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3ヵ月で4店舗が次々にオープン。ニューヨークでも「いきなり!ステーキ」の勢いが止まらない

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
新店舗。その斜向かいには、世界の“勝ち組”一風堂もあるレストラン・ロー(通り)。

私が日本で子どものころ慣れ親しんだステーキは、大きさはあれど薄い肉だった。だからアメリカに来て、ステーキハウスで初めて熟成肉のTボーンステーキをオーダーしたときに、その大きさ、厚さ、噛み応え、舌触り、香りに驚いたものだ。

アメリカ人はステーキハウスを接待やイベントでよく使うが、普段使いも比較的多く、肉の消費量は日本の比ではない。そんなステーキ王国ともいえるアメリカ、ニューヨークで、「安くて、スピーディーで、おいしい」の三拍子で勝負をかけている日本の飲食チェーンがある。「いきなり!ステーキ」だ。

いきなり!ステーキが、海外初出店のニューヨークに第1号店を出店したのは、ちょうど昨年の今ごろだった。

(1号店オープン時の記事

1号店オープン時の2017年2月、創業者であり代表取締役社長の一瀬邦夫氏は「年内に10店舗オープンする」と明言していた。しかし同年11月までに新規オープニング情報は入ってこなかった。

ところが、12月に入って堰を切ったように2号店がマンハッタンのチェルシー地区にオープン。続いて2018年1月に3号店がタイムズスクエアに、2月に入ってからもその勢いは続き、4号店、5号店が同じくチェルシーとタイムズスクエアの別の場所に連続オープンしている。

2月16日(金)、タイムズスクエア近くの「5th アベニュー店」がグランドオープンした。元ニューヨークヤンキースの松井秀喜氏をゲストに招き、午前10時30分より華々しくオープニングセレモニーが行われた。

松井秀喜氏を招いてのオープニングセレモニー。
松井秀喜氏を招いてのオープニングセレモニー。
オープニングを祝って行われたテープカットの様子。松井氏の向かって右隣が、社長の一瀬邦夫氏。
オープニングを祝って行われたテープカットの様子。松井氏の向かって右隣が、社長の一瀬邦夫氏。
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開店時間前には長蛇の列ができた。
開店時間前には長蛇の列ができた。
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テープカット後、報道陣に囲まれながらステーキを試食する松井氏。「日本のステーキって感じでおいしいです。これがアメリカ人の口に合わないはずはない」とコメントした。

店内の様子。
店内の様子。

1年前のオープン時には、立食スタイルのステーキを売り物にしていたが、新店舗では立ち食いしている人はもう見ない。全席スツール(足の長いイス)が導入されている。

調理場の様子。
調理場の様子。
ここでステーキをオーダーする。
ここでステーキをオーダーする。

ステーキは1年前と比べて、同じ重量だが肉が分厚くなるようにカットされていた。分厚い方が焼く過程でメイラード反応(化学反応の一種)により肉がさらにおいしくなるという。

Middle Ribeye ($17.75 per 200g)
Middle Ribeye ($17.75 per 200g)

社長の一瀬邦夫氏に、いきなり!ステーキの快進撃について単独で話を聞いた。

── 1号店から2号店まで10ヵ月という期間が空いたのに、2号店から5号店まで2ヵ月の間に一気にオープンしたのは、何か理由があるのでしょうか。

1号店の後も年内に5〜6店舗を一気にオープンしたかったのですが、これがアメリカでのビジネスの難しいところで、(ガスなどの)許認可関係ですぐにオープンできなかったんです。日本では昨年だけで71店舗オープンし、創業から4年2ヵ月で計187店舗となりました(2017年末時点)。日本では順調に進んだのに、アメリカでは足踏み状態で、1号店から2号店のオープンまでに10ヵ月間も空いてしまいました。こんなに期間が空いたら人々の温度が下がってくるから本来はダメなんですよ。6号店7号店...10号店...と、どんどんニューヨーカーにオープニング情報を発信することが、この店に注目してもらう秘訣だと思っています。今はやっと5店舗オープンして一安心しています。

── ちょうど1年前の1号店オープン時に、「アメリカでも立食はいけるのではないか」とおっしゃっていましたが、新しいお店でイスが導入されていますね。

お客様の声をお聞きした結果です。アメリカは、バーのカウンターで立ってお酒を飲む文化はあるけれど、ステーキというアイテムを食べるときにはやっぱりイスに座って食べた方がいい、という意見をいただきました。少数ですが「イスがないと行きたくない」という声もありました。商売をする上で、そのような意見は少数でも無視はできません。

実はイスを置くようになるかもしれないと、1号店の計画の段階で予測し、イスを置けるスペースを考えながらテーブル配置をしていました。アメリカ人は日本人より体が大きいので、それを考えて事前にスペース配分しないと、後で確保できないからです。ただイスを置かないことによって「ステーキの立ち食い」というインパクトを与えられ、足を運んでいただける動機になると思ったので、最初は立食から始めて様子を見ていました。そして実際にお客様の要望をお聞きし、1号店でイスを導入したのは、オープンから3ヵ月経たないくらいのころです。

── そのほか、1号店をオープンして、顧客の反応を見ながら改良した点はありますか。

この1年で、日本とアメリカではステーキに対する考え方がずいぶん違うことがわかりました。日本ではいきなり!ステーキが全187店舗となり、1店舗も撤退しておらず、全店が黒字です。日本でこれだけヒットしているのは、国民性の違いだと思います。もともとステーキの食文化ではない日本で、我が社は分厚いステーキを(市場平均価格の)半額にし、(焼き加減は)レアをすすめた。これまでファミリーレストランで薄いステーキしか食べたことがなければ、それは驚きますよね。いきなり!ステーキは日本人がステーキに目覚めるきっかけ作りをしたと思います。

一方アメリカでは、ステーキの食文化は成熟している。したがって我々は特徴づけないと、ただステーキを提供するだけでは顧客は飛びついてきません。今後も「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」という日本のホスピタリティー、フロム・ジャパンのDNAは崩さないようにしつつ、アメリカ人がステーキを食べに行くときにハイテンションになるよう喜びを満たすことが必要だと思っています。

具体的には、ニューヨークでは日本酒が思いのほか浸透していて、こちらの方はワイン感覚で日本酒を楽しまれるので、日本酒(冷酒)の種類を増やしました。今後はハードリカーも増やしていきたい。お酒の種類を増やすことで、提供する楽しさも増やしたいです。

改良は、今までやってきたことをある意味一部否定しているわけだから、僕がこれを言うのはすごく勇気がいることなんですが、この国で売り上げを伸ばしていきたいから、いろいろ考えなければなりません。ランチタイムは特にそう。アメリカではサンドイッチなどの軽食店が増え、レストランの売り上げが下がっている傾向にある。日本でもリーズナブルなものをスピーディーに提供できるコンビニエンスストアの数が増えている。コンビニとの差別化が、レストランには問われていることです。

それを考えるとアメリカで我が社は、ランチタイム時に20ドルちょっとで提供しているけれど15ドルくらいに落として、より気楽に食べられる価格にしないといけないと思っています。原価率は上がってしまうけれど客は得をする。お客様の得を考えることが、ビジネスとして一番大事なことなんです。お客様に勝ってもらうことで我々も勝てると思っています。

── 店舗は今のところすべてニューヨーク、しかもマンハッタンに出店していますね。

憧れなんですよ。ロッキー青木さんがここでBenihana of Tokyoで大成功されましたよね。12〜13年くらい前の話だけど、僕がセントラルパークでジョギングをしていたら、犬の散歩をしていたロッキーさんとバッタリ会ったんですよ。彼は当時、アメリカで一番有名な日本人でしたから、アメリカン・ドリームに関する彼の著書を何度も読んで、アメリカに憧れていたんです。だから突然ロッキーさんが目の前に現れて、初めて会ったのに「ロッキーさん、しばらくです!」って言ったぐらいです。僕のペッパーランチの話を聞いてくれて、「それって、ステーキのファストフードだね。ニューヨークで展開できるように一緒にやろうよ」っ言ってくれました。そのときにタイムズスクエアのマリオットホテルまでジョギングして帰りながら、テンションが上がって上がって、一生であんなに興奮したことはないくらいでした。東京に戻って手紙を書いて、ロッキーさんと奥様の青木恵子さんが東京に来たときに一緒に食事をしたりもしました。もっと長生きしてくれればよかったですけれど。

── 店舗の位置を見ると、チェルシー地区とタイムズスクエア地区で店舗同士が近くにありますが、何か理由はありますか。

紹介された場所を選んだだけで、あまり根拠はないんですよ。今年中に出す店舗の場所はもう決まっていて、今後もマンハッタンのミッドタウンが中心となり、一部ダウンタウン(ウェストビレッジ)も含みます。そのうち1店舗はベンジャミン・ステーキハウスの隣です。

── ベンジャミンと言えば東京にも進出した大人気店。その隣ということで、ニューヨークのステーキ業界がますます活性化されそうですね! 今後何店舗オープンを目指すのでしょうか。

まず日本は、2018年の1年で200店舗を出そうという計画で動いています。ニューヨークは今年中にマンハッタンに11店舗まで増やす計画で、場所も設計もすでにできあがっています。いずれ、ブルックリンやニュージャージーも視野に入れていますし、まだ全然決まっていないですが、ロサンゼルスやボストンからのオファーもあります。しかしまずは、ニューヨークのマンハッタンで店舗を増やすことが先です。ここは一番ビジネスが厳しい土地ですから。でもここでうまくいったら、全米どこに行ってもうまくいくジンクスがあるんじゃないでしょうか。

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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