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「スマホを持ってるだけでNHKは受信料を取っていい」と発言した有識者は一人もいない

境治コピーライター/メディアコンサルタント
(写真:イメージマート)

4月27日に行われた総務省の有識者会議について、産経新聞が以下の記事を公開した。

ネット時代のNHK財源は「受信料収入」で 総務省有識者会議(4/27 18:04配信 産経新聞)

私もこの会議(公共放送ワーキンググループ)を傍聴していたが、私が聞いたのとずいぶん印象が違う見出しだったので驚いた。2時間にも及ぶ会議を短く要約したせいか、誤解を生みかねない見出しに思える。実際、ネットでは「有識者はスマホ所持なら受信料を取ると意見が一致した」などと誤解したTwitterの投稿や記事を引用した別の記事が飛び交っている。産経の記事にはよくよく読めば誤りはないが、見出しに続けて読むと誤った受け止め方をしてしまうのも当然なので解説しておきたい。

産経の記事では・・・

NHKの財源として、スマートフォンなどを含めて受信できる環境にある人に費用負担を求める「受信料収入」が望ましいとして意見が一致した。

会合では、見たい人だけが対価を払うサブスクリプション収入▽広告収入▽税収入―の3点も提示されたが、公共性や独立性への懸念が指摘された。また、スマホ所持だけで課金するのではなく、アプリを入れるなど能動的な行動をした人から負担を求めるべきだとする見方が多数を占めた。

と書かれている。これはどこにも誤りはないのだが、私の感覚としては極端に要約しすぎている。前半と後半での2つの議論を一緒くたに並べてしまっているので、見出しと併せて読むと誤解を生むのも仕方ないと感じた。

会議では前半に、こんなパワーポイントが示された。

総務省「公共放送ワーキンググループ(第7回)配布資料」より
総務省「公共放送ワーキンググループ(第7回)配布資料」より

これは「ネットの時代における受信料制度の在り方」についての意見を求めているが、「公共放送の受信料の財源」つまりテレビでのNHKの受信料について意見を求めているものだ。ここではネットでの受信料については聞いていない。これに対して、有識者のほとんどは(4)を選択して意見を述べた。ネットの時代になってもテレビ放送での受信料は今まで通りでいい、との回答だ。

産経の記事ではこのあたりが少々分かりにくい形になっている。

そして会議では後半になって、テレビを持っていない者からネットにおいてNHKが料金を取れるのか、有識者の意見が出された。まず、どの有識者も「スマホを持っているだけでNHKの受信料を取っていい」とは言っていない。この会議は第7回だが、昨年9月の第一回で、すでに全有識者が「スマホを持っているだけで受信料を取るべきではない」と意見表明をしていた。この会議はその前提でここまで進んでいる。

その上で、今回の会議では「テレビを持っていなくてもアプリで積極的にNHKを受信する意思を示している者」からは受信料を取っていいのではないか、との意見が主流を占めた。ある有識者の発言が典型的だったのでできるだけ忠実に文章にすると「アプリをインストールするだけで受信できる環境と捉えるのは難しいと思う。必要な情報を入力したりさらなる能動的な行為、約款に対する同意のチェックなどの行動も必要。」と発言している。

つまりNHKプラスをインストールするだけでなく、アプリを使うために必要な行為を一通り行うくらい積極的な受信姿勢を示すのなら、テレビの受信料との公平性を鑑み、ネットでのNHK利用に対して受信料を徴収してよいのではないか、ということだ。議論を聞きながら私も、そこまでしてネットでNHKを見たい人なら受信料を取ることがむしろ公平だと感じた。

それくらい慎重な議論をしており、「スマホを持ってるだけで受信料を取ろうとする」ような乱暴な議論ではまったくないのだ。

産経新聞の記者もそれはわかった上で、短い行数にまとめねばならないので、ああいう見出しと記事になってしまったのだろう。だが結果的に、非常に乱暴な議論が行われたと読者が誤解しかねない内容になっている。記者はもう一度会議の内容に照らし合わせて見出しと記事を自分でよく読み、省みてもらいたいものだ。もちろん、意図的に誤解を生むような見出しをつけたわけではないと信じている

また、なぜか新聞社がNHKに関する有識者会議を報じる際、産経に限らず似た傾向があるように思う。同じ会議を毎回傍聴している私からすると、びっくりするほど自分が聴いたものと違う印象の記事になることが多いのだ。

新聞業界の人々は、私たちが思うよりずっとNHKを敵視している様子なので、ついつい感情が滲み出てしまうのかもしれない。時に「憎しみ」さえ感じてしまうこともある。新聞業界の人々も人間なので仕方がない。私たち読者は、新聞がNHKを報じる際にそうした傾向がままあることは知っておき、疑問に思った記事は割り引いて受け止めたほうがいいだろう。

私が不思議なのは、新聞業界はNHKを敵視するより自分たちがネットの時代にどう生き残るかを考えるほうがずっと大切なのにということだ。他者を攻撃するエネルギーを自己改革に少しは向けたらどうかと思うがどうだろうか。すでに諦めてしまっているのならどうしようもあるまいが。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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