カナダは再びF-35戦闘機を選ぶのか
カナダは2010年に購入を決めたF-35戦闘機を2012年に見直すことにし、候補4機種(F-35、ユーロファイター、ラファール、F/A-18E)から改めて選び直すことにしました。その際に4機種を評価した報告書が2014年末に秘密指定を解除されて公開されています。
このカナダの報告書はわざと詳しく説明せず暗に示唆する表現が多く、注意しなければならない読み方があります。書かれていないことを読み解き、解釈しなければなりません。
- 低強度紛争への介入なら候補4機種のどれを選んでも同じ
- 唯一の例外とはロシアとの戦争でカナダ上空が戦場となる場合
- 候補4機種のうち1機種が対空防衛能力で傑出している=F-35を指す
報告書にある「カナダが他国の軍事侵略の対象となる可能性はまずない」とされている他国とは、名指しされていませんが明らかにロシアのことを指しています。つまりカナダはロシアとの本格的な戦争など起こるはずがないとタカを括っており、地域紛争レベルの小規模な海外派兵で空爆を行うならばステルス能力など必要が無い、弱い相手と戦争をするなら従来型の戦闘機でも別に構わないというのがこの報告書の内容です。
候補4機種の中でステルス戦闘機はF-35のみです。よってこの中で対空防衛能力が傑出している1機種とはF-35であることは誰の目にも明らかです。カナダの報告書はF-35の能力が傑出してることを暗に認めていますが、その能力の高さは強い相手=ロシアでないと発揮する意味が無いとしています。この報告書は唯一の例外であるロシアとの戦争を想定したケースならば、F-35が最も有効だとしているのです。
しかしこの報告書の大前提である「ロシアとの戦争の可能性」は皮肉にも2014年に急激に高まります。2014年に発生したロシアによるクリミア侵攻と東部ウクライナ侵攻という大事件は、この21世紀に先進国が領土を目的とした侵略戦争を行うことが有り得ると全世界に示しました。カナダの報告書は2014年末に秘密指定を解除されているので、つまりそれ以前に書かれており、ロシアが2014年に行った侵略行為が内容に反映されていません。だからロシアとの戦争などありえないなどと能天気な事を書いても許されたのでしょう。しかし今や国際情勢は激変し、カナダはNORADやNATOの一員として本土防空戦やヨーロッパ上空での戦いを考慮しなければならなくなりました。
そして2015年にカナダはF-35戦闘機の除外を公約に掲げるトルドー自由党政権が誕生しましたが、カナダ空軍の次期戦闘機選定は迷走し続けて一旦決まったF/A-18Eも白紙撤回されてしまいました。次期戦闘機選定はまた一からやり直しとなり、トルドー政権は任期中に何も決められないままF-35は候補として残り続け、そうこうするうちに2019年秋にはカナダでは総選挙が行われます。総選挙で政権交代が行われ保守党が政権に返り咲いた場合、F-35も次期戦闘機に返り咲く可能性が高いと目されています。
またそれだけではありません。前述の国際情勢の変化からロシアとの戦争の可能性を考慮せざるを得なくなったカナダ軍にはF-35を欲する動きがあり、仮にトルドー政権が続いた場合でもF-35を再選定する可能性があると最近になって複数のカナダ紙が予測しています。
- F-35がオタワのレーダーに再出現:ICIラジオカナダ(フランス語)
- カナダ次期戦闘機の入札基準は戦略的攻撃能力を強調:ナショナルポスト(英語)
- カナダ次期戦闘機の要件に幾つかの変更:オタワシチズン(英語)
カナダ空軍の次期戦闘機は戦略的攻撃能力と対地爆撃能力が重視されると判明し、最近になって爆撃能力への要求が緩和され空対空戦闘シナリオの強調といった変化が見られています。これらの変化はF-35を有利にするものではないかとカナダ各紙は推測しています。