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ギリシャのユーロ圏離脱は怖くない=すべての国が離脱すべきとの議論も

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
EU(欧州連合)のギリシャ救済協議(7月12日)に出席したギリシャのチプラス首相(中央)=EUサイトより
EU(欧州連合)のギリシャ救済協議(7月12日)に出席したギリシャのチプラス首相(中央)=EUサイトより

ユーログループ(ユーロ圏18カ国の財務相で構成)が6月27日の会合で、総額2450億ユーロ(約34兆円)のギリシャ金融支援プログラムの期限(6月30日)を延長し、残りの153億ユーロ(2.1兆円)の支援を拒否したことで、ギリシャがデフォルト(債務不履行)になってユーロ圏加盟国の資格を失う、いわゆる、“Grexit”となる見通しが強まった。しかし、最近ではギリシャに対する新たな金融支援(第3次支援)協議が再開される見通しとなったものの、トロイカ(欧州連合(EU)と欧州中央銀行(ECB)、IMFの3機関)によるギリシャ救済を冷ややかに見る論調も出始めた。

米経済専門オンラインメディア、CNNマネーのイバナ・コッタソーバ記者は6月5日付電子版で、「今のギリシャのユーロ圏離脱危機は、ユーロ圏が2010年と2012年のギリシャ債務危機で崩壊の瀬戸際に立たされた当時と比べると、それほど世界の市場を震撼させるものではなくなっている」と述べ、ギリシャ危機はもう怖くない、と指摘する。同氏は、「そう考える6つの根拠がある」と指摘した。「一つ目はギリシャ政府の債務の内容が様変わりしたこと。2010年当時は債務の85%が民間セクターの投資家で、すでに多額の損失を受けているのに対し、今の債務の80%は外国の政府やECBやIMFといった公的セクターで、ギリシャがデフォルトになっても損失をうまく処理できる」という。

「二つ目はギリシャ債務の大部分を抱える銀行がないため、リスクが拡散しないこと。国際決済銀行(BIS)などのデータでは2014年末時点の外国銀行のギリシャ債務残高は460億ドル(約5.7兆円)で、2010年当時の3000億ドル(約37兆円)の15%に縮小している。三つ目はギリシャの破たんが他国に及ぶドミノ(将棋倒し)効果の懸念がないこと。債務危機の“予備軍”となっているポルトガルやスペイン、イタリアの経済状況は痛みを伴う救済プログラムの効果で改善しユーロ圏離脱の恐れが少ない」という。「四つ目はECBの1.3兆ユーロ(180兆円)の量的金融緩和でユーロ圏景気が刺激され、ギリシャの破たんの悪影響を相殺することが可能なこと。五つ目はユーロ圏経済が2012年のGrexit危機当時に比べて上向いていること。ユーロ圏の今年1-3月期GDP(国内総生産)は前期比0.4%増、年率で1%増にまで回復している。六つ目はユーロ圏債務危機に対する安全装置ができていること。ユーロ圏参加国は2010年の最初の債務危機以降、8000億ドル(約98兆円)規模の緊急流動性支援(ELA)の体制を構築している」と指摘する。

ギリシャ破たん、独仏が最大の敗者に

しかし、怖い論調もあるのは事実だ。英紙フィナンシャル・タイムズのEU経済専門のコラムニスト、ウォルフガング・ミュンショウ氏は6月14日の電子版で、「ギリシャ政府債務のデフォルトでフランスとドイツは1600億ユーロ(約22兆円)の損失を受け、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのフランソワ・オランド大統領は“最大の敗者”したとして歴史に名を残すことになる」と、両国の政権を揺るがす大問題に発展すると警告する。「債権者はギリシャ債務のヘアカット(債務元本の減免)を拒否しているが、ギリシャがデフォルトになれば話は違ってくる。債務負担の軽減を認めることは債権者にとって全額回収不能より好ましい選択肢となるので、結局、ギリシャは破たんせずユーロ圏に残る」と見る。

実際、ギリシャのヤニス・バルファキス財務相は6月14日付の地元紙「リアルニュース」のインタビューで、「Grexitで世界経済は1兆ユーロ(約140兆円)の経済的損失を受けることになるだけでなく、投資家や株主、一般国民もユーロ圏が絶対に崩壊しない存在ではないことが分かれば、政治的な打撃は計り知れない」と警告する。ギリシャの債務は約3500億ドル(約43兆円)で、うち、約2700億ドル(約33兆円)が国際金融機関などとなっている。

しかし、それでもギリシャのユーロ圏離脱を支持する論調は後を絶たない。米シンクタンクのインスティチュート・フォー・ニュー・エコノミック・シンキングのアナトール・カレツキー理事長は英紙ガーディアンの6月16日付電子版で、「最悪なのはギリシャのアレクシス・チプラス首相が“欧州にとってギリシャのデフォルトが脅威”という切り札を持っていると思い込んでいることだ。これは戦略的意思決定に関するゲーム理論の専門家であるバルファキス財務相が煽っている幻想だ。ギリシャのデフォルトはもはや欧州にとって深刻な脅威ではない。ギリシャの交渉戦略は自殺をほのめかして身代金を要求するものだが、ギリシャは自分の頭に銃を突き付けているだけで、もし引き金を引いたとしても欧州は全く気にする必要はない」と酷評する。

米経済誌フォーブスのコラムニストで英アダム・スミス研究所の研究員でもある、ティム・ウォーストール氏も6月15日付電子版で、「ギリシャが破たんしてユーロ圏を離脱してもギリシャ経済に及ぶ悪影響は最初の数カ月だけ。ギリシャもどの国もユーロを使うことによる貿易面でのメリットはもはや全くなく、むしろデメリットがある。だからこそギリシャがユーロ圏から新体制に移行する過渡期さえ越えればギリシャ経済に悪影響は起きない」、「ユーロが貿易面でメリットがあったのは初期のころだ。当時は通貨同盟だけでなく関税同盟でもあったので貿易面でメリットがあったが、その後、共通の金融政策を持つようになると、期待された貿易のメリットが得られなくなった。ユーロの壮大な“実験”をやめてギリシャだけでなく、すべての国がユーロ圏を離脱すべきだ」と主張する。

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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