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父になった藤山扇治郎が噛みしめる祖父・藤山寛美さんの重みと意味

中西正男芸能記者
新体制となった松竹新喜劇の中心メンバーとして思いを語る藤山扇治郎さん

 昨年、大看板であり精神的支柱でもある渋谷天外さんが代表を退き、新たな一歩を踏み出した松竹新喜劇。新体制の主力メンバーとして劇団をけん引するのが藤山扇治郎さん(37)です。喜劇王と呼ばれた故藤山寛美さん(1990年没、享年60)の孫として生まれ、伯母は藤山直美さん。祖父や伯母と比較される厳しい世界ではありますが、自らが父になって噛みしめた思いとは。

絶対にブレてはいけないもの

 昨年、渋谷天外さんが松竹新喜劇の代表から勇退され、新しい形になりました。

 藤山扇治郎、渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎という若手5人が力を合わせ、どんな公演をやっていくのか。日々それを考えています。

 これまで天外さんが代表をしてくださっていた時も、もちろん全力で公演にあたるわけですけど、あくまでも一座員というか、自分がやらないといけないお芝居だけに集中する。それも諸先輩方に助けていただきながら。そんな状況だったと思います。

 今は先ほどの5人で責任をあらゆる決断をしないといけない。どういう作品を選ぶか。どんなゲストに来ていただくのか。芝居のことだけではなく、制作とか興行という部分も考えていかないといけない。その覚悟というか、重みというか、そこは明らかにこれまでとは違う部分だと感じています。

 さらに、時代も目まぐるしく変わっていますし、身近にあるものも日々進化しています。松竹氏喜劇の名作と言っていただけるような作品が多く生まれたのは昭和30年代、40年代。その時代にはなかったスマートフォンも今は当たり前にあるし、それがない世界だとお客さまに違和感を与えてしまう。便利にはなったけれども、SNSでのトラブルのように機器が進んだからこその悩みも出てきている。

 寛美さんの時代から「芝居には現代性がないといけない」と言われてきましたが、スマートフォンのような物理的なものもだし、結婚や男女に関する考え方もそうですし、そういった要素はきっちりと取り入れる。それも今、松竹新喜劇に取り組んでいる者の役割だとも思っています。

 ただ、そんな中でも、そんな中だからこそ、絶対にブレてはならない部分もあると思っています。それが松竹新喜劇の神髄である人情の機微による“泣き笑い”。ここは大事にしないといけないし、今の世の中でこそ、ここは武器にもなると考えています。

 最近はテレビでもホームドラマが少なくなりました。刺激的だし、どうしてもお医者さん、弁護士さん、刑事さんのドラマが増える。普通の家庭で起こることを描いていくドラマが本当に減りました。

 ただ、今でも困っている人がいたら助けることは大切だし、親兄弟を大切にする気持ちがないわけはないし、結局、人と人の間にある感情。ここは今も変わらずあるんです。そこに届く松竹新喜劇というものは、今の世の中にこそ刺さるし、見てもらう意味もあると思っています。いやらしい言い方になるかもしれませんけど、今のエンターテインメントで、そこの席は空いているとも思いますし。

 僕、上沼恵美子さんがYouTubeでされている人生相談が好きなんです。上沼さんが視聴者さんのお悩みに真剣に答えていく。あれはまさに松竹新喜劇やと思っているんです。嫁姑の話、近所のトラブル、事業がうまくいかない。それに対して寄り添って、何らかの答えを出して導いていく。そこにもちろん笑いも入っている。これってまさに松竹新喜劇だし、上沼さんのYouTubeが多くの方に届いているところにも今の世の中が求めているものの答えがあるんじゃないか。そう思ったりもするんです。

父になっての気づき

 あと、個人的なことでいうと、結婚して、息子もできました。人生で「縁は大切」と幾度となく聞いてきましたけど、家族ができるとそれを痛感します。嫁さんと縁があって結婚し、これもすさまじい縁で子どもが生まれてくれた。

子どもを授かって純粋にありがたいと思いますし、寛美さんというおじいさんがいて、伯母の藤山直美さんがいて、ウチの直美さんの妹のウチの母親がいて、僕がいて、嫁さんがいて、息子がいる。ずっとつながっていくのはそもそも先祖のおかげであり、それを今自分が引き継いでいるんだ。当たり前のことなんですよ(笑)。当たり前なんですけど、その意味を今になって噛みしめています。

息子がどんな仕事をするのか。取捨選択は本人次第です。ただ、こういう家に育って、こういう環境にいる中で、自ずと嫁さんが歌の練習をしていたら歌うし、寛美さんのDVDを見ていたらひいおじいさんと同じ顔をするし(笑)。縁というものの深さを感じます。

正味の話、今は「新喜劇をやっています」と話すと「吉本興業の方ですか」とよく言われます。新喜劇と言えば吉本新喜劇。それが今の皆さんの感覚だし、それを嫌と思っているとか、そんなことではないです。ただ、新喜劇と言えば松竹もある。それをパッと思い出してくださる方の割合を増やしていく。それが僕らがやっていく上での分かりやすいバロメーターなのかなと思っています。

ただ「それをやっていこう!」と言ったところで、幾重にも簡単なことではないんですけど(笑)、できる積み重ねを続けていく。それは強く思っています。

(撮影・中西正男)

■藤山扇治郎(ふじやま・せんじろう)

1987年1月21日生まれ。京都府出身。本名・酒井扇治郎。松竹新喜劇の大スター・故藤山寛美さんの五女である母と小唄の家元である父のもとに生まれる。女優・藤山直美は伯母。6歳の時に寛美さんと親交があっ故中村勘三郎(当時・勘九郎)さんの手引きで東京・歌舞伎座で初舞台を踏む。子役として舞台やドラマに出演するも16歳で俳優業は休止。関西大学卒業後の2009年から俳優活動を再開し、青年座研究室へ入所する。13年、松竹新喜劇に入団。15年には「咲くやこの花賞 演劇・舞踊部門」を受賞した。映画「家族はつらいよ2」、NHK朝の連続テレビ小説「まんぷく」「おちょやん」などにも出演。18年、舞台共演をきっかけに知り合った元宝塚歌劇団星組トップスター・北翔海莉と結婚。20年、長男が誕生した。11月16日から24日まで大阪松竹座で上演される「11月松竹新喜劇公演」に出演する。他の出演者は渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎ら。公演情報はこちからから。https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202411shochikuza/

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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