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大相撲夏場所で新十両の栃大海 これまでの苦労と彼の魅力を、部屋で胸を出す元栃煌山の清見潟親方が語る

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
栃大海についてお話しいただいた清見潟親方(写真:筆者撮影)

大相撲夏場所は今日で6日目。今場所から新十両の土俵で奮闘する力士3名のうちの一人、春日野部屋所属の塚原改め栃大海は、5日目を終えて4勝1敗と健闘中だ。

名門・埼玉栄高校では、同期の琴勝峰、王鵬らと共にレギュラーとして活躍。入門後も順調に番付を上げたものの、幕下上位の壁を破れず約5年。今場所ようやくその殻を破って新十両昇進を決めた。入門前から栃大海の努力を間近で見てきた部屋付きの清見潟親方(元関脇・栃煌山)に、これまでの軌跡と魅力について伺った。

フィジカル強化で新十両の壁を突破

――塚原改め栃大海関。長く幕下上位にいた印象です。親方は間近でそのご苦労を見てきて、いかがでしたか。

「幕下に上がるのは早く、私が現役の頃から幕下上位にいました。そこから考えると本当に長い間頑張ってきました。苦労が花開いてよかったし、本人も『ここからがスタート』と話していましたから、まさしくその通り。上がるのは苦労しましたが、ここから一気に上がれるように頑張ってほしいですね」

――突破口となった要因は何だと思いますか。3月、二十山親方へのインタビューで、清見潟親方も稽古場でまわしを締めて胸を出しているとお聞きしました。

「コロナ禍が落ち着いて、昨年末に師匠から『まわしを締めて土俵に降りて、もっと近いところでみんなを鍛えてやってくれ』と言われ、部屋の稽古場に降りるようになりました。春日野部屋の伝統として、関取が辞めるときは一人関取に上げてから引退するというのがあったんですが、それを自分たちができずに引退してしまっていた。その歯がゆさがありました。稽古場での技術、そして気持ちの面に関しては、師匠がしっかり指導してくださっていますが、私は同時期に現役だった一番近いところで力になってあげられたらいいなと思っていました」

3日目に千代丸を破った栃大海(写真:日刊スポーツ/アフロ)
3日目に千代丸を破った栃大海(写真:日刊スポーツ/アフロ)

――コロナ禍を経て胸を出せるようになって、親方としてもより稽古に力が入ったわけですね。

「そうですね、まずは師匠から体でしっかり教えなさいという話があって、その上で一番可能性があった塚原を強くしてあげたいというところでした。特にぶつかり稽古は一番きついんですが、力士同士ではなかなかきつくしきれない部分もあるので、自分が胸を出して、腰を下ろせ、膝を曲げろと厳しくするようにしました。そうして、体をまず強くさせたい気持ちがありました」

――一番の課題はフィジカルだったのですか。

「幕下上位にいると負け越し、下がると大勝ちしてまた戻るのを繰り返していたので、緊張するタイプなんだと思うんです。力は十二分にあるのに、自信が足りない。であれば、まずは体を強くさせようと思いました。筋トレよりも、稽古でとにかく負荷をかける。自分の体を使ってもらえればいいなと。十両にさえ上がってしまえばもう、そこから気持ちや自覚が芽生えてくると思いました」

――実際に胸を合わせて、力がついてきた実感はありましたか。

「それはもう、すごいですよ。最初はきついって言っていたことも、1週間くらいするとそのきつさに慣れてきて、なんでもないようにこなせるんです。体は一回り大きくなって、圧力が増してくる。自分は、ここから体が強くなることはないんで、ずっと体が痛くて大変(笑)。だからこそ、彼が上がったときは本当にうれしかったです」

――親方の言葉通り、初日から3連勝と好スタートを切りましたね。すでに気持ちの面もできてきたのでしょうか。

「内容は決していいとはいえないんですが、前に出ようとしているなかでのいなしやはたきなので、前に出て突き出せるようになればもっといいと思います。気持ちの部分は日頃から師匠が指導してくださっていますし、付け人がついてまわしの色が変わって、部屋の看板力士になりますから、嫌でも自覚を持たざるを得ないと思います。自分からもっと強くなりたいと思うことが一番大事ですが、ここからさらに上がっていってほしいですね」

普段は「いつもニコニコ」優しい力士

――親方から見て、栃大海関の取り口の魅力はなんですか。

「基本は当たって突いていく相撲。ケガもあったので、稽古場では師匠のアドバイスで肩から当たって左をおっつけながら前に出ていくような相撲を取っています。体が大きいので、とにかくがむしゃらに前に出る相撲を取れれば、相手からすると脅威でしかないと思うので、激しい相撲を取れといつも稽古場では言っています」

――普段はどんな性格の力士ですか。

「いつもニコニコして、優しい子ですよ。子どもの面倒見もいい。彼が中学生の頃から、よくうちの部屋に稽古に来ていて、私はその頃から胸を出していました。持っている力は幕内で活躍する同期生に引けを取らないと思っています」

――今後の活躍にも期待ですね。

「たくさんのお客さんが応援してくれているので、勝ち負けよりも、栃大海らしい相撲を取り切ってほしい。そうすれば、自然と勝ち星にもつながっていくでしょう。部屋としては、あと関取は碧山しかいないので、若い子たちをもっと引っ張り上げていけるように、我々もサポートしていきたいです」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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