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繰り返される「いすみ鉄道の危機」 求められる設備の老朽化への対応、他社も真摯に

小林拓矢フリーライター
いすみ鉄道(写真:イメージマート)

 千葉県にある第三セクター・いすみ鉄道では4日、国吉~上総中川間で脱線事故が発生した。走行中に異音とゆれを感じて停車し、8つの車軸のうち6つが脱線していた。朝の通学ラッシュ時の列車で、100人以上が乗車していた。運輸安全委員会は鉄道事故調査官を派遣し、調査することになった。

腐食のマクラギが事故を引き起こした可能性

 現在のところ、事故については調査中であり、運輸安全委員会としては結論を出していない。しかし報道によると、マクラギが腐食し、修繕をする必要性があったということだ。

 おそらく木製のマクラギであり、犬くぎでレールを留めるという昔ながらのものであっただろう。防腐処理済みの木製マクラギは、木の種類によって耐用年数は異なるが、短くて10年、長くて25年といったところである。いすみ鉄道開業以来、2回から3回変えていればいい方、といったところか。

 実はいすみ鉄道では、以前も似たような理由で脱線事故が起きた。

過去にあった同様の事故

 2013年12月、西畑~上総中野間で列車脱線事故が起こっている。曲線を通過中に、マクラギの腐食やひび割れによりレールとマクラギを締結する犬くぎの支持力が低下し、列車の走行において軌間変位の拡大が発生し、右車輪が軌間内に脱線、軌間を広げた。左車輪は通常と異なる圧力を受けながら、曲線半径が小さいところで軌道に乗りあがり外側に脱線するということだった。

 それ以来、いすみ鉄道ではコンクリート製のマクラギへの交換を進めている。報道によると、今月4日に発生した事故現場では11月下旬までの交換が予定されていた。

木製のマクラギ
木製のマクラギ写真:イメージマート

コンクリート製マクラギ
コンクリート製マクラギ写真:イメージマート

 2013年の事故以来、マクラギの交換は少しずつではあるものの進められていた。しかしそれが間に合わないところで、今回の事故が起こった。

 現在、いすみ鉄道は全区間で運休、代行バスで対応し、今月下旬の運転再開をめざしているところだ。

事故の根本的な原因は?

 要は、マクラギの老朽化による脱線事故が繰り返されたということだ。しかも、最初の事故発生後、対応を少しずつ進めていた。その中で対応できなかった箇所で事故が起こったのは、ある意味不運ではある。

 いすみ鉄道は、従業員約30人の会社である。2024年3月期決算では、営業損失約3億6040万円、経常損失3億286万円となっている。厳しい、というのが正直なところだ。

 マクラギの交換は年300本ペースで進められているものの、そういう設備更新に充てられるお金は大丈夫か、という状況だ。

 沿線のいすみ市では2024年度予算で約5562万円をいすみ鉄道対策事業に支出し、大多喜町では同年度の予算で約6266万円を同様の事業に支出している。

 地元自治体からの支援でようやく成り立っているのが、いすみ鉄道である。

 その中で社長を公募し誘客などに力を入れているというのが現状だ。

 厳しい状況に置かれた地方の鉄道はほかにもある。

 たとえば青森県の弘南鉄道は、2023年にレールの異常で長期運休となった。その後、国土交通省東北運輸局に改善措置を命じられたのを受け、JR東日本の技術支援を受けることになった。

 お金がない、人手が足りない、というのは、多くの地方鉄道に共通する悩みである。このあたり、他社も真摯にやっていくほかないものの、それだけの力は残っているのだろうか?

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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