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女芸人お笑い大会『THE W』を見ていて苦しくなるのは何故か 『M−1』との根本的な違い

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

『THE W』の審査は「暫定」勝ち抜き方式

今夜、7回目の「女芸人No.1決定戦 THE W」が開かれる。

司会はいつもの水卜麻美アナウンサーと、山里亮太が急遽、やることになった。

最近の審査は「暫定」勝ち抜き方式である。

1組どうし、どっちがおもしろかったのかを投票する。

100点満点で評価する絶対方式ではない。

おもしろかったほうを勝ちとする相対方式である。

お笑いコンテストの審査のむずかしさ

お笑いの審査はむずかしい。

審査もまたテレビショウなので、審査自体がおもしろくないといけない。

その規制下で、どう順位をつけるか、いろんなお笑いコンテストで少しずつシステムがちがっていて、そのなかでみんな戦っている。

M−1などの絶対採点方式のむずかしさ

1組ずつ採点していく方式は(代表的なのは「M−1」)、それぞれの絶対評価なので、出演した全組の順位を審査員がつけられる。

結果をきちんと出すには、とてもわかりやすい方式である。

ただ、この審査は、爆発的におもしろい出演者が「いつ出てくるか」予想ができないところが、むずかしい。

ひょっとしたら最後の最後に破壊的におもしろいパフォーマンスが演じられるかもしれず、そのために途中では「満点」を出しにくい。

途中で満点を出すのは、直感と度胸が必要になってくる。

この方式でやりやすいのは、先に全出場者の全パフォーマンスをみてから採点する方式だ。全部見てからまとめて採点すると、間違いが起こりにくい。

実際にそういう採点方式をしている地味めのお笑いの会もあるのだが、視聴率の高いゴールデンに放送される番組では、まずそれが許されない。

『THE W』の暫定1位を決めて対決する方式

『THE W』では、暫定1位を決めて、次の出演者が暫定1位よりおもしろいかおもしろくないかの一対一比較審査を繰り返していく。

これだと、最後にもっともおもしろい組が出てきてもきちんと対応できる。

ただ問題は「記憶」との対決になるところだ。

たとえば2022年Bブロックでは、まず天才ピアニストが演じて、そのあと、爛々と対決、スパイクと対決、フタリシズカとの対決となった。

「いまの芸」対「前の前の前の芸」である。

前の前の前に出たパフォーマンスといまのパフォーマンスを比較する

「前の前の前にやった芸の記憶」と、いま終わった芸の比較になるところが、ちょっとしんどい。

高校野球のように2チームずつ戦って勝ったほうが抜けていくのだったらわかりやすい。それだといまの2チームに集中して見分ければいいからだ(初期はこのシステムであった)。

でも、暫定勝ち抜き方式の場合は、最初におもしろい人がでてくると、ずっとそれとの比較となる。最初の芸のどこを記憶して、新しいパフォーマンスのどこと比較するか、という具体的な基準は事前には持てない。

おおむねパワーとか勢いとかの印象で比較することになる。

だから最初に強く印象づけられれば、その印象で勝ち抜ける。

5組の勝ち抜きは記憶するのがむずかしかった

その前年と前々年、2020年と2021年は5組ずつの2ブロックに分けて、1組が勝ち抜いていった。

この場合、5組前のパフォーマンスといまのパフォーマンスを比較することになり、これはもっと大変だったとおもわれる。

だから2022年から3ブロックに分けられて、記憶する数が減った。

トップバッターでも勝ち抜けやすくなったのだ。

異種格闘戦となる『THE W』

もうひとつのむずかしさは、M−1、R−1、キングオブコントのようなジャンル分けがなされてないところだ。

二人が立って喋る漫才方式と、演技をするコント方式、一人でやりきるピン芸人方式が混じる。

これは、技術だけでは比べにくい。

漫才だけだったら喋りの達者さが比べられるし、コントだけだと設定の奇抜さと演技のうまさの違いがわかる。

でも、漫才の間合いの詰め方と、コントの設定の斬新さを比べて優劣をつけるのはむすかしい。

だからインパクトで決めるしかない。

『THE W』につきまとう違和感のある出演者を見ること

『THE W』は、だから、めまぐるしい。

キャラの好悪が影響しているとおもわれる。

こんな人たちが決勝まで残るんだねえ、と不思議な感じを持つのが『THE W』である。

違和感のある芸人を眺めるのは慣れているのだが

そういう違和感はいまでもなくなっていない。

M−1と比べてエントリーが少ないのでしかたがないのだろう。

ずっと違和感のあるお笑いのパフォーマンスを見るのは、それは演芸を見てるかぎりはふつうのことである。

誰が出てくるのか知らずに寄席でお笑いを見ていると、出てくる人に馴染めない時間がけっこう長かったりする。そういうことがある。

でもそれは寄席空間というゆるさもあって、何となく見逃すことになっている。

文句も言わずに黙ってみていて、終わったら小さく拍手する。

それが寄席芸人と寄席客の了解事項である。

見ていてしんどい芸を見ることになるのは何故か

でもお笑いコンテストとなると、本人たちの意気込みが違うからだろう、そんなふんわりと終われない。

出演者の意気込みが強くて、見づらい芸を、スルーさせてくれない。

それが『THE W』では多い。

この人たちの芸を見続けるのは、ちょっとつらいなあ、とおもわせる瞬間が、『THE W』ではどうしても出てくる。

まあ、お笑いを見ることは、そういうのも楽しむものだとはわかっているが、でもM−1・R−1・キングオブコントとはけっこう違うな、とおもう。

総エントリー数の圧倒的な差

これは、男女差というのとはまったく関係なくて、厳密に「エントリー数の差」だろう。

神奈川県より鳥取県のほうが夏の甲子園へ出やすいように、M−1よりはTHE Wが決勝へは出やすい。

(2023年のエントリー数は「THE W」863組、「M−1」8540組)

あまり受けないときどうするか、という芸人の底力が出るのは、参加数が多いほう大会のほうが強いだろう。

たぶん、その差である。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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