22年カタール大会は「秋田国体」と同じ規模感? ロシアとはまったく異なる4年後のワールドカップ
ロシアでのワールドカップが終わった。サッカー界が新たな4年サイクルに入る中、次のワールドカップ開催地であるカタールについては、実はきちんとイメージが共有されていないように感じる。モスクワの空港やサンクトペテルブルクの観光地には、カタール大会をPRする映像が流れていたが、もちろんそれらはかの国の「理想化されたイメージ」でしかない。では実際のところ、カタールで開催されるワールドカップは、どのような大会になるのだろうか?
まず言えるのは、あらゆる面で今大会と異なる様相を呈した大会になる、ということだ。ロシアとカタールとの数少ない共通点としては、治安が悪くないこと、そして日本との時差がマイナス6時間であること(モスクワ時間と同じ)、これくらいだろう。今大会を現地観戦した人は、その多くがロシアの意外な魅力や快適さに驚いていたが、カタールについてはあまり多くを期待しないほうがよさそうだ(もちろん、後述するような「ポジティブな面」もあるにはあるが)。
カタール大会については、開催まで4年もあることから、まだ明らかになっていないことも多い。そこで本稿では、次回の開催国と大会概要を整理した上で、われわれファンにとってどんなワールドカップとなるのか、現時点で把握できる情報の範囲で考察していきたい。
●12会場のうち6会場が首都・ドーハに集中
アジアでは2002年の日韓大会以来2度目、中東では初めてフットボールの祭典を開催するカタール。その国土はアラビア半島上部、ペルシャ湾に食い込むように屹立する半島にあり、およそ260万人が暮らしている。ただしカタール国籍を持つ国民は全体の13%に過ぎず、残りはインド、パキスタン、ネパール、フィリピンなどの外国人労働者。ちなみに人口のおよそ8割は、首都のドーハに暮らしている。
注目すべきは国の面積。「1万1437平方キロ」と言ってもピンとこないだろうが、日本で言えば秋田県(1万1610平方キロ)と同じくらいである。秋田といえば07年に「秋田わか杉国体」が開催されたが、まさにその規模感でワールドカップが開催されることになるのだ。ちなみに次回大会は12のスタジアムで開催されるが、その半分の6会場がドーハに集中している。
試合会場は、最も大きいものがルサイルに新設されるスタジアムで、8万6230人収容。それ以外は4万人台から2万人台の間である。カタールの国内リーグの平均入場者数は5000人と言われているが(実際はもっと少ないだろう)、ただでさえ人口が少なく、さほどサッカーが盛んとも言い難い国で、これらの競技施設がレガシーとなり得るのかは疑わしい。いずれにせよ秋田県と同じくらいの国土で、ロシア大会と同じ12会場64試合を何とか詰め込んで行われるのが、次回のワールドカップなのである。
●ワールドカップ史上初となる「11月開催」
カタール大会の開催期間は、22年の11月21日(月)から12月18日(水)まで。「史上初の冬開催」という表現もあるが、南半球での大会も冬開催だったので、「史上初の11月開催」という表現が正しい。なぜ従来の6月開催ではないかというと、その時期のカタールの平均最高気温は40度(最低でも30度)を超えるからだ。これが11月下旬になると、平均気温は最高で29度、最低で19度くらいにまで下がる。プレーヤーズ・ファーストで考えるならば、開催時期をずらすしかなかった。そのしわ寄せは、当然ながら各国の国内リーグに向かう。
11月21日から12月18日といえば、ちょうど欧州のリーグ戦の折返し地点。また、今季の欧州チャンピオンズリーグのスケジュールと重ねると、グループステージの第5節(11月21・22日)、第6節(12月5・6日)にバッティングする。この時期のワールドカップ開催は、日本にとってもスケジュール変更は避けられそうにない。天皇杯は何とかなりそうだが、Jリーグはこの時期は優勝争いがまさに佳境。開幕を早めるか、あるいは閉幕を遅らせるしかないだろう。
開催期間に関して、もうひとつ気になるのが日程が詰まっていることだ。ロシア大会は合計32日間だったが、カタール大会は28日間。なんと4日間も少ない。短縮された理由は不明だが、試合数は変わらないのでノーマッチデーを削ることになるのだろうか。ロシア大会はノーマッチデーが合計7日間あったが、もしもこれが3日間に圧縮されるとなると、ノックアウトステージはかなりの過密スケジュールとなるはずだ。開催時期をずらして酷暑を回避しても、選手への負担はむしろ増えることが懸念される。
●「試合オリエンテッド」なファンには理想的だが
ではカタール大会は、われわれにとってどれだけ快適で楽しめるワールドカップとなるのだろうか? 現時点で言えるのは「純粋に試合観戦だけが目的なら、それなりに楽しめる」ということだ。
実はカタールは、日本から比較的気軽に行ける、数少ない中東の国である。ビザに関しては、入国審査時に30日間の滞在許可が無料で取得できる。またカタール航空の直行便が出ており、行きは11時間20分、帰りは9時間30分。長期休暇が取れなければ、2往復するという手もある。さらに、国内移動の負担が少ないのも魅力だ。最北のマディナ・アッシュ・シャマルから最南のアル・ワクラまでは車で2時間以内だし、そもそもドーハに6会場もあるのだから1日で2試合をハシゴするのも十分に可能だろう。英語もそれなりに通じるので、現地でのコミュニケーションに困ることもない。
いわゆる「試合オリエンテッド」なサポーターであれば、カタール大会はありがたいものに感じられるかもしれない。だが、ワールドカップに旅の要素を求めているサポーターには、いささか物足りない大会となりそうだ。どの会場もだいたい同じ風景だし、食事も変わり映えはしないし、観光スポットも限られている。初めて中東を訪れた人でも、1週間も滞在すれば飽きてくるかもしれない。またイスラムの国ゆえに、大っぴらにビールが飲めないのも(私のような酒飲みには)辛いところだ。
だが、それ以上に懸念されるのが宿泊の問題である。ドーハを拠点にすれば、すべての会場をカバーできてしまうので、当然ながら現地のホテル価格は高騰するだろう。ロシア大会では海外から100万人以上のファンやサポーターが訪れたが、ドーハのホテルの客室数は1万6000程度と言われており、絶望的なまでに不足している。カタールの政府観光庁や大会組織委員会は、「大型客船をホテル代わりに使用する」とか「ファンのためのテント村を作る」といったアイデアを発表しているが、それだけで解決できる問題とは到底思えない。
いずれにせよ、ロシア大会のイメージそのままにカタールに向かうと、いろいろと面食らうことになるのは間違いなさそうだ。4年後の現地観戦を考えている方は、(特に宿泊に関して)早い段階から情報を集めておくことをお勧めする。
※写真はすべて著者撮影
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