新元号を前に“昭和芸人”黒田有の覚悟「消えても仕方ない」
時代とともに芸能人の在り方も変化している昨今、色濃く昔気質の芸人のニオイを残していると言われるのが漫才コンビ「メッセンジャー」の黒田有さん(48)です。“昭和芸人の生き残り”と言われながら平成を駆け抜けてきた黒田さんが、新元号を前に何を思うのか。そこにあったのは「消えても仕方ない」という覚悟でした。
昭和芸人
今年は新元号にもなりますし、僕は早生まれやけど、学年的にはもう今年で50歳になる年ですからね。いろいろと節目になる年ではありますよね。
元号が注目される中ですけど、昔から、周りの方によく言っていただいたのが“昭和のニオイがする芸人”ということ。自分で言うてるわけやないんですけど、そんな声はあらゆるところで聞きます。
これってね、単に年齢とかキャリアの問題ではなく、僕より先輩の方でも、そのニオイがしない人はしないんです。明石家さんまさんも、「ダウンタウン」さんも、東野幸治さんも、「ナインティナイン」さんも、きちんと時代に合わせて、時代に乗って活躍されている。
さんまさんはクラウン
車で言うたら、トヨタのクラウンって昔からずっとステータスの高さは変わらないけど、時代によって型は変わっている。そして、今でもカッコ良くて「いつかはクラウン」のイメージが保たれてもいる。さんまさんとか時代に合わせて、ずっとスターでいらっしゃる方々はこういうことなんやろうなと。
じゃ、昭和芸人というのはなんなんやというと、旧車なんでしょうね。スカイラインGTみたいな。新しくなっているわけではないんだけど、それを良しとしてくれるファンも一定数いてくださる。ま、僕はスカイラインとかそういうものではなくて、ダットサントラックみたいなもんでしょうけどね(笑)。
これはどっちがいいとか悪いということではないとは思うんですけど、一つ間違いなく言えるのは、昭和のタイプが無理に時代に合わせようとすると、オッサンが「AKB48」の曲を頑張って歌っているような痛々しさが出るんやろうなと。だから、僕は良くも悪くも、このままでやるしかないんですよ。どんな時代になろうとも。
消えることも仕方ない
ただ、この2~3年、劇的な変化を感じてもいます。僕らの下で言うたら“ゆとり世代”とか“さとり世代”とかあって、僕らの前には“バブル世代”があって、もちろん、それぞれの世代で色合いは違った。その違いというか、それぞれの色の具合は分かるんです。自分とは違うけど「あ、そういうことか」と理解はできる。ただ、今の若い人の感覚は、そこの違いとは質が違うと言いますか。これはね、僕がオッサンになったからということだけではなく、そこをはるかに超えるくらい、急速にというか、全く違う形で離れて行っている気がしてならんのです。
テレビよりもYouTube。さらにはTikTok。僕から見ると、正直、面白みがよく分からない。でも、今の女子高生は完全にそっちなわけですから。ここに「?」じゃ、もう合わないし、合わない度合いがここ2~3年は加速度的に進んでいる気がします。
もちろん、タレントさんの中でも、作り手の側でも、それを理解して面白おかしく番組やコンテンツを作っていく人もいる。そうなると、テレビはチームプレーですから、周りに合わせてもらうか、僕が合わせにいくしかない。ただ、合わせてもらうのは、僕の考えからしたら、あまりにも申し訳なさすぎる。そして、合わせにいくのも、さっき言ったオッサンの「AKB48」みたいになる。僕が素直な感覚として分からないものが主流になっていったら、どこかで僕は消えるのも仕方ないと思っています。それが、僕みたいな芸人のさだめなんやろうなと。
初の著書
ただね、今までになかった楽しみもあるんやと、この歳になって知ったこともありました。というのはね、去年の10月に初めて本を出したんです。毎日新聞でやっていた連載をまとめた「黒田目線」というエッセイ。本を出すということで、いろいろと新しい感覚を学ばせてもらいました。
エッセイですから、僕が日頃思っていることや感じていることを書いていくんですけど、何か思っていることを居酒屋で話すと自慢ぽくなったり、聞いてられないところもある。でも、これを文字で書いて文章にすると、そこの雑味がスッと消えて、なじむというか、読んでいられるようになるというか。
そして、そういう話って、だれかれ構わず話すことじゃないけれども、本になると、自分のそういう部分を無理なくいろいろな人に見てもらうことができる。番組を一緒にやっているホラン千秋ちゃんも読んでくれて、ホランちゃんは頭がいいですし、おべんちゃらを言うタイプでもないのに、僕には全く言わずに新聞の書評でこの本を薦めてくれたりもしまして。
自分があまり出していない面を本によって出させてもらって、相手も自分には見せていない面で受け取って、反応をくれる。この新しいコミュニケーションというか、人間関係の出現というのは、本を出した思わぬ効能でした。
還暦に向けて
ま、50歳がやっと見えてきたところで先の話をするのもナニですけど、60歳になったら、笑っていたいですね。僕の人生、ずっと怒ってきたんで(笑)。子どもの頃は貧乏に怒って、芸人になってからはあらゆるところに怒って。せめて、還暦の頃には笑っていたいなと。それができるかどうかは、それこそ、新元号をどう生きるか次第でしょうけどね。
ダットサンとして、皆さんにいかに愛してもらうか。ま、えてして、人に好かれるタイプではないので、これからもガタガタの道は続くと思うんですけどね。え?そこでこそ、力を発揮するダットサン?…誰が悪路映えや!ほっといてくれ、アホ!
(撮影・中西正男)
■黒田有(くろだ・たもつ)
1970年1月29日生まれ。大阪府東大阪市出身。91年にNSC大阪校10期生の同期、あいはら雅一と漫才コンビ「メッセンジャー」を結成。コンビとして上方漫才大賞、上方お笑い大賞など受賞多数。2009年12月、暴行騒動で謹慎生活を経験するも、現在は関西テレビ「ちゃちゃ入れマンデー」、読売テレビ「もんくもん」などに出演。コンビでもMBSテレビ「メッセンジャーの○○は大丈夫なのか?」、MBSラジオ「それゆけ!メッセンジャー」などに出演中。また、初の著書「黒田目線」を昨年10月に上梓。1月27日には大阪・スタンダードブックストア心斎橋で同著の発売記念トーク&サイン会を開催する。