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身長の発表も世界基準!? バスケ日本代表がW杯直前に大きくなった理由

大島和人スポーツライター
比江島慎選手の登録は193センチに(写真:松尾/アフロスポーツ)

米欧と身長に大差がない日本

9月1日、バスケットボールの男子日本代表は上海でワールドカップの初戦を迎える。本大会に登録された12選手の平均身長は199センチ。初戦で当たるトルコが200センチ、3日に対戦するチェコが200センチ、5日に対戦するアメリカは201センチとほとんど身長差がない。

現代バスケの潮流が「ポジションレス」に向かっていることは一つの背景だ。センター(5番)、パワーフォワード(4番)のようなインサイドも3ポイントシュートを打たなければトップレベルで生き残れない。7フッター(身長213センチ以上の大型選手)がどんと中央で構えるのでなく、2メートル前後の「万能選手」を4人5人と並べるーー。そういうスタイルがスタンダードになり、スモールラインアップが増えている。

そうはいっても日本は急に大きくなった。例えば4年前のFIBAアジアカップから平均7センチ伸びている。ニック・ファジーカス(川崎/大会のエントリーは「ファジーカス・ニック」)や八村塁(ウィザーズ)の代表入りはもちろん一つの理由だ。また今大会は167センチの富樫勇樹(千葉)が負傷で欠場し、183センチの安藤誓哉(A東京)が入ったため、それだけで平均が1.33センチ伸びた。

世界基準はシューズ込み

ただ個別要素を別にして「個」の身長増が目立つ。東野智弥技術委員長が冗談交じりに明かしてくれた理由が「世界基準に合わせた」というものだった。

読者のみなさんも小学校、中学校で身体測定を経験しているはずだが、日本は裸足で身長を測る。一方で世界のバスケはシューズ込みの身長がスタンダードだった。

元から「世界基準」で登録していたファジーカス、馬場雄大(A東京)らの登録身長には変更がない。しかしラマス・ジャパンは大会前に3センチ程度の「成長」を達成した選手が目立つ。

比江島慎(宇都宮):190センチ→193センチ

竹内公輔(宇都宮):206センチ→209センチ

田中大貴(A東京):192センチ→194センチ

竹内譲次(A東京):207センチ→209センチ

安藤周人(名古屋):190センチ→193センチ

シェーファーアヴィ幸樹(滋賀):205センチ→208センチ

Bリーグを取材していれば、日本人選手が総じて小さめに登録されていると気づく。外国籍選手には「世界基準」でも説明のつかない背伸び感を感じる選手もいる。

スペックがキャリアを左右する

程度の問題はあるが、身長を大きめに登録しても損はしない。人間は数字に支配される生き物で、極端に言えば大きく強いと「思わせる」だけで先手が取れる。転職ならば「職歴」「学歴」がアピールになるし、自動車なら馬力、燃費といったスペックが売りになる。身長もそれと同じで、アスリートの評価を左右するポイントだ。

逆に言えば日本バスケは今まで国内外で不必要な、過小評価の種を撒いていた。日本人選手がサッカーや野球のように世界へ出ていくことを考えれば、身長くらいは「世界基準」に合わせていい。

サッカーでもGK、DFといった身長を問われるポジションは「身長を盛る」傾向がある。「170センチ台前半のCB」「170センチ台のGK」は食品で言えば“規格外”で、そもそもプレーをチェックする前にハネられる。特に「盛り」が大きいのはプロレスの世界だろう。競技を問わず「自分をどう見せるか」「どう見られるか」はその人のキャリアを大きく左右する。

今回のラマス・ジャパンは「世界基準に揃えた」だけで、盛っているわけではない。実際のサイズ感はコートに出れば一目瞭然だし、極端な過大申告をすれば選手やチームが信頼されなくなる。また世界の強豪は試合の中で表現する「本当の高さ」「強さ」があり、サイズを活かす術に優れている。

それでも「2センチ」「3センチ」の違いが与える印象の違いは無視できない。そういう細かい配慮がチームや選手に対する先入観を決め、その後の命運を左右する。日本代表の戦いは、身長発表から既に始まっていた。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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