2ゴールを挙げたセレソンのエースの苦悩
コパ・アメリカでの初戦、コスタリカを相手にしたゲームで0-0のドローと不甲斐なかったブラジルは、パラグアイ戦でも獲得したPKを外し、先制点のチャンスを自ら消していた。どうしても、波に乗れなかった。
そんなムードを断ち切ったのが、セレソンの背番号7、ヴィニシウス・ジュニオールだった。左サイドでレインボーフリックを披露してパラグアイDFをきりきり舞いさせていたヴィニシウスだが、35分と50分にゴール。実力を見せ付けた。
レアル・マドリードの主力として活躍中のヴィニシウスは、2018年からラ・リーガでプレーしている。2000年7月12日にリオデジャネイロ州サンゴンサロで生まれた彼は、フラメンゴの下部組織で育ち、トップチームに昇格。ジーコが歴史を作ったフラメンゴで50試合に出場後、スペインに渡った。
ネイマールを継ぐブラジルのスーパースターと注目されるヴィニシウスは、一流選手であることから相手チームのサポーターに恨まれ、差別的な視線や暴言を吐かれてきた。2023年5月21日にバレンシアのメスタージャ・スタジアムで行われたゲーム中にも人種差別を意味するチャントが起こり、カナリアの7番は心を痛め、失意の涙にくれた。
同行為を重く見たスペインサッカー界は人種差別行為におよんだ3名に対し、法の下に裁きを受けさせることを決める。その結果、8か月の懲役と2年間のサッカー試合観戦禁止という判決が下った。
有罪判決を受けた3人は、人種差別に基いた状況悪化に伴う道徳に関して深刻な問題があるとされた。スペインで、サッカー選手への人種的虐待で有罪判決が出されたのは、初めてである。
ヴィニシウスは、自身を虐待した3人のバレンシアファンが収監された後、人種差別との戦いを続けると誓った。同判決に対し、ヴィニシウスは語った。
「多くの人が無視しろ。時間の無駄だ、サッカーに専念しろと言ったが、私はサッカー選手であると同時に人種差別の被害者なんだ。スペイン史上初の有罪判決は私のためにあるんじゃない。すべての黒人のためのものだ。人種差別主義者たちがこうした言動を恥じ、物陰に隠れることを祈る」と。
23歳のテクニシャンFWの主張は、あのモハメド・アリに通じるものがある。レインボーフリックも2ゴールも、ヴィニシウスファンの溜飲を下げた。それは、背番号7の苦しみ、涙の意味を知っているからだ。