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相手の棄権により生き残ったYouTuberファイター

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 8月7日にマディソン・スクエア・ガーデンで行われる予定だったYouTuber、ジェイク・ポールとハシーム・ラクマン・ジュニアとのクルーザー級8回戦がキャンセルされた。

 まずはラスベガスで調整していたラクマン・ジュニアの、公開練習時の言葉をお伝えしよう。現地時間7月27日のものである。

Al Powers/SHOWTIME
Al Powers/SHOWTIME

 「素晴らしいキャンプだった。我がチームのメンバー全員にお礼を言う。陸上コーチ、体力コーチ、コンディショニングコーチ、皆さんそれぞれが俺を支えてくれた。栄養士も食事に気を遣ってくれた。全員で勝ちに行く。

 ラスベガスにいるってことが、最高さ。キャンプのために家族でベガスに来て、試合に備えた。この場所が好きだし、愛すべき人から数え切れないほどのサポートを受けた。これ以上ない地からボクシングのメッカに移動してファイトするなんて、まるで詩のような現実だよ。

Al Powers/SHOWTIME
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 こんなに早くマディソン・スクエア・ガーデンで戦えるなんて思いもしなかった。でも、正式に契約し、その日がやってくる。やるしかないよな。

 父がレノックス・ルイスをKOしたような内容になると思う。俺は上を狙っているんだ。そう、世界タイトルさ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20220721-00304917

Al Powers/SHOWTIME
Al Powers/SHOWTIME

 ジェイク・ポールが俺について何を話そうがどうでもいい。この試合に対して、俺は自信が漲っている。ヤツとはレベルが違う。俺を相手に選んだことは過ちだよ。

 カネを産むヤツの倫理観は認めるし、尊敬に値する。でも、野郎はボクシングを馬鹿にしているよな。彼が偽物だってことを証明してやる。ジェイク・ポールはリングで眠ることになるさ」

Al Powers/SHOWTIME
Al Powers/SHOWTIME

 この時、ラクマン父も次のように発言した。

 「ジェイク・ポールをKOすることが楽しみでならない。実際に試合が始まれば、ヤツは勝てないと思い知らされる筈だ。あるいはリングから逃げ出そうと考えるかもしれない。ボクシングは、ヤツが考えているほど簡単なじゃない。目を覚ますことになるだろう。

 ヤツにどの程度のパンチ力があるかとか、右に威力があるとか無いとか、あるいは息子の顎がいかに強いかなどあまり関係がない。ヤツがKOしたシーンも見たが、特に注目すべき点は無かった。まだまだノックアウトファイターとは感じないよ。

 私はKOに拘らなくてもいいと感じている。我々のスキル、ボクシングIQを味わうがいい。タイミングはスピードを上回る。それで、より大きな相手、強い相手に勝ってきた。こちらにはリーチのアドバンテージがある。距離を上手く使って試合をコントロールするよ。彼に困難を与え、ボクシングがいかなるものであるかを教えようじゃないか。息子はどんなスタイルだって可能だからな。この試合をボクシングに捧げたいね」

ジュニアが10歳だった頃(白いシャツ)
ジュニアが10歳だった頃(白いシャツ)写真:ロイター/アフロ

 だが、現地時間7月30日、ラクマン・ジュニアが体重を落とせないことを理由に、試合は中止となった。

 ラクマン・ジュニアとポールは、200パウンドでの試合に合意。ラクマン・ジュニアは7月5日に契約書にサインしたが、4週間強かけて体重の10%以上は減量しない条件だった。

 7月7日の時点で、ラクマンの体重は216パウンド。ここから16パウンド(7.25kg)絞る予定だった。「問題なく落とせる」とラクマンの栄養士が語っている等と公式に発表されていた。

 しかし、この24日間で、僅か1パウンドも落とせなかったとラクマンが主張。ニューヨーク州アスレティック・コミッションは、205パウンド以下なら試合を実現させる方向で動くとし、ジェイク・ポールも同案を受け入れる。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ところが、ラクマン・ジュニアは205パウンド案を蹴り、「215パウンドでなければ試合をしない」と現地時間30日に発言。プロモーターは、7日のイベントを潰すしかなくなった。

Al Powers/SHOWTIME
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 「24日間のキャンプで1パウンド(0.45kg)も体重が減らなかった」なるラクマン・ジュニアの言葉を鵜呑みにする人間はいないだろう。元々、戦う気持ちが無かったのか。あるいは何か生じたのか。いずれにしてもYouTuberにネタを提供しただけで終わってしまった。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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