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ガンを克服した元世界ミドル級チャンプのカムバック

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:Shutterstock/アフロ)

 7月6日、WBA、IBFと2度ミドル級世界王座に就いたダニエル・ジェイコブスが2年5カ月ぶりにリングに復帰する。対戦相手は、シェーン・モズリー・ジュニアだ。

写真:Shutterstock/アフロ

 37歳のジャイコブスは、ガンを克服した男として有名だ。24歳だった2011年3月、彼はファーストラウンドでロバート・クリーワーから2度のダウンを奪い、1分44秒でKO勝ちを収めた。当時、22勝1敗だったジェイコブスは、未来のチャンピオンとして将来を嘱望されいた。ところが、クリーワー戦の数週間後にイラクにいた米軍を訪問した際、左足に痛みと疼きを感じる。

 「当初、医師たちが誤診したんだよ。神経が圧迫されていると言われてね…。以後、悪化し、腫瘍が神経の働きを遮断していった。そして、2週間後には麻痺するようになってしまった」

 緊急搬送されたジェイコブスがMRI検査を受けると、脊椎に腫瘍が見付かる。

写真:ロイター/アフロ

 「2度目に病院に行った折、ようやく正確にどこが病んでいるのかを特定することができたんだ。『君のキャリアは終わった』って告げれられた。幸運だったのは、背中の手術を受けることが出来たことだね」

 2011年5月、ジェイコブスは生命を脅かすレベルの骨肉腫と診断される。即、癌性腫瘍を除去するための大手術を含む治療がスタートした。脊椎外科の第一人者であるロジャー・ハートル博士と彼のチームは、3次元画像を使用して、ダニエルの脊椎を調べ上げる。チーム・ハートルは手術でジャイコブスの腫瘍を除去し、脊柱の損傷したエリアを再建した。

写真:ロイター/アフロ

 そして、19カ月後にカムバックを果たしたジェイコブスは、6連勝してジャロッド・フレッチャーを破り、WBA世界ミドル級チャンピオンとなる。2014年8月9日のことだ。同タイトルを4度防衛するも、2017年3月18日に統一ミドル級戦としてゲンナジー・ゲンナジーヴィッチ・ゴロフキンと対戦し、判定負けを喫する。

 2試合を挟んだ2018年10月27日にはIBF同級タイトルを獲得し、その半年後にWBA/WBC王者、サウル・“カネロ”・アルバレスと対峙する。この時も判定で敗れ、無冠となる。カネロ戦後、3度リングに上がり、2勝1敗。2022年2月12日にジョン・ライダーにスプリットディシジョンで敗れてからは、このままリングを去るのかと思われた。

写真:ロイター/アフロ

 カムバック戦が決まったジェイコブスは語った。

 「自分が一番愛すること---リングに戻ることが、待ち切れない。ずっとトレーニングを続けてきた。元気を取り戻したし、再びトップを目指す準備は出来ている。素晴らしい相手だけれど、この戦いはスタイリッシュに終わらせるから、瞬きしないようにね」

 病に打ち克った強靭なハートを、今回ジェイコブスはどう見せるか。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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