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国連「表現の自由」に関する特別報告者が突然来日を延期。日本政府が土壇場でキャンセル

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長
国連ウェブサイトをスクリーンショット・国連特別報告者の日本訪問が合意されたと明記

■  突然の公式訪問のキャンセル

国連「表現の自由」に関する特別報告者デビット・ケイ氏(米国人・国際法学者)が、12月1日より8日まで日本への公式訪問調査を予定されていました。

国連のオフィシャルなウェブサイトに日の丸マークで、

Agreed with dates from 1 December 2015 to 8 December 2015 (訳:2015年12月1日から8日の日程で合意された)

と記載されています。受入国政府との間で合意されたということを意味し、受け入れ合意がないものはこのウェブサイトには掲載されません。

国連「表現の自由」に関する特別報告者といえば、2013年に特定秘密保護法が多くの反対を押し切って国会で通過した前後の時期に、前任者であるフランク・ラ・ルー氏が、国民の知る権利や報道の自由を脅かす危険性がある、ということで強い懸念を表明し、日本政府に対して再考を求めたにもかかわらず、政府がこうした国連の声を全く顧みずに、採決に進んでしまった経緯があります。

それに加え、最近日本では、メディアに対する公権力の介入とみられる事態が続き戦後かつてないほど、言論・表現の自由・報道の自由が危機に晒されているといえるでしょう。

こうした状況もあり、国連「表現の自由」に関する特別報告者の来日はまさに時機を得たものだと言えるでしょう。

ところが、驚いたことに、つい最近になってこの公式訪問が日本政府の都合でキャンセルになったとのことです。

前代未聞のことで私はとても驚きました。

ケイ氏自身が11月18日付のTwitterでDisappointedとこのキャンセルについてつぶやき、多数リツイートされるなどして既に国際的にも問題になっています。

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■ どうしてキャンセルなのか

ではどうしてキャンセルなのでしょうか。デビット・ケイ氏本人が事情を説明しています。

彼のブログを英語ですが紹介しましょう。

During my presentation before the Third Committee of the General Assembly in October, I was able to announce that the Government of Japan had issued me an invitation to conduct an official visit from 1 to 8 December. A visit would be an important moment to evaluate certain aspects of freedom of expression in the country, such as the implementation of the 2013 Act on Specially Designated Secrets (about which the Human Rights Committee expressed concern last year), online rights, media freedom, and access to information.

・・これを和訳してみますと、

「10月に国連総会第三委員会でプレゼンテーションをした際、私は日本政府が、12月1日から8日にかけての私の公式訪問に対する招待を日本政府から受け取ったことをアナウンスすることが出来た。この訪問は、国連自由権規約委員会が昨年懸念を表明した2013年制定の「特定秘密保護法」の実施、インターネット上の権利、報道の自由、知る権利などの日本の表現の自由に関する一定の側面を評価する重要な機会となりえただろう。」ということです。

この文章は以下のように続きます。

We had been deep in the work of setting up meetings and preparing for the visit. Unfortunately, last Friday, the Permanent Mission of Japan in Geneva indicated that my visit would not take place as the Government would not be able to arrange meetings with relevant officials. The Government suggested postponing the visit until the fall of 2016.

I asked the Japanese authorities to reconsider their decision, but the Mission confirmed to me yesterday that the visit will not go forward and is now canceled.

・・これを和訳してみますと、

私たちは、会合の設定や訪問準備に深く関与してきた。先週金曜日、残念ながら、ジュネーブの日本政府代表部は、関係する政府関係者へのミーティングがアレンジできないため、訪問は実施できないと伝えてきた。日本政府は、2016年秋まで訪問を延期すると示唆した。私は日本政府当局に対し、彼らの決定を再考するように要請した。しかし、ジュネーブの日本政府代表部は昨日、公式訪問は実施できず、今やキャンセルされたと確定的に伝えてきた。

■ 浮かび上がる疑問

しかし実に不思議な話です。10月段階ですでに日本政府は公式訪問をOKしていたのです。その段階で、ミーティングがアレンジできないという事情はなかったはずでしょう。そのような事情があれば、OKを出す前に伝えるはずです。

実は福島原発事故後に国連「健康に対する権利」特別報告者のアナンド・グローバー氏が来日調査を行いましたが、2011年秋に訪問したいと言ったところ、日本政府は「まだ震災復興で日本全体が大変な状況で、対応できません」と述べて一年延びたことがあります。

今回は特にそのような事情もなく、10月時点でOKを出していたわけで、なぜ事情が変わったのでしょうか。

また、12月1日から8日までという長い間いるわけですから、政府関係機関とのミーティングがアレンジできないというのも不思議な話です。表現の自由を所轄する政府機関はどこで、誰が会えない、会いたくないといったのだろうか、というのも疑問です。

政府一丸となって、国連と会わないぞ、という姿勢を徹底しているのでない限り、会えないという理由を合理的に説明することは困難なように思われます。

共同通信等の配信記事によれば、

外務省は「予算編成などのため万全の受け入れ態勢が取れず、日程を再調整する」と説明している。

とのことです。しかし、外務省のウェブサイトを見る限り、ひっきりなしに要人が訪れ、もっと予算に関わりそうな話を展開している模様。なぜこの件だけ、事前にOKしたのに、予算を理由に断るのか、理解が出来ません。

そして、予算が理由であれば、なぜ来年秋までひっぱる理由もないはずで、もっと早期にリスケジュールできるはずです。

是非、国会で背景事情を質問するなどして聞いていただきたいところですが、臨時国会も開催されていないため、何もできない状況で、様々な意味で日本の現在の状況を象徴する事態となってしまっています。

■ 民主主義国として極めて異例な対応

日本は、国連の特別報告者によるいかなる調査も受け入れるオープンな国であるという表明を2011年に出しており、このことは国際社会から高く評価されてきました。

ところが今回、国連の公式訪問に対して正式なInvitationを出しておいて、2週間前に断るという、通常あり得ないことになったわけです。独裁国家ならいざ知らず、国連と合意した公式訪問調査日程をドタキャンするというのは普通の民主主義国、人権を大切にする国ではほとんど例を見ない、極めて遺憾なことです。

近年、日本政府が国連の人権機関からの勧告に従わないどころか、敵対的な姿勢を示すことがしばしばであり、国際的にも問題視されつつあります。そうした歴史に新たな負の一ページをつけ加えてしまうことはとても残念です。

特定秘密保護法や政府の言論介入など、最近の政府の対応に対しては、厳しい勧告が出ることが予想されますが、仮に、厳しいことを言われたくないので調査を拒んだとすれば、あまりに幼稚というべきではないでしょうか。

日本政府には国際社会との人権に関する対話の道を閉ざす方向に進んでほしくない、と切に願います。

また、国連特別報告者の来訪というのは大変貴重な予算や資源を使った重要な機会であるのに、それを無駄にしてしまったということも考えてみなければならないでしょう。

表現の自由に関しては、日本以外にもとても深刻な問題を抱えている国もあります。こんな直前のドタキャンでなければ、ほかの国に行けたかもしれないのに、結局貴重な訪問枠を潰してしまったことになるわけです。

海外の深刻な言論弾圧に関する活動もしている私たちヒューマンライツ・ナウとしては、そうしたことにも思いを馳せざるを得ません。

■ メディアこそ、もっと取り上げるべきでは。

ケイ氏のブログはこのように終わっています。

Of course, I hope that the visit will be rescheduled. In the meantime, we will continue to engage with the Government as we do with all governments through regular communications, meetings in Geneva and New York, and other opportunities as they arise.

和訳すれば・・もちろん、私も新しい訪問日程のスケジュールが決まることを希望する。同時に、日常的な意思疎通や、ジュネーブ、ニューヨークでの会合やその他の機会を通じて、日本政府には他の政府と同様に関与を継続していく。

とのことですね。

NGOの間でも外務省に問い合わせたり、早期訪問を求めるなど、相談をしているところです。

しかし今回の問題はメディア、表現の自由に関わること、日本のメディアこそが、こうした事態をきちんと報道したほうがいいのではないでしょうか。

そもそも、高度な言論・表現の自由が保障されてきた日本で、報道の自由、言論の自由が危機的な状況に陥り、国連が心配して調査に入るような事態になってしまったこと自体深刻に受け止めるべきです。そして、その調査についても政府が突然ドタキャンしてしまう、そのような動きも報道せず、スルーするということで、果たして権力へのチェック機能がきちんと果たせるのでしょうか。

政府のあり方も、メディアのあり方も、問われています。

参考:

共同通信         

特定秘密保護法座談会

ヒューマンライツ・ナウ  

政府・与党による言論の自由への介入を許さないトークイベント  

海外から見た日本の言論の自由

【声明】「政府・政権与党による言論の自由への介入に抗議する」

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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