双子家庭の救世主、「ふたごじてんしゃ」が生み出す価値
双子を連れて気軽に、安全に公園や買い物に行きたい。これは双子を授かった保護者に共通する想いではないでしょうか。私も、三男四男が双子ですが、持っている子供乗せ自転車の後部座席は3歳くらいから安心して乗せられる形のもので、前後にまだ双子を乗せたことがありません。前部の座席なら乗せることはいまでもできます。ただ、双子を一台の自転車に乗せることはいまのところできず、ワンオペで双子育児になると自転車移動はできていません。
もちろん、後部座席に双子のひとりを乗せ(ベルトをきつくしめるなど)、もうひとりを前部座席に乗せればいいのですが、まだ幼い双子と出かけるには着替えやおむつ、おしりふきなども二人分準備しなければならず、ご飯も準備となるとどうしても大き目のバッグになってしまいます。座席部分は空いてませんので、背負うかハンドル部分または後部座席に引っ掛けるくらいしか選択肢がありません。ついでに買い物でもとなれば、不安定を承知でここかしこに引っ掛けたりしなければなりません。歩行者にも迷惑をかけますし、そもそも双子を乗せて転倒すれば大惨事なので、なかなか気軽に外出しようとは思えません。
公園なら近場で、買い物は双子とは行かないなどすればいいのですが、そもそも選択肢がない”やりたいけどできない”を前提とする環境下では小さなストレスが積み重なっていきます。特に双子のみならず、年子などと自転車移動において、両足が充分に地面に接地でき、かつ、パワーでなんとかできる成人男性にはわからない「怖さ」が女性にはあります。私も気が付かないところでした。
以前、妻が後部に二つの座席を設置した双子のための自転車を作ろうとしている女性起業家の記事を見せてくれました。そのときは「へー」くらいの感想だったのですが、別の機会にネットでその自転車について読むことがあり、兵庫県尼崎市の尼崎創業支援オフィス アビーズにある株式会社ふたごじてんしゃの中原美智子さんに会いにいきました。
残念ながら当日は目当ての自転車がメンテナンス中だったため試乗することができませんでした。しかし、一度、双子を後部座席に乗せられる自転車に乗ってみたいという想いから、先日、横浜でのイベントに来られていた中原さんにお願いをして試作車とともに立川に来ていただきました。
当日の様子は毎日新聞に詳しく掲載されています。
・自転車:双子乗せても安定 母親支える三輪車製品化へ - 毎日新聞
実際に試乗をさせていただき、また、当日集まった27組の双子家庭の方々とも交流をしました。あくまでもプライベートでの試乗でしたが、周囲の双子家庭にもこの自転車の存在はにわかに注目されていたこともあり、よかったらと声をかけたところまたたくまに20組以上の申し込みがあり、30組を越えたところで締め切りとさせていただきました。
ひとつは一家庭の試乗に結構な時間を要するため十分な時間の確保ができないこと。もうひとつは一家庭あたり3名以上の人数が予想されるためかなりの大規模なイベントになってしまう可能性があったためです。本当に多くの同じ双子家庭の方々にお断りをさせていただいたのは申し訳なかったのですが、一方、首都圏で双子を授かったご家庭に、双子と自転車移動について悩んだり困っていたりしており、まだ発売されていない兵庫のふたごじてんしゃ社および中原さんの存在が認知されていたことに驚きました。
ふたごじてんしゃ社の試作車に乗ってみて、この自転車が世に出たときに生み出される価値とはどのようなものでしょうか。
ひとつは、安全性の確保です。後部座席に双子を乗せられることは前部にスペースが生まれるため、そこに荷物を入れることができます。いままでは後部座席にひっかけるか、ハンドル部分を活用するかなどするしかなく、中距離のお出かけすら難易度の高い行動であったものが容易になります。不安定な自転車運転は双子はもちろん、親も危ないですし、歩行者へのリスクも軽減されます。
ふたつ目に、安全な移動が実現することで「あそこに連れていきたいな」と思った徒歩では遠い公園、友人の自宅などに気軽に行くことができるようになります。開発者の中原さんもそういう小さなストレスの積み重ねにより、なぜ双子を産んでしまったのだろうかというところまで考えてしまったそうです。
心身ともに疲弊しがちな子育て環境が少しでも改善することは、虐待リスクを低減したり、よい精神状態で子どもと向き合うことにつながるかもしれません。突発的な発熱や嘔吐などがあったときにも、双子を病院にさっと連れていけることも魅力的です。
実際に私の長男(5)と次男(3)を乗せてみたのですが、年子や近い年齢の子どもたちを育てられている家庭にとっても、この自転車は活用可能であり、ふたごじてんしゃという会社名から双子用の自転車だと思い込んでましたが、それに限らずに使える自転車でした。
三つ目は、個人が生活シーンで直面する半径3mにある問題や課題は、同じように「つらい」「しんどい」と感じているひとがここかしこにおり、その解決のために行動することは他者を惹きつけ、他者に希望を持たせ、そして多くのひとたちの知恵や技術、想いを巻き込んでいくことが形(商品)になり得るということです。もちろん、解決に至らないこともあるでしょう。
しかしながら、誰かが声をあげなければ問題があることすら認識されません。中原さんの声は少なくない双子を授かった親のもとに届き、希望となっていることがわかりました。イベントでさまざまな双子家庭の方々とお話をしましたが、双子家庭の移動困難性について声を出して訴えてくれる中原さんのファンであることを公言されているひともいました。
直接的ではないかもしれませんが、私の問題をみんなの問題とし、社会の問題に広げていくことができるんだ、ということもまた価値であると言っていいのではないでしょうか。