Yahoo!ニュース

二重の意味で感慨深い神戸の優勝と決勝の日程に思うこと(天皇杯決勝:ガンバ大阪0-1ヴィッセル神戸)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
今年の天皇杯優勝はヴィッセル神戸。宮本恒靖JFA会長からカップを受け取る山口蛍。

 プロ・アマ問わず、日本サッカー界のナンバーワンを決めるトーナメント大会、天皇杯 JFA 第104回全国日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)。5月25日から半年かけて行われた大会は、11月23日に決勝を迎えた。

 決勝の舞台となる国立競技場のピッチに立ったのは、ガンバ大阪とヴィッセル神戸。関西勢同士のファイナルは、1953年(第33回)大会の大阪クラブvs全関学以来、実に71年ぶりである。まずは試合の模様から振り返ってみたい。

天皇杯設置セレモニーに登場したのは、元日本代表の松本育夫さん。東洋工業時代に3回の優勝を経験。
天皇杯設置セレモニーに登場したのは、元日本代表の松本育夫さん。東洋工業時代に3回の優勝を経験。

G大阪と神戸の関西対決。J1での順位は神戸が1位でG大阪は4位。勝者には来季ACLEの出場権が得られる。
G大阪と神戸の関西対決。J1での順位は神戸が1位でG大阪は4位。勝者には来季ACLEの出場権が得られる。

最初にチャンスを掴んだのはG大阪。10分、ダワンのヘディングシュートは神戸GK前川黛也に防がれる。
最初にチャンスを掴んだのはG大阪。10分、ダワンのヘディングシュートは神戸GK前川黛也に防がれる。

神戸は今大会、初めて大迫勇也と武藤嘉紀がスタートから揃い踏み。何度かチャンスを迎えるも得点ならず。
神戸は今大会、初めて大迫勇也と武藤嘉紀がスタートから揃い踏み。何度かチャンスを迎えるも得点ならず。

神戸の先制点は64分。自陣からのロングボールを起点として、相手GKのこぼれ球を宮代大聖が押し込む。
神戸の先制点は64分。自陣からのロングボールを起点として、相手GKのこぼれ球を宮代大聖が押し込む。

この日、守備面で貢献していたのが酒井高徳。とりわけウェルトンとのマッチアップでは、終始相手を圧倒。
この日、守備面で貢献していたのが酒井高徳。とりわけウェルトンとのマッチアップでは、終始相手を圧倒。

76分、G大阪はファン・アラーノのクロスからダワンが頭で反応するも、わずかに枠の右へ外れてしまう。
76分、G大阪はファン・アラーノのクロスからダワンが頭で反応するも、わずかに枠の右へ外れてしまう。

G大阪の必死の追撃も虚しく、神戸が見事に1点を守りきって試合終了。5大会ぶり2回目の優勝を決める。
G大阪の必死の追撃も虚しく、神戸が見事に1点を守りきって試合終了。5大会ぶり2回目の優勝を決める。

初タイトルとなった2020年の元日と比べて、今大会の神戸はサポーターにも王者の風格が感じられた。
初タイトルとなった2020年の元日と比べて、今大会の神戸はサポーターにも王者の風格が感じられた。

9大会ぶりの優勝は成らなかったG大阪。宇佐美貴史の負傷欠場は痛かったが、最後まで神戸を苦しめた。
9大会ぶりの優勝は成らなかったG大阪。宇佐美貴史の負傷欠場は痛かったが、最後まで神戸を苦しめた。

そして見事、2度目の天皇杯を獲得した神戸。吉田孝行監督はリーグとの2冠達成をサポーターに誓った。
そして見事、2度目の天皇杯を獲得した神戸。吉田孝行監督はリーグとの2冠達成をサポーターに誓った。

 神戸の天皇杯優勝は、2019年(第99回)大会以来、2回目である。鹿島アントラーズに2−0に勝利し、初タイトルを獲得。また、この試合は、国立競技場のこけら落としでもあった。当時を知る者として、今回の神戸の優勝は二重の意味で、感慨深いものであった。

 まず、この日の神戸が、実に王者然とした戦いぶりを見せていたこと。5年前の決勝では、相手が常勝軍団の鹿島だったこともあり、純然たるチャレンジャーであった。それが昨年のJ1初制覇、さらにはアジアでの戦いを経て、タイトルに見合った風格あるクラブに進化していた。

 そしてもうひとつが、神戸の初戴冠のタイミングが、パンデミック直前であったこと。続く2020年(第100回)大会は、中断期間の影響でJクラブ勢は、準々決勝から4クラブ(J1の1位・2位、J2とJ3の1位)のみの出場となった。当然ながら入場制限があり、声出し応援も禁止されていた。

 わずか5年の間に、神戸というクラブがこれだけ急成長し、天皇杯という大会もコロナ禍以前の盛況を取り戻した。今回の神戸の優勝が、二重の意味で感慨深い理由は、ご理解いただけたと思う。

 最後に、天皇杯決勝の日程に関して、個人的に思うところを指摘しておきたい。

 今大会の決勝は11月23日。J1が残り2節、J3が1節、J2がプレーオフを控えていた。当該クラブ以外のサッカーファンには、そちらのほうに気もそぞろだったはずだ。加えて同月の2日には、YBCルヴァンカップ決勝が、同じ国立競技場にて開催されている。結果、天皇杯が埋没してしまった感は否めない。

 リーグカップと天皇杯の違いなど、サッカーファン以外にはなかなか伝わらないだろう。実際、天皇杯決勝のニュースバリューも低く、NHKの夜のニュースでは大相撲に次ぐ扱いであった。あれだけ試合会場が盛り上がっていただけに、非常にもったいない話である。

 過密日程の解消が喫緊の課題となっている今、元日開催が現実的でないことは認める。ならばせめて、Jリーグのすべての試合が終わった週末(今年であれば12月14日)での開催は、考えられなかっただろうか。シーズン移行後のことも含めて、主催者側にはぜひとも検討をお願いしたい。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

宇都宮徹壱の最近の記事