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高校生が初めて国土地理院の「防災アプリ大賞」を授賞

石田雅彦科学ジャーナリスト
指導した吉川哲也教諭(右端)と佐土原高校の情報技術部の生徒たち

 国土交通省の国土地理院と水管理・国土保全局は、内閣府と協力して2014(平成26)年度から災害時などに役立つ「防災アプリ」を公募し、優れた機能を持つアプリを選定している。第3回となる今年(2017年度)は、初めて高校生のチームが開発したアプリが大賞を受賞した。

助けられる側から助ける側へ

 大賞を受賞したのは、宮崎県の県立佐土原高校、情報技術部3年生の生徒たち、アプリは「SHS災害.info」という使い勝手のいいアプリだ。宮崎市民を対象に、災害に対する心構えを持つこと、災害発生時の安全確保、救助活動を補助することを目的に「助けられる側から助ける側」へをコンセプトに開発した、と言う。対応OSは今のところ「Android4.4以上」、Google Playのストアで入手可能だ。

 このアプリの特徴を以下に紹介する。

1)登録地周辺と現在地周辺の指定緊急避難場所・指定避難所・洪水予測を確認することで、災害発生時に安全な場所に迅速に避難させられる。

2)SQLite(データベース管理システム)を用いて住所を登録することで、迅速に登録地周辺の地図タイルを表示し、指定緊急避難場所・指定避難所・洪水予測を確認できる。

3)「天気情報」では先三日にかけての天気予報をお天気アイコンを交えて知ることができ、細かい天気の移り変わりや熱中症予防の呼びかけも天気予報の下に表示される(livedoorお天気API使用)。

4)「安全確認メール」では、文章を定型文にすることで学校へ自分の安否などの情報を送ることが可能。

5)暗闇の中であっても方向を見失わないためのライト(Android6.0以降)とコンパス(国土地理院、標高API使用)を搭載。

6)非常持ち出し物品リスト(文字のタップで持ち出し品に関するアドバイスが表示)では、表示してある物品をすべてそろえるまで画面上に割合を表示し、100%にする達成感を持てるようになっている。

7)救助活動を支援する防犯ブザー機能を搭載。

 基本的には宮崎市民のためのアプリだが、避難所情報以外の現在地や登録地の標高を簡単に知ることができ、宮崎市以外のユーザーも活用できる機能が入っている。地域での自助のきっかけになる、事前の防災学習と災害時での利用、安否確認機や各種速報表示、持ち出し物品リストといった多機能が評価されての授賞ということだ。

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SHS災害.info。「SHS」は「sadowara high school」の略。起動画面に出てくるキャラは、クジラをモチーフにした同校の「サくじら」だ。江戸時代には佐土原藩だったが、ある殿様の母親が「クジラのように強く育て」との願いを込めて作らせた地元の銘菓に由来する。アプリには、同校を中心にした指定緊急避難場所、近くの医療機関、非常時の持ち出し物品リスト、標高なども表示される方位磁石、周辺の気象情報、助けを呼びたいときのブザー、タップだけで簡単に送ることのできる安全確認メールなどの機能を搭載している。

男女2チームに分けて開発

 生徒たちを指導したのは、宮崎県立佐土原高校の吉川哲也教諭だ。吉川教諭自身もアプリ開発は初体験だった。生徒たちを指導するために必死で勉強したそうだ。

──開発の期間はいつからいつまでか。また何名の生徒で開発したのか。

吉川「開発期間は4ヶ月でした(4月〜7月)。生徒は男子2名、女子2名、全員が佐土原高校の情報技術科3年生で、情報技術部という部活動の部員です。今回の防災アプリ開発は、情報技術部の部活動で取り組みました」

──アプリの開発では、どのような点を重視して生徒たちを指導したか。

吉川「アプリの開発は、男子チーム2名と女子チーム2名に分け、男子チームは機能に凝ったアプリ(登録地のデータベース保存、ライトやコンパス、天気情報など)を開発し、女子チームは使う人目線のおもしろいアプリ(持ち出し物品チェックリストや防犯ブザー)を開発しました。両チームの機能を統合することで完成したアプリが『SHS災害.info』です。プログラムを組む能力も大事ですが、いろいろな目線で開発することが重要だと感じています。また、開発ソフトにはAndroidStudioを使ったのですが慣れるまでに少し時間がかかり、断念しそうになる生徒たちを励ましながら続けさせました。生徒たちの能力がブレークスルーするところまで頑張って指導できたことが大事だったのでは、と感じております」

──生徒たちはどのような点に苦労していたか。

吉川「私自身もそれほどAndroidStudioに詳しくないので、生徒たちそれぞれに本を見て勉強してもらいました。また、わからない箇所やエラーの原因についてはインターネットで検索して対応しましたが、日本語のページでなく英語のページしか検索できない場合もあり、英語のwebページの解読も必要でした。サンプルプログラムの作成や開発期間が短かく、国土地理院のオープンデータを使用するのも初めてで、地図やお天気API(livedoor)を生徒に使用させるにあたり避難所を地図上に掲載する場合の方針を決めことなどに苦労していたようです」

──宮崎市のアプリだが宮崎県には広げないのか。また、全国で使用可能か。

吉川「このアプリでは、宮崎市の指定緊急避難場所を668件、指定避難所を225件指定しています。来年は、彼らの後輩(1、2年生)が宮崎県全体の避難所を指定することに取り組む予定です。ただ、全国展開は厳しいと思います。地図上で避難所情報を記載するのですが、間違えて他の場所を指定すると指定した場所の方に迷惑をおかけする可能性があるからです。指定緊急避難場所だけなら国土地理院のオープンデータでも取得可能なので、もし、全国展開を考える場合は、地理院のオープンデータを活用したいと思います。このアプリは、宮崎市以外の方も登録地をデータベースに登録できるので、登録地周辺の地図を表示するのに便利だと思います。登録地は、住所でも施設名でも登録でき、その周辺の地図が表示されます」

──Androidアプリだが、今後、iPhoneアプリに展開する予定はないか。

吉川「宮崎県の皆様に広く使用していただくために必要な取り組みと考えますが、高校の部活動での取り組みでは超えなければならないハードルがたくさんあります。しかし、iPhoneアプリの開発に興味を持っている生徒もたくさんいるので真剣に考えています」

 防災アプリには「Yahoo!防災速報」や国土地理院の第2回防災アプリ賞を受賞した「goo防災アプリ」、緊急地震速報通知の「ゆれくるコール」など多種多様なものがある。吉川教諭が「宮崎県は多くの自治体が太平洋に面しており、南海トラフ大地震が来ると大きな被害が出る可能性があり、指定緊急避難所が多くあります」と言うように、地域ごとにリスクも異なれば事情も変わる。

 今回の「SHS災害.info」も地域密着型だが、高校生が災害リスクへの問題意識を持ってアプリを開発するというのは、地域の防災対策に対する影響も大きいのではないかと思う。来年の防災アプリ大賞には、いったいどこのチームがどんなアプリでエントリーするのだろうか。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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