクセス線構想の推進である。貨物線の大汐線を利用して整備される羽田空港アクセス線では、新宿・池袋方面、上野東京ライン方面、りんかい線方面とのアクセスが便利になると予想されている。資料には「房総方面」と書かれていることから、りんかい線と京葉線の直通の可能性も期待できる。
その他にも、相模鉄道との直通運転や、中央快速線グリーン車などの計画が掲載されている。資料には東京~伊豆半島間の新型観光特急も登場している。
そんな鉄道の世界にも、新しいシステムが導入される。「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」だ。鉄道ネットワークだけではなくタクシーなども手配・決済できるように他企業とも連携するというものだ。
また「スマートトレイン」の実現もめざす。チケットレス乗車やセンサー技術を使った鉄道のセキュリティ向上、燃料電池車両、ドライバレス運転、メンテナンス関連へのロボット導入などが考えられている。
そんな中で「ALFA-X」という次世代新幹線の試作車を製造し、時速360キロ運転を目指している。
JR東日本の基盤となる輸送サービスも、大きく変わることを目指している。
今回の「変革 2027」で、世の中の動向や新技術に合わせ、鉄道システム全体を大きく変えることを宣言した。たとえ衰退する社会であっても、それに合わせて企業規模を縮小するのではなく、新しいことに取り組み鉄道事業と企業を発展させていこうという意欲にあふれた経営ビジョンであると考える。