なぜ女性の労働は評価されず、会議漬けの「オジサン」たちは幅を利かせられるのか?
■「シャドウ・ワーク」と「アイドリング・ワーク」
「シャドウ・ワーク」と「アイドリング・ワーク」という表現、聞いたことがあるだろうか。
仕事の生産性を上げるうえで、そしてQOL(クオリティオブライフ)を向上させるうえで、とても重要な概念だ。ぜひ、この表現の意味を知って、とくに経営者、組織のマネジャーはビジネスに生かしてほしい。
まず「シャドウ・ワーク(shadow work)」とは、家事などの人間の生活基盤を支える本来的な仕事であるのに、賃金などの報酬を受けない労働全般を指す。
企業内のインフォーマルな活動をこう呼ぶケースもあるが、昨今は女性の労働、活躍の場を再認識する空気が広がっており、家事や子育てを特に「シャドウ・ワーク」と呼ぶことが多い。この影の労働に従事している人が「シャドウ・ワーカー」である。
(イヴァン・イリイチの造語)
いっぽう「アイドリング・ワーク(idling work)」とは、コスト(お金・時間・労力)を多大に消費しながらも、企業や社会に対して正しい付加価値を生み出さない労働を指す。
朝から晩まで「報告だけの会議」「議論の噛み合わない打合せ」「経営に役立たない資料作り」「膨大なメール作業」……等に明け暮れ、はたから見ると忙しく働いているように見えるがすべて「空回り」「エネルギーの無駄遣い」となっているような人が「アイドリング・ワーカー」である。
(筆者、横山の造語)
俗に言う「働かないオジサン」ではなく「働いている風なオジサン」がこの代表例だ。
■著しく生産性を下げる「アイドリング・ワーカー」の特徴
空回りが多い「アイドリング・ワーカー」の特徴は3つだ。
・企業の幹部、管理者層など(組織において一定の権力を保持する)
・長時間労働が美学
・話が長い評論家
専務とか常務とか本部長とか、話が長く、誰も暴走も止められないような組織の権力者は要注意。思いつきで仕事(アイドリング・ワーク)を創出していくので、自分のみならず、周囲にも「アイドリング・ワーク」を強いてくる。
口癖は「とりあえず」だ。
「田中さん、とりあえずこの分析をしてくれないか」
「山田君、とりあえず、君も3時からの会議に出てくれよ」
「福岡へ出張してくる。とりあえず、現場を見てみないとな」
何を推進するために会議をするのか? 資料を作るのか? 分析をするのか? 出張をするのか?
よくわからないまま、毎日毎日、多くの時間を費やす。しかも「アイドリング・ワーカー」は自分の労働が空回りし続けているという認識がない。長時間の会議を仕切り、資料を作らせ、無駄な出張を繰り返しているにもかかわらず、
「自分は組織のために汗をかいている」
「忙しくて寝る暇もないが、これも社員とお客様のためだ」
と常に空回りな自分を評価する。
なぜ、そうなるのか?
原因は、感度が低いからだ。
どんな労働が組織に貢献しているか、「アイドリング・ワーカー」は正しく把握できない。したがって「シャドウ・ワーカー」には手厳しいのである。専業主婦に対しても、時短勤務している女性社員に対しても、だ。
ある「アイドリング・ワーカー」を例に挙げてみよう。企業幹部が長時間の会議のために全国の支店をまわり、3日間の出張を終えて家に戻ると、奥様が出迎えた。
「俺が留守の間に、何かあったか?」
「別に、何もないけど」
「そうか……。それにしても、専業主婦はラクなもんだ。1日じゅう家にいて朝から晩までテレビでワイドショーやメロドラマばかり観てるんだろう? 俺もそんな生活してみたいよ」
「そんなことないわ。私だって、子どものこととか大変なんだから。今日だって中学校まで出向いて、先生と息子の進路について話し合って――」
「お前に比べて俺は朝から晩までメチャクチャ忙しいんだよ。トイレへ行く暇さえなかった。お前、俺の苦労がわかるか?」
「そりゃあ、わからないけど」
「社長は何を考えているかわからんし、部下はできないヤツばかりだし……。苦労の連続だ。俺がいなくなったら、あの会社、1年ももたんぞ」
(奥様は知らない。この男性は会社で無駄な仕事ばかりして、社長も部下も迷惑していることを……)
■「アイドリング・ワーカー」たちの言い分
私は経営コンサルタントとして、16年以上、企業の現場へ入ってきた。その経験から、世の中には膨大な数の「アイドリング・ワーカー」がいて、エネルギーの無駄遣いに明け暮れていることを知っている。経営会議や営業会議にオブザーバー参加し、
「本部長、今日の会議の出席者10人が、本会議の主目的を理解し、何を推進しようとしているか伝えていますか?」
「この会議資料を作成するのに、どれぐらいの時間を要しましたか? この会議資料は、どんな歯車を噛み合わせ、どんな動力を誰に伝えるために必要なものですか?」
「午前中、ずっとパソコンの前に座っていますが、何をしていましたか? 大半がメール閲覧、作成と返信作業ですか? ダンドリをよくすれば1時間以内で完了します」
等と、歯に衣着せぬ言い方で切り込んできた。相手は重役だから、ほぼ100%
「外部の人間に何がわかるんだ。だいたいコンサルタントという輩はけしからんな」
「うちの業界は特殊なんですよ。無駄のように見えても、こういう会議が必要なときもあるんだ」
……などと、非論理的な言い分で反論される。もともと感度が低く、論理的な思考ができないために、話が噛み合わないことが多い。このような方々が権力を持つと、暴走を止められないだけだ。
■女性たちの「シャドウ・ワーク」は誰が理解するのか?
「女性活躍推進の扉は閉じたように見える」
菅政権が発足した日、米ニューヨーク・タイムズはこう報じた。女性閣僚が2人だったことへの論評だった。
何年も前から政府は「女性の活躍推進」を成長戦略の柱にしようとしてきたが、いっこうに前へ進んでいる気配がない。
日本の女性管理職比率は主要7カ国(G7)で最下位である。推進役が「アイドリング・ワーカー」ではないかと心配になる。
もしそうであれば、世間の女性たちの「シャドウ・ワーク」を正しく理解できず、空回りしっぱなしの議論を繰り返すだけだ。まさにエネルギーの無駄遣いであろう。
何らかの問題を解決したり、目標を達成させるためには、正しい論理に基づき、しかるべき少数の識者が歯車を噛み合わせるようにディスカッションすべきだ。そうすれば、何事も長い時間を要することはない。
エコで環境の優しい社会にするために、エネルギーの無駄遣いであるアイドリングはほどほどにしてもらいたい。