これが株式投資の目的と分散の本当の意味だ
企業は、最終消費需要に応えることで、現金を創造しているわけで、その現金創造の源泉の分散こそ、株式投資における真の分散なのです。
株式の分散投資
投資運用業において株式投資を行うときは、分散投資が原則ですが、その分散では、株式の発行体企業の事業と経営状況について、徹底的な調査分析がなされ、株式の価値についての判断が形成されたうえで、投資対象の候補となる銘柄群が選ばれて、その範囲のなかで、実際に投資される銘柄が選択されるのです。つまり、株式投資の本質は、分散よりも、分散以前の銘柄選択にあるわけです。
そして、銘柄選択が厳格化され、株式の価値についての確信度の高い銘柄だけが厳選され、30銘柄程度にまで絞り込みが進めば、集中投資と呼ばれる投資戦略になります。集中といわれても、なお30銘柄程度に分散されて投資されるところに、分散の真の意味があるのです。
分散の真の意味
企業とは、設備、資金、人的資本などの多種多様な有形無形の資産を保有し、それらを効率的に稼働させて、現金を創造する装置です。創造された現金から、事業活動に要する全ての費用を控除し、更に金融債権者に帰属するものを控除し、最後に税金を控除した残余は、株主に帰属します。故に、企業の発行する株式の価値は、株式に帰属される将来の現金の現在価値になるわけです。
従って、株式投資における分散とは、本源的には、企業が現金を創造する源泉の分散でなければなりません。さて、企業が現金を創造できるのは、消費需要に応えているからで、消費需要は、複雑な産業連関のもとで、直接に、あるいは様々な間接的な経路を経て、企業に到達しています。故に、投資される銘柄は、原理的には、最終消費需要の構成比に応じて、分散されるべきなのです。
業種分類の再構成
銘柄分散の基準として、多くの場合、株式市場全体における銘柄の業種別構成比が使われていますが、業種の構成比は、最終消費需要の構成比に基礎があるわけですから、それを銘柄分散の基準にすることは合理的です。ただし、例えば、機械産業や素材産業は、最終的な消費財を製造するのではなく、消費財の製造装置や、消費財の原材料を作る業種なので、最終消費需要の構成比を基準にするためには、食品製造装置を作る企業は、機械産業ではなくて、食品産業に属するというように、分類を再定義する必要があります。
要は、二つの企業があって、表面的には異なる業種に属していても、同一の最終消費需要に応えているのならば、その二つの企業の発行する株式に投資しても、本質的な分散投資にはならないわけです。株式投資の基本的な技法の一つは、表面的な業種分類を再構成し、本質的な業種分類を再定義することなのです。
株式市場全体の動きとの連動性
株価変動は銘柄ごとに異なっているので、銘柄分散をしていれば、株価変動の相殺が生じて、投資総額全体の価格変動を抑制できますが、同時に、株式市場全体の株価変動との連動性を高めます。そして、銘柄数を増やして、分散度を大きくしていくにつれて、市場全体の動きとの連動性は高くなっていくわけです。
こうして、確かに、原点においては、分散投資の目的は、株価変動の相殺による投資額全体の価格変動抑制であったかもしれませんが、現実には、株式市場全体の動きへの連動性の維持に転じてしまったのです。なぜなら、投資運用業も営業である以上は、顧客が株式市場全体の変動を株価指数の変化率によって常に把握しているもとでは、その視線を意識してしまうからです。
株式投資の目的
株式は、企業が資本を調達するために発行されていて、資本は、事業活動において不可避的に生じる一時的損失を吸収して、事業を持続可能にするものとして、一種の保険として機能します。故に、そこに、理論的な保険料が発生して、それが資本コストと呼ばれるのです。つまり、株式の本質からすれば、株式投資の目的は、資本コストに相当する投資収益率を実現すること、あるいは、それを上回ることになります。
ここで、問題は、客観的事実として知られるのは、株価指数の変動であって、資本コストは、そこから技術的に推計されるほかないことです。故に、現実には、株式投資の収益率を評価する参照指標として、株価指数が使われるのですし、また、理論的にも、株価指数の変動から推計される投資収益率は、長期的に、資本コストの長期平均に一致するはずなので、株価指数の利用には合理性があるのです。
集中投資の意義
株式投資において、リスクという言葉は株価の変動幅の大きさを意味していて、株価指数は、常に大きく上下変動していますから、リスクが大きいのです。故に、株価指数との連動性を小さくすることで、リスクを低下させ得るはずです。分散投資において、株価指数との連動性は、銘柄数を増やすと高くなるので、逆に、銘柄数を減らせば小さくなり得るのであって、株式投資の要諦は、過剰な分散を避けて、銘柄数を絞り込んだ集中投資によって、より小さなリスクを実現することになるわけです。
以上をまとめれば、株式投資とは、原理的には、最終消費需要を銘柄分散の基準とし、長期的な資本コストの平均値を収益率の目標とし、銘柄数を少なくした集中投資によってリスクを小さくすることに帰着するのです。そして、更に付け加えられるべきは、株式投資は、その本質において、経済活動の循環に参画することだという点です。
経済活動の循環
資本主義経済においては、二つの循環が基本になっています。第一は資本循環で、広義の資本、即ち、国民経済のなかで個人貯蓄等の形態において蓄積された富は、様々な経路を経て、産業界に投資されて、資本利潤を生んでいますが、その事態を産業界からみれば、産業界は、事業活動に必要な資金を調達して、その利用料として資本利潤を還元しているわけです。こうして、富は循環する過程で利潤を生み、自己増殖していくわけで、その増殖過程が経済成長なのです。
第二は資金循環で、労働によって稼得された所得、および資本利潤は、消費需要となって産業界に流れ込みますが、その事態を産業界からみれば、産業界は、事業活動の必要資源として、労働を調達して報酬を払い、資金を調達して、資本利潤を払っているわけです。こうして、資金は循環する過程で、消費需要を創造して、経済を成長させるのです。
投資とは、こうした資本循環と資金循環のなかに資金を投じることであり、故に、投資と呼ばれるのですが、投じられた資金は、循環のなかで自己増殖して、投資利潤を生むわけです。投資のなかでも、株式投資は、循環を安定化させる基礎への投資として、投資一般を可能にする保険機能への投資として、基本的な投資なのです。
株式投資と家計との連関
実は、経済の最終消費需要の構造は、家計の消費によって規定されているのですから、個人投資家は、既に、それを把握しているわけです。投資対象として、消費対象を製造している企業が選ばれ、銘柄分散の基準として、家計の消費の構成比が採用されることは、極めて簡単でありながら、投資の理論に適っているのです。
個人投資家は、一方では、日常生活において、消費者として企業に現金を払い込み、他方で、その現金に企業が付加した価値を投資利潤として受け取るわけであって、この循環への参画こそ、株式投資の基本なのです。また、この循環を実感できれば、株式投資は、生活の一部を形成するものとして、短期的な株価変動に左右されなくなり、長期的に持続可能なものになるわけです。
また、個人投資家にとって、投資の究極の目的は購買力の保存ですから、消費に応じた銘柄選択は、その意味でも合理的です。そして、将来の消費は、社会の進化に応じて変化していくわけで、将来の消費構造を先取りすることこそ、株式投資の真の目的なのです。