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【里親制度】映画『育ててくれて、ありがとう。』に見る里親・里子・生みの親の心情

若林朋子北陸発のライター/元新聞記者
映画『育ててくれて、ありがとう。』より(office SORAIRO提供)

 里親家庭を描いた映画『育ててくれて、ありがとう。』の上映会は、里親関係の団体が主催し、2022年9月から全国各地で開かれている。あらすじはこうだ。長年の不妊治療の末、子どもを授かることができなかった小川雄介・美奈子夫婦は、里親制度によって弥生という女児を里子として迎えた。美奈子と雄介は、弥生に自身が里子であることを伝える(真実告知)決心をする。弥生は、その事実をどのように受け止めるのか。また、成長した弥生が生みの母親・洋子と再会したことは里親家庭にどんな影響を及ぼすのか。

 映画は弥生・美奈子・洋子のそれぞれが抱える思いを丹念に描いている。佐野翔音監督(63)=神奈川県在住=に作品への思いを聞いた。制作を通じて見えてきた現実や、里親・里子・生みの親それぞれの心情とは? 2016年の児童福祉法改正により社会的養育は「家庭養育優先」とされ、全国では委託率アップに向けてさまざまな取り組みがなされている。映画から里親制度について理解を深めてほしい。

映画『育ててくれて、ありがとう。』より。里親夫婦の小川雄介・美奈子と弥生
映画『育ててくれて、ありがとう。』より。里親夫婦の小川雄介・美奈子と弥生

社会的養育の子どもたちについてほとんど知らなかった

――佐野さんは過去の2作も含め、映像によって「子どもを支える人たちの姿」を描いています。社会的養育を制作のテーマとした理由とは?

 2010年の同窓会でたまたま隣に座った友人に近況を聞いたところ、子どもシェルターでボイストレーナーをしていると言ったのです。困難を抱えた子どもをケアし、再生プログラムの一環として歌を教えていると。それまで社会的養育を受ける子どもたちについてほとんど知らなかった私でしたが、「何かできないか」と思いました。

 私は仕事では企業や商品をPRする映像を制作しています。「自分が伝えたいことをテーマとした作品に、いつかは取り組んでみたい」と思っていたので、まずは友人によって知らされた子どもシェルターの実情を伝えるドキュメンタリーを作ろうと動きました。

 しかし、シェルター内はもちろん、乳児院や児童養護施設では、児童福祉法第28条に基づいて措置された子どもの顔を写すことができません。被虐待児などの居場所を知らせるわけにはいかないからです。また、そういった場所にいること自体、知られたくない当事者もいます。そこでドキュメンタリーではなくフィクションの劇映画へと方向を転換しました。

――初の監督作品『わたし、生きてていいのかな』は、虐待を受けた経験のある少女の再生の話、2作目の『こども食堂にて』は子ども食堂に集う人たちの物語です。制作の過程で、どんな出会いがあったのでしょうか。

『わたし、生きてていいのかな』の制作は2011年にスタートしましたが東日本大震災で一時中断し、2015年に完成しました。2016年1月から8月にかけて無料上映会を開催し、2017年には神奈川県里親会で上映する機会を得ました。これが里親制度との出会いです。

映画『わたし、生きてていいのかな』より
映画『わたし、生きてていいのかな』より

映画『こども食堂にて』より
映画『こども食堂にて』より

 2018年に完成した2作目『こども食堂にて』には里親が登場します。社会的養育だけではなく、虐待やひとり親家庭の貧困など子どもが直面するさまざまな課題を盛り込みました。「全国各地で観てほしい」という思いから、柴田理恵さんなど著名な俳優にもご出演いただき、劇場でも公開しました。

『こども食堂にて』を作る過程で多くの里親さんを取材し、『育ててくれて、ありがとう。』のエンドロールに「スペシャルサンクス」と紹介している里親の木ノ内博道さんと岩朝しのぶさんと出会いました。木ノ内さんには事前に台本を読んでもらい、必要な部分は修正しました。また、岩朝さんは広報活動や試写会の開催で支援をいただきました。

――先の2作で培われたネットワークが3作目『育ててくれて、ありがとう。』につながっていくのですね。

「3作目は里親に、全面的にスポットを当てたものにしよう」と思いました。2021年4月、木ノ内さんに話を聞きに行ったら「里親を取り巻く状況については里親のケアも大切だが、実の親も大切」と言われました。当初、児童相談所(児相)を題材にしたいと思いましたが児相の仕事は幅広く、テーマが広がりすぎるので家族の物語に絞りました。

里親が製作を支援、出演も

 木ノ内さんからは「養育里親と養子縁組希望里親の区別をはっきりした方がいい」「委託の段階では家族の再構築を目的とすることを、きちんと表現してほしい」と助言を受けました。また、ドキュメンタリーのような雰囲気の映画にしたいと思ったので岩朝さんに出演を依頼し、彼女のセリフは実感を込めて発することができるよう体験を踏まえた内容にしました。

 つながりと言えば、キャストも重なっています。1作目で女子高校生を演じた本下はのさんという俳優が2作目はボランティアの大学生を演じ、3作目は生みの母親を演じています。

――撮影はどのようなプロセスで進めてきたのですか?

 2021年9月に企画がスタートし、シナリオを書き始めたのが10月でした。11月に都内と神奈川県内で撮影しました。演者には「台本はあるけれど、自分の言葉で、役を理解して話してほしい」と伝え、「気持ちができたら話し始めてください」と待つこともありました。作り込んだ映像にしたくはなかったので、ドキュメンタリーの手法で撮っています。

――佐野さん自身が里父の父親役で出演していますね。どんな思いを込めて演じたのでしょうか?

 息子が「里親になりたい」と言うと父親は最初、反対します。里親制度を理解していても、自分の子どもが同じことを言ったらすぐに手放しで賛成はできないと思います。でも父親は赤ちゃんを前にして態度を変えます。それは次のような経験によって「子どもの希望を尊重したい」と思ったからです。

 私の前作を観たという方から手紙をもらったことがあります。送り主は他界した里父の親御さんで「息子が里親だった2年間は(彼の人生において)素晴らしい時間だった」との内容でした。里親になることを心配はしても、それは親心。最終的には認めて周囲が応援することこそ大事だと思い、里親の親の気持ちの変化も表現しました。

映画『育ててくれて、ありがとう。』より。赤ちゃんを迎える里親の雄介と美奈子
映画『育ててくれて、ありがとう。』より。赤ちゃんを迎える里親の雄介と美奈子

――児相の職員が家庭訪問や研修など里親制度について順を追ってきちんと説明しているシーンや、里親が真実告知をしようとして逡巡し、最後はやり切る場面が印象に残りました。

 里親制度そのものや里親さんが子どもを育てる意義が伝わる内容にしたいと思いました。制度については職員役の平田友子さんが「里親になるステップ」について丁寧に語っています。

 2016年の児童福祉法改正により「家庭養育優先の原則」が掲げられました。里親家庭では大人がずっと見守り続けることによって「自分のことを考えてくれる大人がいる」という安心感が生まれ、特定の大人と愛着関係を築くことができます。

親と子、いずれにとっても真実告知は重要

 また、ストーリーの中で真実告知を丁寧に描こうと思いました。一方で、考えれば考えるほど難しいとも感じています。2017年秋に神奈川県の里親さんが集まる催しに参加した時、「抱きしめて震えながら告知した」というエピソードを聞きました。親と子、いずれにとっても真実告知は重要であり、うまくいかなければ関係が難しくなるからです。

――「いつか母と暮らせるようにその気持ちを抱えて育てます」と始まった里親家庭での子育てが、「最後はいい形で決着している」と感じました。ラストについては、どのような思いがあったのでしょうか。

 私が考える「理想とする形」が映画の結末でした。多くの方から「いい結末だった」と言われました。ニュースなどで私達は悲惨な児童虐待の事件など、救いのない現実を突きつけられています。だからこそ、映画ではそういったシーンを描きたくありませんでした。「観終わって清々しい気持ちになれる作品、希望が持てる映画を観てほしい。自分自身も観たい」と思ったのです。

――あらためて映画『育ててくれて、ありがとう。』に込めた思いとは?

 私は社会的養育について何も知らない状況からスタートし、作る過程で学びました。「里親や子ども食堂など支援団体の方など、子どものことを真剣に考えている大人がこんなにいるのだ」と知ったのです。社会的養育の対象となる子どもだけでなく、困難を抱える子どもはいます。いじめや親との関係などさまざまです。映画を通して「ひとりで悩まないで。必ずどこかに救いの手を差し伸べてくれる大人がいるよ」ということが伝わればと思います。

 これまで里親会を中心に年配の方が上映会に参加し、映画を観てくださっています。今後は、広く一般の若い人にも観てもらい、親子の笑顔を見て、里親家庭について考えるきっかけになればと願っています。

     ◇     ◇

 石川県里親会は今秋、金沢市の金沢星稜大学で『育ててくれて、ありがとう。』の上映会を開催し、出演した岩朝さんを迎えてトークショーも行った。映画を観た石川県里親会の会長である宮崎七世さんは「自分だったらどう言うか、どうするかと何度も考えた」と話し、次のように続けた。

「実母との再会で弥生は『5年間もほったらかしにされた』と言ってもおかしくないのに、『産んでくれてありがとう』と言いました。その時の彼女の気持ちが手に取るように分かり、切なかったです。実親にも養親にも気をつかう様子が涙を誘いました」

「一時的に預かっている」という事実を忘れてしまう

 宮崎さんによると多くの里親は登録・待機の間、「早く子どもが来てほしい」と心待ちにし、子どもが受託されれば子育てに追われる日々となる。真実告知などの節目で乗り越えるべき壁はあるが、成長を喜びながら年月を重ねるうち、いつしか「一時的に預かっているという事実を忘れてしまうことも少なくない」と話す。

 宮崎さんは「三者三様の思いを感じた上で里子の気持ちにより添い、『子どもが豊かな人生を送ってほしい』と願う視点が大切だとあらためて気づかされた」と語った。

映画『育ててくれて、ありがとう。』より。産みの母は突然、弥生に会いに来る
映画『育ててくれて、ありがとう。』より。産みの母は突然、弥生に会いに来る

 富山県内で小学校高学年の女児を育てる男性は「そう遠くない日、我が家に起こること」を想像しながら観賞したという。真実告知は未就学の段階から続けており「最近は産みの母について、娘の方から聞いてくるようになった」とのこと。特別養子縁組によって、すでに戸籍上も親子となっている。「娘自身が里親制度や養子縁組について考えを深めながら、小出しに聞いている」と推測する。映画について次のように話した。

「前半は1組の夫婦が里親になるまでの物語です。『里親になるという選択肢もあるかも……』と考え始めた人にとっては、自分の人生に当てはめて考える機会となります。後半は、すでに子どもを受託している人にとって参考になるでしょう。実子・里子(養子)にかかわらず子育てに邁進する日常に、子どもと血がつながっていないと忘れてしまっていることもあります。しかし、社会の一員として里親の役割を果たすとはどういうことなのかをあらためて考えました」

 宮崎さんも里親男性も「生活を共にしていく中で、子育てに血縁の有無は関係ない」と口をそろえた。実子・里子(養子)のいずれにせよ「子育ては無我夢中」だからだ。しかし、里親男性はこうも言った。「思春期を迎え、女の子は少しずつ男親と距離を置くもの。成長なのか、言えない(聞けない)のか。母親なら話せるのか。しっかりと見ていきたい」と。里親にとっては、子育ての“現在地”を確かめる映画となったようだ。

※映画『育ててくれて、ありがとう。』公式ホームページ

https://sodatetekurete-arigatou.jimdofree.com/

監督・脚本・プロデュース:佐野翔音/出演:中嶋佳子、迫田恵介、雪乃、柊晴、本下はの、長安優衣、岩朝しのぶ(友情出演)、水町心音、丸山瑠真、平田友子、藤田雅明、小池真名実、理句、串山麻衣、河本真穂、藍沢百花、赤塚哉、赤塚紗弥可、小林オコメツブ、横山晃子、祖父江莉奈/2022年/日本/102分/製作協力・配給:office SORAIRO/製作:Sunshine映画製作実行委員会

※自主上映などの問い合わせは「office SORAIRO」まで。

〒104-0061

東京都中央区銀座 7-13-6 サガミビル2階 office SORAIRO

e-mail:seisaku.sunshine.movie@gmail.com

TEL:03-5050-2176

※参考

・映画『わたし、生きてていいのかな』ホームページ

https://sunshine-movie.jimdofree.com/

・映画『こども食堂にて』ホームページ

https://kodomosyokudo-nite.jimdofree.com/

佐野 翔音(さの・しょうおん) 1959年10月生まれ、東京都出身。成蹊大学卒業後、俳優から演出に転身し、映像制作会社勤務を経てフリーの映像ディレクターとなる。これまで数百本の企業VPを演出。2011年に「映画製作チーム・Sunshine」を立ち上げて映画製作を始める。2015年末に第1回監督作品『わたし、生きてていいのかな』完成、2016年上映。2017年には「公益社団法人キリン福祉財団」のキリン・子育て応援事業の助成団体に選ばれ、第2回監督作品『こども食堂にて』製作、2018年上映。2021年に『育ててくれて、ありがとう。』を製作、2022年上映。

※写真はすべてoffice SORAIRO提供。

北陸発のライター/元新聞記者

1971年富山市生まれ、同市在住。元北國・富山新聞記者。1993年から2000年までスポーツ、2001年以降は教育・研究・医療などを担当した。2012年に退社しフリーランスとなる。雑誌・書籍・ニュースサイト「m3.com」「sippo」「東洋経済オンライン」などで執筆。富山を拠点に全国各地へ出かけて行き、気になるテーマ・人物を取材している。近年、興味を持って取り組んでいるテーマは児童福祉、性教育、医療、介護、動物愛護など。魅力的な人・場所・出来事との出会いを記事にしていきたい。

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