メキシコにもある独立リーグ:現在開催中のラテンアメリカシリーズに出場する「もうひとつのメキシコ代表」
メキシコの冬季独立リーグ
メキシコには幾多のプロ、セミプロリーグがある。そのうちいくつかのリーグ、チームは、メジャーリーグとも提携を結び、傘下のマイナーリーグのロースターから漏れた選手を預かってプレーさせたりもしている。そういうリーグは、メキシカンリーグとは別個に運営されている独立リーグである。そもそも、この国の野球リーグは、アメリカのそれ同様、各地で自発的に起こったもので、それが長い年月をかけて、現在は各々メジャーリーグと提携を結んだ、夏のメキシカンリーグと冬のメキシカンリーグのもと組織されている。このシステム外にある地方リーグの多くは、先日紹介したメリダリーグのように、地元自治体、企業などにスポンサーになってもらい、地元ファンに無料で試合を開放している。そのため、「プロ」を名乗ることはないものの、選手には若干の報酬を支払っている。
その中、プロの独立リーグとして運営されているのが、「リガ・ベラクルサナ・エスタータル・デ・ベイスボル」(ベラクルス州野球リーグ、以下ベラクルス・リーグ)だ。その名の通り、メキシコ湾に面した東部・ベラクルス州に4球団で展開されている。
このリーグは、かつて存在したウィンタリーグを復活させるかたちで2005年冬に、「リガ・インビエナル・ベラクルサナ」(ベラクルス・ウィンターリーグ)としてリーグ戦を開始した。発足当初は、ベラクルス州の4チームに加え、隣のチアパス州の2チームも参加し、2011-12年シーズン後にはコロンビアリーグチャンピオンとの国際シリーズも実施した。このシリーズを契機に、翌2013年、コロンビア、ニカラグア、パナマのウィンターリーグとベラクルス・ウィンターリーグによりラテンアメリカプロ野球協会(ALBP)が結成され、この4リーグのチャンピオンによるラテンアメリカンシリーズが、メキシカンリーグのアギラスデロッホ・デル・ベラクルス(ベラクルス・レッドイーグルス)の本拠、ベラクルスのベト・アビラ球場(ベト・アビラはMLBでアメリカ人以外で最初に首位打者になったメキシコ人選手)で実施された。この第1回大会で、ベラクルス・ウィンターリーグのチャンピオン、ブルホス・デ・ロストゥストラは優勝を飾っている。
この頃までは、本格的なプロリーグとして、年をまたいで数十試合を消化していたが、次第に試合数も減り、2016-17年シーズンには州内のみの「リガ・デ・ベイスボル・エスタータル・デ・ベラクルス」として再出発、この冬に再度、「リガ・ベラクルサナ・エスタータル・デ・ベイスボル」と改名してシーズンに臨んだ。5球団制で臨む予定だったが、開幕直前に1球団が参加を取りやめ、結局4球団制で、10月末から12月下旬までの短いシーズンを戦った。現在は、試合は週末のみ、各チームレギュラーシーズンの試合数、20試合ほどのミニリーグとなってしまっている。
大盛況のプレーオフ
今回の取材では、12月中旬に行われた決勝プレーオフに密着した。アカユカンという野球でもなければ絶対に来ないだろうなんの変哲もない地方都市でのゲーム。指定されたビジターチームの定宿を探すのに手間はかからなかった。町はずれのバスターミナルから町の中心セントロまで徒歩10分。広場近くの4つ星にしてはあまりに古いホテルでビジターチーム、ハラパ・チレロスの一行と合流した。一行はまるで草野球チームのように、自家用車とバンに分乗、車の中は野球道具で満杯になる。バッグの側面に描かれた様々なチームのロゴに、このチームがジャーニーマンたちの集まりであることが現れている。
「チームは友達の集まりさ」
と夏はトップリーグのメキシカンリーグでプレーする、アンヘル・ロドリゲスは言う。運送業で財を成した地元企業家オーナーを務めるこのチームの運営は、彼のいとこである主将の元マイナーリーガー、フランキー・ロドリゲスが行い、監督はふたりの叔父が務めている。選手の多くは、チームの本拠、州都ハラパから車で1時間ほどの州内第一の都市、ベラクルス周辺に住んでいるので、まさに「友達」の集まりだ。
リーグの規則で、夏もプロリーグでプレーする「現役」選手は8人まで。それに最低5人はプロ未経験のルーキーをロースターに入れなければならない。この13人に、現在は冬しかプロとしてしてプレーしていない、半ば引退したフリーエージェントの選手、それに助っ人外国人を加えてチームを構成するが、ホームタウン、ハラパに用意されたホテルに住む助っ人以外は、球団が住居を用意してくれることはないので、必然的にチームは、「ご近所さん」で構成されることになる。このチームは、オーナーと助っ人を乗せた車が、キャプテンのフランキーの屋敷に立ち寄り、ここに集合したメンバーを拾って遠征に出かけるという。その姿は、日本のクラブチームか草野球と大差ない。
一行を乗せた車2台は、市街地を出ると、安食堂前で停まった。ここで朝食をとる。その後、隣町、オルタにある球場へ。一見野球場には見えない小さな球場。選手たちは、レフト側にある入り口からフィールドに入り、ベンチ裏のロッカールームとも言えない、空き部屋に荷を下ろすと、各自アップを始めた。客席と言えば、1,3塁ベースまでの小さなスタンドと、レフトポールから左中間にある入り口との間に石段があるだけだ。とてもプロが使うような球場ではないように見えるが、ラテンアメリカでは珍しいことでもない。
ラテンアメリカのファンの入りは遅い。試合開始時には半分ほどの入りだったスタンドは、試合中盤にはほぼ満員になっていた。ここでは、地元チームに対する応援もとくにない。得点時のファンのわき返り具合でどちらがホームチームかがやっとわかるくらいだ。人々は、場内を練り歩く売り子から、スナックや、セビチェ(魚介類のマリネ)、タコスを買い、缶ビールをあおりながら、のんびり観戦する。入場料15ペソ(80円)は、決して豊かではないこの田舎町の人々に、手軽な娯楽を提供している。球団の収支は黒字になることはないだろう。それでも、地元の成功者であるオーナーたちは、地域への還元とみずからの誇りのため、野球チームを運営している。
試合は、終盤のキューバ人助っ人、ラウデル・ベルデの一発で地元チーム、トビス(小さな犬の意)が逆転勝利を収めた。勝てば5戦3勝制のシリーズで王手をかけ、次週末の地元での連戦を迎えることができたチレロスだったが、痛い星を落としてしまった。
「野球だからこういうこともあるさ」
チレロスのチームリーダー、フランキーは試合後淡々と語った。一行は、シャワーを浴びることなく(そもそもシャワーなどない)、着替えると、ホームチームから差し入れられたビール片手に、チキンとトルティージャ、スープの弁当を食べると、車に乗り込んだ。4時間のドライブののち、ベラクルスに帰った一行を出迎えてくれたのは、地元の少女たちの歌での出迎えだった。
この冬のベラクルスリーグの決勝シリーズは、オルタでの最終第5戦までもつれ、地元アカユカン・トビスが優勝を飾り、1月末にニカラグアで開催されるラテンアメリカンシリーズへの切符を手にした。このシリーズには、カリビアンシリーズ同様の補強選手制度がある。プレーオフで敗れたチレロスの選手も「メキシコ代表」として数人参加していることは、彼らからのメールで知った。今、彼らは「もうひとつのウィンターリーグチャンピオン」目指して、この冬最後のゲームを戦っている。
(写真はすべて筆者撮影)