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高市総務相「電波停止」発言へのテレビキャスターたちの抗議会見の意味は大きい

篠田博之月刊『創』編集長

2月29日にテレビキャスターたちが高市総務相「電波停止」発言に抗議して行った会見はテレビ・新聞が大きく報道した。安倍政権の度重なる揺さぶりに萎縮が懸念されていたテレビ界だが、現場のキャスターたちがこんな形で声をあげたことは大きな意味を持っている。テレビのニュースなどではごく一部しか紹介されていないが、会見全編の動画がニュースサイト「THE PAGE」にアップされているので興味ある方はぜひご覧いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=1G3FPuVuHvo

そして、匿名ながら報道現場からも現状を憂慮するいろいろな声があがっていることを紹介した。これについては会見で紹介した現場の声が全文、下記のサイトにアップされている。また他の現場からも同じような声があがることを呼びかけている。

http://appeal20160229.blogspot.jp/

どうやって書き込めばよいのかちょっとわかりにくいのでこのサイト運営者にもう少しわかりやすい説明を書いておいてほしいとお願いしたいが、ともあれ、ここで報告されているテレビ現場の状況はかなり深刻だ。

私もこの会見は現場で最後まで聞いていたので感想を書いてみたい。

印象的だったのは「私たちは怒っている」という声明のタイトル通り、田原総一朗さんや岸井成格さん、鳥越俊太郎さんらの怒りが伝わってくるものだったことだ。これだけのメンバーが顔を揃え、しかも怒りの表明をするという場面はしばらくなかったことではないだろうか。

高市早苗総務相の発言に対しては「驚くだけでなく呆れ果てた。よく知らないであんな発言をしていたとすれば大臣失格です」(岸井さん)などと口々に怒りを表明。会見の最後に鳥越さんなどは怒りを抑えきれないかのように、「実は僕がテレビでキャスターを務めた時に高市さんを一緒に番組に出したいという提案があったんです。でも断りました」と舞台裏の話を披露し、高市さんの経歴詐称とも言える裏話まで紹介した。

岸井さんや鳥越さんらの世代は、まだジャーナリズムが権力を監視し、闘うのは当たり前とされていた。彼らにとっては、この間の政権によるメディア支配は到底容認できないものでまさに憤激の対象なのだろう。鳥越さんの発言も熱を帯びていた。

「これは政治権力とメディアの闘いなんです。しかも政治権力の側が攻勢を強め、メディアが後退している。ここまでメディアに介入して来た権力はないでしょう」「マスコミを、国民をなめきった安倍政権の驕りたかぶった態度の現われです」

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もうひとつ印象的だったのは、「ニュース23」降板が伝えられていた岸井さんが会見に顔を見せ、「私は圧力に屈したとは思っていない」と表明。昨年、右派が岸井さんの番組からの追放を狙って出した意見広告を「知性のかけらもない。あんなことやっていて恥ずかしくないのか」と強い口調で批判したことだ。さらに岸井さんは、そうした攻撃がかけられてからTBSを通じて視聴者から連日「頑張って下さい」という激励が寄せられていること、25000人もの署名も送られていることなどを紹介した。会見場にその分厚い署名を持参し、そうした声に励まされていると語った。岸井さん本人がこうした会見に登壇し、決意を述べたことの意味は大きいといえる。

寄せられた署名を前に岸井さん
寄せられた署名を前に岸井さん

キャスターがこんなふうに顔を揃えて、抗議の意思を表明するのは秘密保護法の時以来だが、約10年前の個人情報保護法などのメディア規制法が問題になった時には、日本テレビやフジテレビも含めた各局が顔を揃えた。それから10年を経て、全局が顔を揃えることは難しくなったのだが、今回、声をかけた他のキャスターからは、局に止められて出れないが応援はしているといった声も寄せられたという。こうして幾つかの局のキャスターが顔を揃えること自体、もう難しくなっているのではと懸念する向きもあっただけに、今回の抗議会見は今のテレビ界の萎縮ムードに大きな風穴をあけたといえよう。

こんなふうに現場から声を上げることでしか、今の状況は打開できない。匿名とはいえ、同時に読み上げられた報道現場の声も貴重だし、こうした声を上げている人たちを孤立させないことが必要だ。

しかし、一方で現状を見ると、決して楽観はできない状況があるのも確かだ。10年前のメディア規制法の時は、民放連など経営側の団体がシンポジウムを開いたり、もっと闘う意志を表明したものだ。今は定例会見で記者に高市発言について尋ねられれば批判的見解を述べるものの、積極的にそれに抗しようという姿勢は感じられない。市民の知る権利に応えて権力を監視するのがメディアの仕事というコンセンサスはいつのまにか消え、そうしたメディア側の姿勢が視聴者の不信感を招いてもいる。会見の中でも被災地で話を聞いてみると、テレビなどへの不信の声は今も根強いという現実が大谷昭宏さんから報告された。また鳥越さんからは改めて、メディアのトップが安倍総理と頻繁に会食するという現実がどんな萎縮を現場に与えているか指摘された。

今回のキャスター会見はテレビ界の現場で苦闘する人たちには大きな励みになったと思う。しかし、安倍政権の攻勢ぶりを見ていると決して楽観は許されない。まさにジャーナリズムは大きな岐路に立っているといえる。

なお高市発言については、3月2日に立憲デモクラシーの会も衆議院第二議員会館で樋口陽一さん(憲法学)や山口二郎(政治学)さんらが顔を揃えて会見を開く。この会見もぜひネットで全編公開し、多くの市民やメディア関係者が直接見られるようにしてほしいと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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