【デキは良いが…】トヨタC-HR 75/100点【河口まなぶ新車レビュー2017】
【2017年2月28日:追記:採点を星の数から100点満点に変更しました。】
【成り立ち】プリウスを基本を共にするTNGA第2弾モデル
トヨタが送り出したコンパクトSUVのC-HRは、いまやトヨタを代表するモデル…いや国民車といっても良いプリウスと基本を共にする成り立ち。これはTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)と呼ばれる、新たなプラットフォームを含む技術群を採用しており、C-HRはその第2弾にあたる。それだけに、”プリウス・ベースのSUV”といわれる。
実際、動力源には1.8Lエンジン+モーターのハイブリッド・システムが用意される。その他に1.2L直4ターボ・エンジンを用意しており、ハイブリッドは前輪駆動、1.2Lターボは4WDという風に分けられる。そしてそれぞれに、装備充実の上位モデルと廉価モデルを用意しており、ハイブリッドの廉価版がS、上位モデルがG。1.2Lターボの廉価版がS-T、上位モデルがG-Tという風に全4モデル構成となる。
【デザイン:85/100点】トヨタとしては珍しい”好き嫌いが分かれる”デザイン
開発主査の古場博之氏はC-HRで「デザインと走りをとにかく追求した」という。確かにデザインは非常にダイナミックで印象的。無機質ながらも塊から削り出したような印象を与える外観は、ヘッドランプやバンパー下周り樹脂パーツまで徹底してデザインされており、見えないところは手を抜いた…という感覚は一切ナシ。前回の東京モーターショーにコンセプト・モデルが登場した時に、「ほぼこのままのデザインで市販する」と聞いて「本当か!?」と思ったが、確かにコンセプトカーのようなダイナミックさはしっかりと感じられる。
一方インテリアも、細かな部分まで徹底してデザインされているのが見てわかる。エアコンのスイッチやメーターの針一本に至るまでこだわっており、シート等も機能はもちろん、上級者に見られるようなキルティング風のデザインを入れるなどガンバっている印象。さらに天井を見上げると、ルーフライニングにまでデザインがなされていて驚く。
しかしC-HRのデザインで最も意義があるのは、トヨタのデザインとしては珍しく”好き嫌いが分かれる”ものを作り上げたということだろう。トヨタといえば、かつては”80点主義”、”金太郎飴”と言われ、そのデザインに関しても最大公約数的に好かれるような、悪くいえば印象に残らないようなデザインが多かったように思える。そこからするとC-HRのデザインは好き嫌いが明確に分かれるような指向性の強いものとなっている。好き嫌い、良い悪いは別にして、評価としてはそのような点が注目できる部分だ。そして筆者はここまで好き嫌いの分かれるデザインを実現した点には高い評価を与えられると判断する。もっとも好き嫌いは別として。
【走り:85/100点】世界一厳しいコースで走りこんだ成果あり
ダイナミックな見た目だけにその走りはとてもスポーティだと想像したが、実際に走らせて驚いたのはタイヤがヒタッと路面に吸い付くような感覚を持っており、とても滑らかな印象を与えてくれること。見た目とはウラハラに、しっとりした感触が漂っているのだ。またカーブを曲がる時の挙動などもしっかりコントロールされており、しなやかにクルマが傾いていく。それだけに走り全体に落ち着いた印象を受ける。そして素直に「良い走りだな」と感じる、欧州車を思わせるものがある。これは走行性能を徹底して磨いた成果。開発主査の古場氏は、自らレースにも出場するほどの走り好き。今回の開発でも、世界一厳しいコースであるニュルブルクリンクでテストを重ねた他、発売前にはニュルブルクリンク24時間レースでC-HRのレーシングカーを出場させて、ここで得た経験を市販モデルにもフィードバックしている。世界一厳しいコースで鍛え抜かれただけに、いたずらにスポーティな味付けではなく、様々なクルマを試している我々を唸らせる奥行きの深い走りを構築することができたといえる。各モデルの印象だが、SおよびS-Tの場合17インチを採用しており、GおよびG-Tの場合18インチを採用している。筆者が試した試乗車は全てミシュランのプライマシー3を装着していたが、17インチよりも18インチの方が好印象。冒頭に記した、タイヤが路面に吸い付く感覚があるのは18インチで、17インチの場合は印象は軽快だが路面の悪いところでヒョコヒョコ跳ねる感じが強く落ち着きがなくなる傾向だ。
【装備:75/100点】全車速域対応のアダプティブクルーズコントロールを採用
装備面で注目は、全車速域対応のアダプティブクルーズコントロールを含む、トヨタ・セーフティセンスPを全車標準採用したことだろう。前走車との車間や速度差を把握してクルマの側でアクセル・ブレーキを自動で操作することで、ドライバーはハンドルだけを握っていれば良いアダプティブクルーズコントロールでは、実は前走車が停止した時にまで対応するものが国産モデルでは少ない。多くは30km/h以下でシステムを解除してしまい、この機能がもっとも必要と思われる渋滞時に対応していないのだ。そうした中で、停止までコントロールしてくれるアダプティブクルーズコントロールを採用したことは高く評価できる。これによって渋滞時の万が一を確実に防いでくれるし、渋滞時の頻繁なストップアンドゴーによる運転疲れも軽減してくれる。ちなみに燃費は1.2Lターボ4WDが15.4km/L、ハイブリッドが30.2km/Lとなっており、1.2Lの燃費は1クラス下のライバル比でも厳しく、ハイブリッドになるとプリウス譲りの燃費の良さを感じる数値を達成している。
【使い勝手:65/100点】デザイン重視でリアシートとラゲッジは…
C-HRはスタイリングを重視しており、リアのハッチはかなりの角度で寝ている。これによってスピード感のあるシルエットとスポーティな印象を与えてくれるが、一方でリアシートやラゲッジは犠牲になっている。もっともリアシートは、実際に座る分には足元にも余裕があり、ヘッドクリアランス等も身長168cmの筆者が座っても頭が天井に当たるなどはない。が、窓が小さいことなどもあって、閉塞感は強くある。この辺りは、閉塞感を強く感じる人と、むしろ収まりの良さを感じる人もいるようだが…。またラゲッジは奥行きはともかく高さ方向はさほど期待できない。ゴルフバッグは荷室横のカバーをはずすと横積みすることが可能だ。とはいえ、この辺りの使い勝手は特別良いというわけではない。
【価格:65/100点】クラスを考えると高価な印象は否めない
1.2Lのターボ4WDモデルは、251万6400〜277万5600円。ハイブリッドFFモデルは、264万6000〜290万5200円となる。多くの人はC-HRの姿形から、ホンダ・ヴェゼルやマツダCX-3、日産ジュークなどと比べてしまいがちなために、それらに対してC-HRは割高という印象を抱きがちであるが、実際にはプリウスベースであるため、フィットベースのヴェゼルやデミオベースのCX-3や、マーチベースともいえるジュークよりはクラスがひとつ上となるモデルであることに注意したい。実際ヴェゼルは200万円を切る価格からスタートしており、ハイブリッドFFの上位モデルで267万円と、価格的にもひとクラス下という印象だ。それにプリウスベースのSUVと考えれば、プラスαでこの価格…と考えれば納得もいく。ただしC-HRと比べるとひとつ上のクラスに位置する登場したてのマツダCX-5はクリーンディーゼルを搭載したFFの中位モデルで300万2400円と十分に競合することを考えると、C-HRは決して安くはない…という印象を与えてしまう。
【まとめ:78/100点】デキは良いが…
デザイン、走りに関しては、最近のトヨタの中でもかなり優れていると筆者は感じた。トヨタもこうしたクルマを作るようになったと思うと、豊田章男氏が常々口にしている「もっといいクルマ」は確実に具現化されてきている、と感じる。1日見て乗って走らせて好印象を受けたことは間違いない。しかし、価格を含めて考えるとその評価は少し変わってくる。確かにデキは良いし、プリウスベースと考えると価格も納得…と思えるが、何よりデキの良いマツダCX-5とも競合してくるとなると、正直「安くないな」と思えるのが本音なのだ。また1.2LターボのFF、ハイブリッドの4WDは用意されず、この辺りが悩ましさを感じさせる。しかしながら発売から1ヶ月で約5万台を受注する人気モデルであることも間違いない。
そう考えると、ターゲットとして浮かんでくるのは子育ても終わったゆとりのある夫婦だろうか? その価格を考えると決して若者向けという感じでもないように思えるし、内容の充実度からしても決してコスパで選ぶような商品でもないわけで、いずれにしても価格に関しては寛容な方が選んでいるのではないだろうか。事実、この手のコンパクトSUVは、乗り換え時のダウンサイジングかつ、その時にベーシックなハッチバックやセダンよりもプラスαがあって魅力的…ということで、意外なほどに年配の方が選ぶ傾向が強いとも聞く。その意味でも、単なる生活の足としてではないチョイスなのだろう。
【関連動画:トヨタC-HR速攻試乗】
※各項目の採点は、河口まなぶ個人による主観的なものです。