ノート(47) 積み上がる供述調書 改ざん事件の捜査も総まとめへ
~解脱編(19)
勾留17日目(続)
取捨選択
面会や夕食を終えた後、午後5時半ころから午後10時ころまでの間、中村孝検事の取調べが行われた。
この日は、まず2通の供述調書にサインをした。いずれも中村検事が作成したドラフトを既に確認していたため、いつもと同じく検事による面前口授はなく、あらかじめ印刷、準備されていた供述調書の原本にザッと目を通す、というやり方だった。
1通目は、厚労省虚偽証明書事件に関する公判活動の実情や、無罪判決後に大坪さんと2人で飲んだ時の状況などに関するもので、ドラフト段階と同じく、僕が中村検事に語った話のうち、重要だと思われる事実がいくつかカットされたままとなっていた。
最高検にとって都合が悪いし、証拠改ざん・犯人隠避事件の立証に絶対不可欠とも言えないということで、取捨選択した結果だろうと思われた。
なかったことに
2通目は、逮捕前日から当日にかけての間の状況、特に僕と大坪さんや佐賀さん、國井君らとのやり取りや、小林検事正らによる内部調査の状況に関するものだった。
前日や当日に具体的にどのようなことがあったのかは、既にこの連載で詳しくお話ししているところであり、中村検事の取調べでも、全く同じ話をしていた。ただ、いざ供述調書の形でまとめられると、完全にカットされたり、あいまいな記載にとどめられた部分が多々あった。
例えば、厚労省事件に対する捜査の発端は、朝日新聞の検察担当記者が特捜部に持ち込んできた郵便不正疑惑とそれを取り巻く民主党議員に関する疑獄ネタだった。
郵便不正に関わった広告会社の脱税事件を入り口として強制捜査に着手した後も、幹部や特捜部員の一部がその記者らと密に情報を交換しつつ、特捜部で捜査を進めていた。
だからこそ、改ざん疑惑を報じようとしているのがその朝日新聞だと分かり、たとえ別の記者だったとしても、あたかもマッチポンプのようで、何か因縁めいたものを感じざるを得なかったわけだ。
しかし、こうしたくだりは供述調書から完全にカットされていた。それどころか、「朝日新聞」という固有名詞すら割愛されていた。そのため、内部調査の際、小林検事正が問題のフロッピーディスクに関する資料を示しつつ、ズバリ切り出した重要なセリフが、次のようにすり変えられていた。
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