変わる就活ルール。新卒一括採用が無くなったらその後どうなるか?
経団連の中西宏明会長による「就活ルール廃止」発言以降、新卒一括採用の是非について議論される事が増えてきた。
「就活ルール」という言葉が独り歩きしている感も否めないが、良くも悪くも就活のあり方の一石を投じたと言えるだろう。
実際に新卒一括採用がなくなるとしたら、どうなるのだろうか?
まず参考までに厚生労働省が出す「労働白書」ではこのように言われている。
おそらく一部の優秀な上位学生達は、一括採用が廃止されようがそのままだろうが問題なく就職ができるだろう。
求職者視点で「新卒一括採用なんてなくても良い」と語るのは基本的に強者の論理なのだ。
問題は、「一括採用でなければ採用されなかった」であろう学生だ。
【 なぜ今まで一括採用が続いてきたか 】
そもそも、なぜ今まで新卒の一括採用が行われてきたのだろうか?
それは企業にとってもメリットがあるからで、具体的には下記のようなメリットが有ると考えられてきた。
[1]まっさらな状態でマインドセットしやすい人材の採用による社風形成
[2]同時期にまとめて複数名の採用選考や研修を実施することができ、バラバラの時期に個別に選考・研修を行うよりもコストメリットがあった
これらのメリットは、採用コンサルティング会社が新卒採用の実施を検討している企業に対して売り込む時の決まり文句でもある。
「自社の社風を確立し、長期的に成長する組織になるためには新卒採用は必要」
そう言われて多くの企業が新卒採用に乗り出し、ナビサイトに採用情報やインターン情報を掲載している。
[1]に関しては長期的に重要な事項ではあるが、事業内容によっては新卒者ばかり採用しても業務がうまく回らないこともある。
[2]に関しては、採用人数がそこまで多くない企業が無理をして新卒一括採用に参加するメリットは薄いと言える。
また採用競争が激化しすぎたせいで1人あたりの採用コストも上がって来ている。
「新卒採用を実施している事も一種の会社のステータス」
「新卒採用をしてこそ一人前の企業」
…などのように考えている経営者もいる。それが正しいかどうかはここでは論じないが、固定観念から新卒採用を続けてきた企業があることも事実だろう。
もちろん新卒採用のメリットを活かして成長した企業も多く、その内容自体が間違っているわけではない。
しかし自社がそのメリットを十分に享受できる企業なのかどうかについてはよく考えるべきだろう。
イケイケドンドンで新卒者を大量採用し、その後に大コケした企業も過去に多く存在する。
大コケした原因は採用方針ばかりではないが、大量採用した新卒者をうまく活用できなかった事が一因になっている事もある。
こうした固定観念を見直そうという企業側の動きが出てきているからこそ、今回の議論につながっているとも考えられる。
【就職できない/早期退職…恵まれているのはどちら?】
また会社自体は成長し続けていても、死屍累々で多数の「脱落者」を出しているケースもある。
早期離職者が出てくる事について、問題視される事も多いだろう。
「新卒者の3年以内の離職率」は採用市場においても頻繁に出てくるトピックの1つとなっている。
しかし2〜3年での離職に終わったとしても、正社員として採用され職務経験を積めただけプラスと考えることもできる。
「職務経歴が汚れた」と見るか、「職務経歴が無いよりは恵まれている」と捉えるか…。
どこを基準にして考えるかでこの話の捉え方も変わってくるのではないだろうか?
採用した新卒者が定着し、3年以上仕事し続けられるのは素晴らしいことであるが、たとえ3年以内でも職歴は職歴だ。
「卒業後も就活を続けていました」「就職できなかったのでフリーターをやっていました」というよりは次のステップにも進みやすい。
仮に新卒者の一括採用が無くなった場合、どうなるか?
大学を卒業してすぐに就職できず職務経歴がないまま就活を続けたり、薄給での見習いやインターンとしての「修行」が必要となる若年者も増えることになるだろう。
企業視点で考えるか、求職者視点で考えるかでこの議論の方向は大きく変わってしまうが、現状を見るに求職者目線での「デメリット」についてまだまだ検討が不十分であるように感じられる。慎重に議論が進んでいくことを期待したい。