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日本の影響?中国の中学・高校の制服が、いつの間にかジャージから日本風の学生服に変化しつつある!?

中島恵ジャーナリスト
日本の女子高生の制服は中国の若い女の子たちにとって憧れ(写真:アフロ)

 今日(4月1日)から新年度。学校の入学式や始業式は来週のところが多いようですが、新入生を持つ保護者たちは、子どもが着る制服を早々に新調し、その日を心待ちにしていることでしょう。

 日本の学校の制服は、男子は詰襟やブレザー、女子はセーラー服やブレザーで、濃紺などの地味な色に統一されていることが多いです。靴や靴下まで指定の色やメーカーのものに指定されていることが一般的ですが、こうした日本人にとって当たり前の学生服のスタイルは、中国のZ世代の若者たちにとって「憧れの的」になっています。

日本の学生服風の服は「コスプレ」用

 以前書いた以下の記事の中で、中国で流行っているJK(女子高生)ファッションについて少し触れました。

なぜ中国の若者はコスプレ衣装を着て、お花見の写真を撮りたがるのか?セーラー服、漢服、ロリータ風……

 中国の若者は、日本の女子高生の制服風の衣装をネット通販で探して購入することが多く、それを着て「コスプレ」を楽しんでいます。お花見やコンサート、同人イベントなどに着ていくことが定着しており、人気があるデザインの衣装は、注文してから手元に届くまで「数か月待ち」になることも珍しくないとか。

 なぜ、それほどまでに日本の学生服風の衣装の人気があるかというと、日本のアニメやゲームなどによく登場するからで、彼らが日本のサブカルチャーの影響を強く受けていることがわかります。その上「中国の制服と違って、見た目がかわいいから」というのも大きな理由です。

 中国の小学校、中学校、高校の制服を見たことがあるでしょうか?

 中国の制服は、以下の写真にあるように、大多数がジャージです。中国では制服のことを「校服」といい、学校によって色やデザインは異なりますが、たいていは白、赤、緑、青色などを基調にしたシンプルなものが多く、夏服と冬服があります。

中国の学生の制服は基本的にジャージが多い(中国ドラマ『最好的我們』より筆者引用)
中国の学生の制服は基本的にジャージが多い(中国ドラマ『最好的我們』より筆者引用)

 もちろん、体育の授業のときだけに着るのではなく、1日中、教室で授業を受けているときも、この服装で過ごすのですが、なぜか「ダボダボ、ぶかぶか」。中国の街角で登下校中の学生たちとすれ違うと、袖や裾が長めで、身体よりもかなり大きめサイズのぼたっとしたジャージを着ているな、という印象を持ちます(上の写真はドラマのワンシーンなので、ぼたっとしていませんが……)。

 価格は、夏服なら1セット(上下)約100元~150元(約1680円~約2520円)、冬服なら同じく約200~250元(約3360円~約4200円)と、日本に比べて非常に安いもので、カバンや靴には、とくに指定がないことが多いです。

 安くて丈夫な上、大きめのサイズを着ているので、急に身長が伸びても安心。経済的で機能的、洗濯もしやすいというメリットがありますが、ファッションへの興味や関心が高い若者にとって、「心がときめく制服」や「毎日着たい制服」でないことは確かです。

 事実、中国のサイトで「校服」について検索すると、「難看」というキーワードがよく出てきます。これは「不格好」「見た目が悪い」などの意味で、つまり、中国ではそれくらい、学校の制服=カッコよくない服、というふうに認識され、嫌がられているのです。

急激に増加する日本風の学生服の需要

 しかし、昨今、急激な経済成長による所得の向上や、生活のゆとり、日本など海外の情報がSNSを介して大量に入ってきたことなどにより、「中国の制服はダサくて嫌い。日本の学校のようなかわいい制服を着たい」という若者の声がどんどん大きくなっています。

 一人っ子である我が子にお金をつぎ込む保護者たちからも、「値段が高くてもいいから、品質がよくて、ちゃんとした制服を着させてあげたい」という意見が急増しており、これを受けて、有名私立を中心に、一部の名門の公立学校でも、日本風や英国風などの制服を採用するところが出てきました。

上海市内にある高校の制服。ジャージ以外の制服を採用する学校が少しずつ増えてきている(中国のサイト「上海学連」より筆者引用)
上海市内にある高校の制服。ジャージ以外の制服を採用する学校が少しずつ増えてきている(中国のサイト「上海学連」より筆者引用)

 このような動きが始まった背景を調べてみると、きっかけは2014年3月でした。米国のオバマ大統領(当時)の訪中時、ミシェル夫人が北京の中学を訪問したのですが、その際、ネット上で「こんなにダサい制服で夫人をお迎えしてもいいのか?」「大統領夫人をお迎えするのに、ジャージでは失礼だし、恥ずかしい」といった“制服論争”が沸き起こったのです。

 そもそも、中国の学生の制服がジャージになったのは1990年代からと、そう古いことではありません。ジャージであれば、貧富の差があっても、たいていの家庭で購入できる上に、動きやすいことから、このようなスタイルになったようなのですが、ここ数年のライフスタイルの変化により、子どもの学生服に対しても、より質の高いものを求めるようになっていきました。このミシェル夫人の中学訪問以降、中国政府も腰を上げ、制服改革が進んでいったといわれています。

 その結果、最近、学生の制服に関するファッションショーや見本市などが開かれるようになっており、学生服が新規ビジネスとして注目されるようになりました。日本の大手毛織物メーカーで、学生服向け生地で日本国内シェアトップを誇る「ニッケ」(大阪市)も中国に進出。高級学生服の販売を拡大させています。

 中国の情報によると、中国の小学生から高校生までの学生数は約2億人。学生服の市場規模は日本円にして1兆円以上といわれており、それは日本の10倍以上にも上ります。まだ、中国の大多数の学校ではジャージを一般的な制服として採用していることを考えると、この先、かなりの市場拡大が見込めそうです。

 今のところ、日本の学生服風の衣装は「コスプレ」や「ファッション」として中国の若者の間で大人気となっています。日本では厳しい制服のルールなどに賛否両論が起きるなど、すでに次のステージに進んでいますが、中国では「誰もが同じく高価な制服を購入できる時代に入ってきた」ということができ、状況は異なります。

 近い将来、中国の学校でも、日本人の学生のような制服を着る若者が増え、そして、それを少しだけアレンジして、自分なりの“制服ファッション”を楽しむようになるかもしれません。

参考記事:

なぜ中国人は重いランドセルを背負う日本の子どもを見て驚き、そばに保護者がいないことを不思議がるのか?

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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