国境なき医師団の村田さんの妥協なき「信念の本」
人間は、自分が実際にそれに近いことを感じたり、経験したりして、考えたことでないと、他の方の生き方や考え方を読んだり学んだだけでは、自分の生き方を変えたり、自分の人生の新しい方向のための指針を得ることは難しい。
だが、そのような人間性の現実に妥協することなく書かれた本がある。
それは、書籍『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』である。
その著者は、村田慎二郎さんだ。村田さんは、現在国境なき医師団日本事務局長。これまで、大学受験や就職活動、語学力などでも何度も苦境を経験してきたが、屈することなく、「世界の現実を自分の目で見たい」と考え、国境なき医師団に入団。その過酷な現場でアドミニストレータや活動責任者の様々な重責を担い、厳しい現実や結果にも直面しながら、その経験も糧にし、活かして、活躍してきた。その間、ハーバード大学のケネディスクールにも留学、日本人にある語学力やメンタリティーの制約も克服、ある意味でそれらも活かしながら、学業でも成果を得て、その学んだことを、自身および活動にも活かし、現在、日本人初の国境なき医師団日本の事務局長に就任し、現在も、「限りある命こそがまず一番大切」という信念のもと、活躍を続けている。
このような経歴を書いていくと、村田さんは、多くの困難などに直面しながらも、その強い信念で乗り越えて、絶えず成長している「信念の人」というイメージを持たれるかもしれない。だが、本書を読めばわかるが、村田さんのこれまでの人生はそれほど一直線のストレートな順調なものではない。
村田さんは、僭越ないい方をすれば、ある意味で日本の社会にどこにでもいる、普通の存在だった。超優等生でもない。少なくとも元々は信念の人でもなかった。
高校時代、大学受験、大学・就職留年時代、新卒社会人時代、そのどれをとっても、ある意味で日本のどこにでもいる普通の存在だ。現在の活動の場である国境なき医師団の入団も、「世界の現実を自分の目で見てみたい」という「気持ち」に基づくもので、入団当時、現在のような強い信念ではなく、何年かの経験をしてみよう程度のものだったようだ。実際入団直後の避難民キャンプの経験で日本への帰国願望が即生まれている。実は柔かったのだ。
他方、就活時代に出会ったキャリアデザインスクール「我究館」館長の故杉村太郎さんや国境なき医師団の活動のなかで出会った避難民、現地の人々、同団の仲間たち等々および彼らとの成功や失敗も含めた経験や言動などが、村田さんの活動を方向づけ、信念を磨き、強くしていった。
また村田さんは、紆余曲折はあるが、絶えず向上すべく、学び続けようとしてきた。村田さんのこの性向も、若かりし頃はそれほど強固なものであったとはいえないが、自身の経験の中で、先鋭化していった。その一つの表れが、ハーバード大学留学だろう。
そして村田さんの留学で重要な点は、同大で学んだことを、現在の活動でも活かし、学びと活動および仕事のインターラクションをして、成長されていることだ。この点は、最近注目されてきている社会人が学び直しを行う「リカーレント教育」や働きながら新しいスキルを身に付けてスキルアップする「リスキリング」などでも重要な視点だろう。
村田さんは、本書において、これまで述べてきたような自身のさまざまな体験や考察を基に、人生において「命の次に大事なこと」について論じると共に、その大事なことをどのように実現していくかということについて考えたり、どのように活動・行動すべきかを提示している。これは多くの方々にとっても知りたいところだろう。
また、本書は、先にも述べたように村田さんの人生を通じて形成・強化されてきた「信念の書」である。村田さんの「信念」は熱く、時に熱すぎるが(失礼!)、それに触れてみるのも、いいだろう。
世界・海外、避難民、被災地・戦地……。多くの日本人にとり、別の世界のように感じるかもしれない。だが、普通の存在であった村田さんが、その世界で活躍してきたことを考えると、その世界は、実は私たちとつながっており、別の世界で決してないことを感じることができると思う。
ぜひ多くの方々に、書籍『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』を読んでいただきたいと思う。お薦めである!