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4冠統一ヘビー級チャンピオンが返上した赤いベルト

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:ロイター/アフロ)

 5月18日にヘビー級タイトルを統一したオレクサンドル・ウシクが、IBFタイトルを返上した。12月21日に予定されたタイソン・フューリーとの再戦は、3本のベルトを懸けての戦いとなるようだ。

 IBFは9月21日に英国・ウエンブレーで、暫定王者ダニエル・デュボアと元チャンピオンであるアンソニー・ジョシュア戦をヘビー級タイトルマッチとして組んだ。

写真:ロイター/アフロ

 このほどウシクは、SNSに次のように書いた。

 「アンソニー・ジョシュア、そしてダニエル・デュボアよ、IBFのベルトは2024年9月21日にお前たちへ贈ったよ。世界は強い者を愛している。お前らの友であり、誰もが認めるヘビー級チャンピオンであるオレクサンドル・ウシクより」と。

写真:ロイター/アフロ

 ウシクにしてみれば、統一王座を手にしたことで、己の実力は証明した。IBFの指名試合ではなく、最もカネになる相手、フューリーとのリマッチを優先したい、といったところであろう。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 昨年7月29日に、4冠統一ウエルター級タイトルマッチで、エロール・スペンス・ジュニアを9回KOで下して統一王者となったテレンス・クロフォードの勝ちっぷりは記憶に新しい。世界中のボクシングファンが同ファイトに注目した。しかし、IBFは11月にクロフォードからウエルター級タイトルを剥奪し、暫定王者だったジャロン・エニスを正規王者に据えた。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 WBO王者だったクロフォードがスペンスに勝利し、IBFを含む3本のベルトが移動した後、赤いベルトの団体は4冠王者に対し、エニスとの防衛戦交渉を命じ、9月24日までに結論を出せとした。発令したのは8月25日のことだった。つまり、クロフォードがスペンスを下し、勝利の余韻に浸っていた時期である。

 元々、クロフォードとスペンスのファイトはリターンマッチを行う前提で話し合われており、敗者は再戦の権利を主張できることになっていた。が、IBFだけはこれに異を唱え、自団体の防衛戦開催を優先せよ、という姿勢を崩さなかった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 とはいえ、スペンスがIBF王座に就いていた2017年5月27日から昨年7月29日までの6年強の間に指名挑戦者を退けたのは、2018年6月のカルロス・オカンポ戦のみだ。御存知のように、スペンスは交通事故、網膜剥離での治療でブランクを作っている。その間、IBFは暫定王者を作らなかった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 赤いベルトを失ったクロフォードは言った。

 「別にIBFなんて気にしちゃいない。クソ食らえだ。俺はヤツらに怒りは無い。知っているよな? 俺は必要なものをすべて手に入れたんだよ」

 Undisputed王者誕生は盛り上がるが、維持するには様々な問題が生じる。また、これだけ世界チャンプが増えると、ベルトに実力が伴わない存在も出てくる。ただ、これだけは言えよう。ファンが見たいのは、真の実力者のファイトだ。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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