Yahoo!ニュース

男性は女性よりも新型コロナが重症化しやすい リスクの違いとその原因について

忽那賢志感染症専門医
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

世界中で男女を問わず新型コロナに感染していますが、重症化するのは男性の方が多いことが分かっています。

なぜ男性は、女性と比べて重症化リスクが高いのでしょうか。

日本の男女の新型コロナ感染者・重症者・死亡者の違い

日本における男女別・年齢別の累計新型コロナ感染者数(厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- より)
日本における男女別・年齢別の累計新型コロナ感染者数(厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- より)

例えば、日本では2021年5月11日までに、

日本国内での新型コロナ感染者数

男性:336730人

女性:289137人

厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報より)

が感染しており、男性の方が女性よりも1.16倍多く感染しています。

日本の人口の男女比は「1:1.05」と女性の方が若干多いことを考えると、男性の方が女性よりも感染していると言えるでしょう。

しかしこれは「男性の方が新型コロナに感染しやすい性質を持っている」というよりも、日本の場合、男性の方が就業者が多く、人と接する機会が多いことが関係しているかもしれません。

日本における男女別・年齢別の累計新型コロナ死亡者数(厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- より)
日本における男女別・年齢別の累計新型コロナ死亡者数(厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- より)

一方、死亡者数で見ると、

日本国内での新型コロナ死亡者数

男性:5719人

女性:3991人

厚生労働省. データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報より)

と、男性の方が1.4倍多く亡くなっています。

つまり新型コロナ患者において、男性の方が女性よりも明らかに多くの方が亡くなっていることになります。

世界各国における新型コロナ感染者、入院患者、死亡者などの男女比(https://doi.org/10.1186/s13293-020-00304-9)
世界各国における新型コロナ感染者、入院患者、死亡者などの男女比(https://doi.org/10.1186/s13293-020-00304-9)

海外での報告でも同様に、感染者の男女比は概ね1:1であるのに対し、入院患者やICU入室患者、死亡者は男性の方が1.5〜2倍程度多くなっています。

なぜ男性の方が新型コロナに罹ると重症化しやすいのか

新型コロナウイルスに対する免疫反応の男女差(Nat Rev Immunol 20, 442–447 (2020).)
新型コロナウイルスに対する免疫反応の男女差(Nat Rev Immunol 20, 442–447 (2020).)

ではなぜ男性の方が女性よりも新型コロナが重症化しやすいのでしょうか。

以下のように、いくつかの要因が考えられています。

男性の方がACE2受容体の発現が多い

新型コロナウイルスが細胞内に侵入するためにはACE2受容体に結合する必要がありますが、そのACE2受容体の発現量は女性よりも男性の方が多いとする報告があります。

男性ホルモンであるテストステロンは心臓や腎臓のACE2の発現を増やす一方、女性ホルモンであるエストロゲンはこれらの臓器のACE2発現を低下させるようです。

免疫反応が男女で異なる

女性と男性では,ウイルス感染症に対する感受性や反応が異なり、発症率や疾患の重症度に性差が生じ得ることが知られています。

ウイルスに対する自然免疫の反応、ウイルス感染時の獲得免疫の反応は、女性と男性で異なり、単球,マクロファージ,樹状細胞などの自然免疫細胞の数と活性、および炎症性免疫反応は、男性よりも女性の方が高いとされます。

基礎疾患や嗜好が異なる

新型コロナで重症化リスクとされる基礎疾患には高血圧、慢性肺疾患、心血管疾患などが知られていますが、女性よりも男性の方がこれらの基礎疾患を持つ頻度が高いとされます。

肥満も男性の方が女性よりも頻度が高いようです。

また、これらの基礎疾患の誘引となるような喫煙や飲酒も男性の方が嗜む人が多いことも遠因として関連しているでしょう。

しかし、こうした基礎疾患や嗜好の違いに関する交絡因子を取り除いて解析をしても、男性の方が重症化リスクが高かった、とする報告も複数あり、やはり男性であることそのものがリスクであるようです。

後遺症は女性の方が多い

写真:UTS/イメージマート

新型コロナに罹患した際は、女性よりも男性の方が重症化リスクが高いことがお分かりいただけたかと思いますが、では女性は新型コロナにそれほど注意しなくて良いかというとそういうわけではありません。

新型コロナではLONG COVIDと呼ばれる、いわゆる後遺症の病態が知られていますが、この後遺症の症状は女性の方が頻度が高く長引きやすいと言われています。

感染後、何ヶ月にも渡って症状に悩まされることがあることを考えると、男女問わず感染しないように十分に注意しなければなりません。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

忽那賢志の最近の記事