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早稲田大学・後藤翔太コーチ 教え子代表選手の動きで「スクラムハーフ大事」と再認識?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
オンライン取材の背景写真は本拠地・上井草グラウンドの夕暮れ

 早稲田大学ラグビー部の後藤翔太コーチ(所属=識学)が8月下旬までに取材に応じ、指揮官交代後の役割、現役時代プレーしていたスクラムハーフのポジションについての私見について語った。

 一昨季、11シーズンぶり16度目の大学日本一に輝いたチームは、昨季限りで相良南海夫前監督から大田尾竜彦監督へのバトンタッチを済ませている。就任3年目の後藤コーチは、現体制の特徴を「各コーチが機能するよう組織的にも考えられている」と述べた。

 インタビューでの話題は多岐にわたり、自身の現役時代のポジションについてはユニークな見解が聞かれた。現職1年目にチームの主将をしていた齋藤直人(サントリー)が日本代表として活躍する姿を見て、とある「説」が浮かんだという。

 その「説」が生まれるまでの思考の過程もまた、興味深い。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――指揮官が交代したことで、コーチの仕事に違いはありますか。

「僕はディフェンスとバックスを担当しています。去年は基本的にヘッドコーチ(武川正敏氏)がほぼほぼすべてを描いたなかでやっていました。ヘッドコーチが『ディフェンス、こういう風にして』と僕に依頼する形です。

 今年は大田尾の意向を受けて、各コーチが役割――僕ならディフェンス、権丈(太郎コーチ)ならブレイクダウン――にしっかりと責任を持つ。もちろん(大田尾監督が)『こういう風にしたら』と言うこともありますが、原則的には『ここはこういう問題点があるように見えるけど、どう改善するの?』と責任を負わせ、考えさせる。もちろん、(指揮官のなかで)『こうやればいいじゃん』と思うことはあるんでしょうけど、そこで各コーチに責任を持たせ、各コーチが機能するように組織的にも考えられているなと」

――大田尾監督は早稲田大学を卒業後、ヤマハで選手、コーチとして活躍しました。

「大田尾はヤマハにとらわれていることは当然なく、『いま、このリソース——選手、コーチ、スタッフ——を活かすにはどうすればいいか』の一手を、日々、打っている感じ。ヤマハの強かった時のように持っていきたいということはないと思うんです。いま、勝つためにどうするか。その際に、これまでのヤマハ、早稲田でやってきたことが活きているという感じです」

——ところで、いまの早稲田大学には有力なスクラムハーフ(以下、ハーフ)がたくさんいますね。

「僕、最近、『ハーフ大事説』を唱えていまして。自分がプレーしている時は、誰でもできると思っていたんです。(求められることは)ざっくり言うと、そこにあるボールを拾って、パスを投げるだけ。判断とかもあると思うんですけど。

 いまはどのチームでも、ボールキャリア(ボールを持った選手)がいて、サポートが2人いて、ハーフがさばくみたいな感じじゃないですか。であれば、ハーフがブレイクダウン(ボールキャリアを軸とした接点)へ行かなくても、そこの近くから4番目がパスをさばくのが一番、早いんじゃないの、って、思っていたわけですよ。

もっと言えば、ハーフがそこ(接点)に行けば、相手は『こいつがハーフだ』とわかる。(ハーフの選手は総じて)小さいし。そして、ハーフがボールを持つから『パスだな』とわかるわけじゃないですか。ただ、そこで(身体の大きな)プロップがボールを持ったら『ピック&ゴー(突進)かもしれない。でも、パスを投げられた』となる。そしてディフェンスがしにくい…。

 僕はこういう風に『固定された人がパスし続けることは本当にいいのか』と考えていたんですよ。僕が監督ならハーフをいらなくするのもありかな…とも。現役時代には、それを話しちゃうと自分の存在価値がなくなるので言わないでおきました。

 ただ最近、齋藤直人が代表でプレーするのを見て、ハーフって、大事だなと」

――一昨季、早稲田大学の主将として日本一に輝いた齋藤選手は、今年日本代表デビューを飾るやテストマッチ2戦目で初先発。出色の働きでアピールしました。

「もちろん、それまで代表でプレーしてきた田中史朗、流大もうまいんですよ。ただ、直人を見て改めてハーフって大事だわ、同じストラクチャーのもとでもハーフが変わるだけでアタックの結果はまるで違うわ、と感じまして。

 サンウルブズ戦(国内での強化試合)も直人が入って逆転、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦も直人が入ってトライが獲れた。次のアイルランド代表戦では(先発していた)直人が(後半27分に)抜けてトライが獲れなくなった。明らかに彼が入ることで、アタックの結果が変わる。起点が変われば終点が変わるのは当たり前なのですが、改めて『そこの技術』がラグビーにおいては重要だと感じました。フィジカルに恵まれない早稲田大学が勝ってきた時にいいハーフがいたのもその証だと思います。そういう観点においても、いまの早稲田大学のハーフ陣は楽しみです」

——ハーフの『そこの技術』。気になります。

「ブレイクダウンの(両軍が入り乱れて)ぐちゃぐちゃしているところから何事もなかったかのようにボールを取り出せるか、そこがいかにスムーズか、ということだと思うんです。

 野球でも160キロのストレートを打たれるピッチャーがいるじゃないですか。あれって、バッターにとってタイミング、コースがわかるからですよね。(ラグビーのハーフも)それと同じで、ブレイクダウンからのさばきがうまくないと、ボールが速くてもディフェンスは(飛び出すタイミングなどを)合わせられる。ただ、ブレイクダウンが起きてから、ハーフが球をすっと取り出すまでのスピードがあまりにも速いと、相手は『あれ、もうボールが出てるの?』となる。スタートが切りにくい。もちろん、パスのボールが速いに越したことはないです。ただ、仮にボール自体が速くなかったとしても、ブレイクダウンからのさばきがスムーズだと次のアタックがうまくいく」

――なるほど。混沌とした場所から素早く球をさばく『技術』を全ポジションの選手が共有するのは現実的ではないとわかります。その意味でも『ハーフ大事説』は有力になります。

「そう。スクラム、ラインアウトをする人もいるのだから、15人がそれ(ハーフ)をできるようになるのは非現実的だと思うんですよ。身体が小さかったとしてもスムーズにブレイクダウンをさばく能力にたけた選手は、いていいんだなと思うんですよね。少し前にハーフの大型化が進んだ時期もありますが、やっぱり、小さいハーフが試合に出ているじゃないですか。ファフ・デクラーク(南アフリカ代表)、アーロン・スミス(ニュージーランド代表)…。日本代表でも、皆、大きくはない。それは、ブレイクダウンからいかにさばくかがどれほど重要かを示唆していると思います」

――パスの飛距離、キックの飛距離では測れない資質ですね。

「例えば田中史朗(もと日本代表で日本人初のスーパーラグビープレーヤー)。足は速くない、パス自体もめちゃめちゃ速いわけじゃない。ただ、そこ(ブレイクダウンからのさばき)がスムーズで、ランニングしながら相手に多くの選択肢を持たせてパスをするので相手の力が入らない。ここには――才能によるところもあると思いますが――身体に刷り込まれているリズムがある。単純に『直球』が速いだけではない」

 スクラムハーフに本当に求められる技術について、野球のピッチャーのたとえ話を交えながら解説した後藤コーチ。ラグビーという混沌とした競技のなかから、一定の法則をスムーズに抽出した格好だ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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