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最後までこだわりを!「特別なトワイライト」専用機関車登場のワケ

伊原薫鉄道ライター
撮影名所を行く「トワイライトエクスプレス」統一された塗装が美しい

昨年春、大勢の人々に惜しまれながら定期運行を終えた「トワイライトエクスプレス」。その後も旅行会社が取り扱う団体臨時列車「特別なトワイライトエクスプレス」として、山陽・山陰を中心に運転が続けられてきた。だが、それも今月22日に大阪駅へ到着する列車をもって終了となり、27年間にわたる歴史に幕を閉じる。

ところで、昨年12月にこの「特別なトワイライトエクスプレス」をけん引する電気機関車の塗装が、専用のものに塗り替えられた。列車の引退が3か月後に決まっていた時期の"グレードアップ"は異例ともいえる。その理由を、JRの担当者に聞いてみた。

○「豪華寝台列車」のブランドを最後まで守る

「トワイライト色」に塗り替えられた電気機関車。4か月間のための
「トワイライト色」に塗り替えられた電気機関車。4か月間のための"こだわり"だ

「実は、電気機関車の塗り替えは「特別なトワイライトエクスプレス」(以下「特別な~」)運行開始時から検討していました。とはいっても、電気機関車は「特別な~」専用というわけではなく、他の列車も牽引するため、なかなか塗り替えるタイミングがなかった。11月になってようやく作業ができるようになり、この時期の登場となったのです」

と、JR西日本営業本部の橋本宏志さんが教えてくれた。橋本さんは、過去に「トワイライト」車両を用いた四国・九州方面への臨時列車やランチクルーズ列車などを企画。今回の「特別な~」も担当している。

「定期列車としての運行が終了した後も、特に「憧れだったA寝台個室に乗りたい」という声が多かった。そこで、全3編成に連結されていたA寝台車両を集めるとともに、運行ルートや車内でのおもてなしも徹底的に見直し、さらに上質な旅を楽しんでもらえるようにと企画したのが「特別な~」です」

そもそも、定期列車としての運行が終了した主な理由は老朽化によるもので、現在は3編成のうち比較的状態の良い車両を集めることで運行を可能にした。ただ、北陸新幹線開業にともなう並行在来線の第三セクター化により、大阪から札幌方面への運行は不可能に。そこで「トワイライト=札幌へ行く列車」というブランドから転換、今度はJR西日本管内の魅力を伝える列車へとリニューアルした。

運行ルートが変わったことで、列車をけん引する機関車も車種が変更された。今度の機関車は、かつて「ブルートレイン」をけん引していた時と同じ、青とクリーム色の塗装。だが、乗客にとってトワイライトエクスプレスといえば濃緑色の列車というイメージである。そこで「お客様の期待に応えるためにも」残りわずかな期間であっても、塗り替えを実施することになったのだ。

「JR西日本が誇る豪華列車として、最後まで手を抜くことは許されない。少しでも思い出に残る旅としてもらうために、とことんこだわりました」

○「トワイライト」の誇りを「瑞風」へ

「トワイライト」が入線するとホームには人だかりが。今も人気は衰えない。
「トワイライト」が入線するとホームには人だかりが。今も人気は衰えない。

「特別な~」は、これまでと違い旅行会社のツアー商品となっており、乗車するには旅行会社での申し込みが必要となる。これに伴い、車内でのサービスも大幅に変わった。

例えば食事。「特別な~」では、乗車中の食事は全てツアーに組み込まれ、飲み物も飲み放題となっている。メニューもグレードアップし、当日朝に水揚げされた魚を積み込んで調理するといった取り組みも行われている。また、途中で列車を降りてバスで観光するなど、定期列車ではできないことが可能となった。

これらは、現在JR九州が運行している「ななつ星in九州」と同じ形態であり、また来春から運行を開始する「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」にも、この列車で得られた経験が活かされることだろう。

「お客様の期待にも応えるべく、トワイライトエクスプレスで培ったものを『TWILIGHT EXPRESS 瑞風』へと引き継いでいきたいと思います」

○最後にもう一度だけ、あの雄姿が見たい・・・

北海道を駆ける「トワイライト」この姿をもう一度見たいという人は多いはず・・・
北海道を駆ける「トワイライト」この姿をもう一度見たいという人は多いはず・・・

1989年から走り続けた「トワイライトエクスプレス」。その走る姿が見られるのも、残るは3月12日・19日に大阪を出発する列車と、折り返して3月15日・22日に大阪へ到着する列車の合計4本。JR西日本、そして日本の豪華寝台列車の代名詞にまでのぼりつめた列車がこれで終わるのは、とても残念な思いである。折しも、今春引退する寝台列車「カシオペア」が団体列車として再び青函トンネルを通るという報道もあったばかり。多くの人の夢を運んだ濃緑色の列車が、最後にもう一度だけでも、北の大地から日本を駆け抜ける機会があることを、個人的には期待したい。

鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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