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金を無心する毒母に付きまとわれる娘役に。演じてわかった彼女のいばらの道を選ぶ強さ

水上賢治映画ライター
「彼岸のふたり」で主演を務めた朝比奈めいり  筆者撮影

 今回が長編デビューとなる新鋭、北口ユースケ監督が作り上げた「彼岸のふたり」。

 室町時代の大阪府堺市に実在したと伝わる伝説の遊女「地獄太夫」をモチーフにしたという物語は、家族の愛を知らない少女と彼女につきまといつづける母親の愛憎入り混じる関係に焦点を当てる。

 簡単に言えば、囚われの娘VS毒母。

 児童養護施設から出て新生活をスタートさせた主人公・西園オトセの前に、彼女を育児放棄し虐待も見過ごしてきた母が現れたことから、壮絶な母娘物語が展開していく。

 その中で、オトセを演じているのが、アイドルとして活動する朝比奈めいり。

 「彼岸のふたり」が本格的に演技に取り組むのが初めてだったという中、難役といっていいオトセを演じ切った。

 心に深い傷を負い、複雑な感情を抱えたオトセを演じてどのようなことを感じたのか?

 朝比奈本人に訊く。(全四回)

「彼岸のふたり」で主演を務めた朝比奈めいり  筆者撮影
「彼岸のふたり」で主演を務めた朝比奈めいり  筆者撮影

はっきりしなくて頼りない女の子という印象を受けるかも

ただ、演じていたわたし自身はまったく逆のことを感じていた

 前回(第二回はこちら)、北口監督からの演技指導を受けて、演じるオトセの「理解が深まった」と語った朝比奈。

 実際に演じる中では、オトセにこんなことを感じていたという。

「一見するとオトセちゃんはか弱い女の子という印象だと思うんです。

 職場でも他人と話すときも、どこか自信なさげでおどおどしているし、自分の意思を明確に示すこともありません。

 だから、なんだかはっきりしなくて頼りない女の子という印象を受けるかもしれない。

 ただ、演じていたわたし自身はまったく逆のことを感じていたんです。

 確かにはじめ、母親がオトセちゃんのところに勝手に押しかけてくる。そこでオトセちゃんは嫌だけど会うことにする。

 それ以降、母親とたびたび連絡をとって会うことになる。そして、最後にはオトセちゃんは母親の自宅を訪れる。

 前にも話しましたけど、おそらくほとんどのみなさんが『ろくでもない母親なのだから、会わないほうがいい』『なんで、会っちゃうの』『会う必要も義理もない』とか思ってしまう。

 実際にわたしもはじめて脚本を読んだときはそう思っていました。

 オトセは、突然押しかけてきた母親に嫌だけどなびいてしまっているように映る。だから、もどかしさを感じて、オトセちゃんに『もっとしっかりして』『もっと自分の意思をもって』とかいいたくなってしまう。

 でも、実際に演じていてわたしが感じたのは逆のことだったんです。オトセちゃんにはちゃんと強い意思があって、自分ですべて判断していると感じていた。

 実は、ひとつひとつのことをきちんとみていくと、彼女は誰かの意見に流されたり、その場の空気を読んで自分の思いとは違う行動をとったりということはないんです。

 すべて自分で判断していて選択をしている。

 はじめに母が押しかけてきたときは、あたふたしたところがあるのですが、以後はすべて自分で選択している。人からどういわれようと彼女は母と向き合うことを選択して、そのように行動している。

 だから、演じていく中で、わたしはオトセちゃんはすごく強い女の子だと感じていました。

 時々、自分自身を傷つけたりしまうこともありますけど、いばらの道と思える人生をしっかりと歩こうとしている。

 そういう強さを演じながらオトセちゃんには感じていました。

 その印象は、完成してもわたしの中ではかわらなかったです」

「彼岸のふたり」より
「彼岸のふたり」より

『そうできない』と『そうしない』とでは大違い

 確かにそういわれると、オトセはか弱くみえるが、すべてにおいて自らの意思で動いている。

 母親との関係も、断ち切れないのではない、断ち切らない選択を彼女はしているところがある。

「そうなんです。

 さっきもいいましたけど、ぜったいにあの母親といてもいいことはない。周囲の人はみんなそう考えると思います。だから、関係を断ち切った方がいいと考える。

 はじめは『オトセちゃんはそうできない』ように皆さんの目には映ると思います。でも、よく見ていくと『彼女はそうしない』ことを選んでいることに気づくと思います。

 『そうできない』と『そうしない』とでは大違い。ここにオトセちゃんの強さが表れていると思います。

 そうやってひとつひとつのことを見てみると、オトセちゃんがけっこう行動派なことに気づくと思います。

 自分から母親に会いにいくこともそうだし、アイドルの子に出会ってライブにいってみようと思うのもそう。

 おそらくわたし自身がオトセちゃんと同じような境遇に置かれたら、もう悲嘆に暮れてばかりで半ば自暴自棄になってなにもしないで、ライブになんて行く気にもならない。

 オトセちゃんのようにここまで自分のアクションを起こせないと思います」

オトセとして感じたことをそのまま素直に出す。

そのことを一番意識して撮影には臨みました

 そのようなことを感じていたオトセ。演じる上でなにか大切にしていたことはあっただろうか?

「北口監督から演じる前に演技指導を受けたとお話しましたけど、そのときに監督が『オトセは動物に例えると、黒猫に近い。なので、黒猫の演技をしましょう』といった不思議なレッスンがあったんです。

 はじめは抽象的すぎて『どういうこと?』と思ったんですけど(苦笑)。

 突き詰めると、オトセという人物を演じることは演じるのですが、本質的なところで演じるというか。

 どう演じるとか考えるのではなく、オトセとして本能的に動いて話す、みたいになってほしいということで。

 つまりオトセとして感じたことをそのまま素直に出す。そのことを一番意識して撮影には臨みました。

 だから、変な話かもしれないのですが、お芝居している感覚があんまりなかったんです。特に本番は。

 ただ、オトセとしてその場に立って、自然と出てくる言葉を口にしている、そんな感覚でした」

(※第四回に続く)

【朝比奈めいりインタビュー第一回はこちら】

【朝比奈めいりインタビュー第二回はこちら】

「彼岸のふたり」メインビジュアル
「彼岸のふたり」メインビジュアル

「彼岸のふたり」

監督・脚本・編集:北口ユースケ

脚本:前田有貴

出演:朝比奈めいり 並木愛枝 ドヰタイジ

寺浦麻貴 井之上チャル 平田理 眞砂享子 エレン・フローレンス 永瀬かこ

星加莉佐 徳綱ゆうな 清水胡桃 吉田龍一 おおうえくにひろ

公式サイト higannofutari.com

3月4日(土)より横浜シネマリンにて公開、以後全国順次公開

メインビジュアル及び場面写真は(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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