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全員ヘルメット努力義務化は子どものリスク低下にも効果あり? 意外と知らない自転車事故も

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:アフロ)

本日4月1日から改正道路交通法が施行され、自転車利用者のヘルメット着用が努力義務となります。

警視庁「自転車用ヘルメット着用」(更新:2023年3月20日)

これまでは、「保護者は13歳未満の子供にヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない」というものでした。今回の改正で、子どもだけでなく大人も含めた全員が自転車に乗る際にヘルメット着用が義務となります。

今回の改正は一見子どもに関しては変わりないように思えます。しかし、この改正は子どもにも大きな影響が期待されます。どうしてなのでしょうか。また自転車によるケガは頭だけではありません。今回はヘルメット着用をはじめ、こどもの自転車事故に関する話題について考えたいと思います。

自転車によるケガは意外に多い

警察庁のデータでは、平成24-28年の5年間の15歳以下の子供の交通事故による死傷者数は25万人で、このうち自転車乗車中が9.3万人(37.4%)でした(1)。

自転車のケガでもっとも多いのは高校生(特に高校1年生)ですが、中学生以下の小児でも事故は起きています。

中には医療機関に搬送されるケガも少なくありません。米国では2012年に救急病棟で治療された5-9歳の小児のケガのうち、自転車外傷は6番目に多く、10-14歳では5番目に多かったと報告されています(2)

2001~2004年に米国内の救急科で自転車によるケガで治療を受けた患者約6万2000人を調べた報告(3)によると、自転車によるケガでもっとも多かったのは擦り傷など手足のケガ(41.9%)でした。一方で入院した患者について調べてみると、自転車でケガをした患者の中で一番多い負傷部位は頭で約32%を占めていました。頭のケガになると重傷になりやすいことがわかります。

ヘルメット着用でケガのリスクが大幅低減

そうなると、やはり自転車による深刻なケガを防ぐには頭を守る必要があります。それでヘルメットの装着が推奨されているわけですが、実際にどれくらいの効果があるのでしょうか。

自転車のヘルメットの有効性を調べるために、5つの研究をメタアナリシスという手法でまとめた研究によると、ヘルメット着用により、頭部外傷のリスクを85%、脳損傷のリスクを88%減少でき、顔の上側と中央部のケガを65%減らせる効果があることが分かっています(なお、顔の下面と顎の保護効果はありません)(4)。

このように明確な効果が証明されているため、現在は各国で自転車に乗る際のヘルメット着用を定める法律が制定されています。

日本も同様で、これまでは『幼児及び児童(13歳未満)が自転車を運転する際にヘルメットを被るよう、保護者は努力義務がある』(道路交通法第63条10)としてきました。

大人がヘルメットを着用すると、子の着用率が上昇

今回の道路法改正は、幼児及び児童に加えて大人も対象にするという内容ですが、これは子どもの着用にもプラスに働くことが期待されます。

それは、「大人が着用していると、子どもの着用率が上がる」ことが分かっているためです。

大人が常にヘルメットを着用しているとは限らない場合、子どもがヘルメットを着用する割合は38%だったのが、大人が常に着用している場合には子どもが着用する割合は90%だったと報告されています(2)。

したがって、今回の改正で大人のヘルメット着用が当たり前になることで、子どもの着用率もさらに上がることが期待できるのです。これは小児科医としても喜ばしいニュースです。

子どもにヘルメットを習慣化させるために 「毎回・必ず」が大切

でも、なかなか子どもにヘルメットの習慣をつけるのも大変、という保護者の方もいらっしゃると思います。アメリカ小児科学会は、子どもにヘルメットを被らせる習慣をつけるために、次のような方法をお勧めしています。

ヘルメット習慣をつけるために(アメリカ小児科学会)

・三輪車や自転車に乗り始めたら、小さい頃からヘルメット着用を習慣づける

・保護者自身がヘルメットを被ってみせる

・どうしてヘルメットをするのが大事なのか、次の2点を説明する  

 ①自転車は乗り物で、おもちゃではないこと  

 ②頭のケガは一生に残る傷を負ったり場合によっては命に関わること

・子どもがヘルメットを着用したら褒める

・ヘルメットを被らなければ自転車に乗ってはいけないルールを作る

・子どもの友達の家族も巻きこみ、同時にヘルメット習慣をつけると効果的

頭部外傷は路地や車道、自転車道路、公園などあちこちで起こり得ますが、いつ起こるか予想できません。すぐ近くへの移動だから、という例外を作らず、毎回必ず着用することが大切です。

ちなみに子どもの自転車のケガと言えば頭だけではありません。ハンドルによる外傷で、頸や胸・お腹などにケガをするケースもあります(ハンドル外傷)。また、小さなお子さんを後部座席に乗せていて、その足が車輪に巻き込まれるケース(スポーク外傷)もあります。これらについても説明しておきたいと思います。

ハンドル外傷は重症化リスクが高いが気づかれにくい

自転車のケガの中には、運転中にバランスを崩して前輪が子どもの体と垂直方向に回転し、ハンドルの先端が胸やお腹にぶつかるハンドル外傷があります。

頻度は多くないものの、ハンドル外傷はハンドル以外の自転車に関連する外傷と比べて、腹部にケガを負うリスクが高いこと、手術治療を必要とする可能性が高くなること、一方で、外からの見た目ではあまり重症に見えないため、家族などが最初に状態を過小評価しやすいリスクがあることが報告されています(5)。

予防としては、ハンドルの形状を工夫して外力が1点に集中しないような形にするなど製品開発も重要ですが、まずは自転車のハンドル外傷の危険性について、もっと一般に知られるべきだと考えます。

幼児が後輪に足を挟まれるスポーク外傷にご注意

都市部では送迎や買い物で、小さなお子さんを自転車に乗せるケースもあるかと思います。そのような場面でも事故の報告があります。

たとえば自転車走行中に、子どもの足が車輪に巻き込まれて受傷する、いわゆる「スポーク外傷」です。スポーク外傷は大変危険なケガで、骨折やアキレス腱損傷など大きなケガに繋がる可能性も指摘されています(6)。国民生活センターの報告では6歳以上の子どもの同乗でリスクが高くなることが分かっており、毎年30件ほど起きているようです(7)。

また自転車走行中に限らず、停車中にも起こる事故もあります。玄関のかぎを開けるために子どもを座席に乗せたまま自転車から離れたタイミングで自転車が転倒したなどの報告もあります(8)。

大人の自転車に子どもを乗せるときの注意としてアメリカ小児科学会は以下の点に気をつけるよう指摘しています(9)

・1歳未満の乳児は首の構造が弱くヘルメット着用には幼すぎるため

 自転車に乗せない

・自転車後部の座席は

 ①後輪にしっかり取り付けられている

 ②足や手が車輪に巻き込まれないようにスポークガードをつける

 ③背もたれが高く、眠っている子どももサポートできる頑丈な

  ショルダーハーネスとラップベルトを準備する

今回はヘルメット着用に関する法改正を機会に、自転車のヘルメットや、自転車に関するケガについてお伝えしました。

参考文献

1.警察庁. 交通事故分析資料(子供等の交通事故について),2017

2.Jewett A, Beck LF,et al. J Safety Res. 2016;59:1-7.

3. Haileyesus T, Annest JL, et al. Inj Prev. 2007;13(3):202-6.

4. Thompson DC, Rivara FP, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2000;1999(2): Cd001855.

5.廣瀬 智, 小倉 裕,他.日本救急医学会雑誌. 2013;24(11):933-40.

6.安井 直, 辻 聡,他. 日本小児科学会雑誌. 2009;113(11):1701-4.

7.国民生活センター. 自転車に乗せた子どもの足が車輪に巻き込まれる事故に注意 2016

8.消費者庁. 子どもを乗せた「幼児用座席付自転車の事故」(転倒など)に気を付けましょう(平成30年5月9日公表)

9.American academy of pediatrics. How to Protect Child Passengers on Adult Bikes(Last Update 8/3/2022)

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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