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「ずっと口内炎ができてました」。酒井藍が語る吉本新喜劇座長の重圧。そして、ルッキズムとの向き合い方

中西正男芸能記者
65周年を迎えた吉本新喜劇への思いを語る酒井藍さん

 65周年を迎えた吉本新喜劇で初の女性座長となった酒井藍さん(37)。すっちーさん、吉田裕さん、アキさんとともに新喜劇の舵取りを任されていますが、2017年の就任から「公演ごとにずっと口内炎ができてました」と重圧も感じていたといいます。歴史を背負う新喜劇ならではの不安。そして、歴史がある新喜劇だからこその救い。さらに時代の変化とどう向き合うのか。今の思いを吐露しました。

時代の波

 65周年、本当にすごいことやと思いますし、それだけの年月続いてきたというのは先輩方が次へ次へとバトンを渡してくださったからこそ。当たり前のことなんですけど、それをもう一回噛みしめますし、自分もしっかりとバトンを渡さないといけない。改めてそう強く思います。

 時代が変わるごとに笑いも変わっていくものだと思うんですけど、多くの皆さんが新喜劇に求めてくださっている味もある。そこをどう調整するのか。そこも次にバトンを渡す中で、考えているところでもあります。

 私も「ブタが来た!」と言われて「ブーブー!ブーブー!私、人間ですねん!」とやってたんですけど、その流れも時代とともに変わってきています。

 そうなると、使えるやり方が減ったという感じになるかもしれませんけど、私としてはむしろ増えたとも感じているんです。

 逆手に取るというか「今、あなた『太ってる』とおっしゃいましたね?今、それは絶対にダメなんですよ。ルッキズムってご存じですか?」とそこを攻めつつ、最後、私が太ってもない相手に「デブ!」と叫ぶ。

 技が使えなくなるんじゃなくて、技のバリエーションが増える。もちろんいろいろなお客さまがいらっしゃいますし、いろいろな考えもあるんですけど「封じ込められて大変…」ということばかりではない。そんな風に私は思っています。

 あと、何か攻撃的なことを言われた人が“言われっぱなし”にならないようには気を付けています。

 言われた側も必ず何か言い返す。言われっぱなしになると、本当に悪口みたいに見えてしまうところもあるだろうし、逆に言い返して笑いを生むやり取りに必ずする。そこは気を付けるようにはしています。

ウケるしかない

 座長をさせてもらって7年。もちろん一番の役目は「面白い新喜劇を作る」ことなんですけど、私の場合は、謙遜でも何でもなく、自分が舵を取るというよりはみんなで順番に舵を取る。それに近い形でまわっていると思います。

 もっと正確に言うと「今になってそうなってきた」というのが、より本当のところに近いもしれません。

 私は本当にあかんたれですし、怖がりですし、今でも初日はドキドキします。でも、当然というか、座長にならせてもらった時はもっとドキドキしてました。それを分かって、最初はみなさんが特にやさしくしてくださいました。

 「しんどいことがあったら、なんでもやるで」

 「分からんことがあったら聞いてや」

 本当に、心底やさしさで言ってくださっている。本当にそこに頼っても「ホンマに頼ってどうすんねん。頼りないヤツやな」とはどなたも思わない。それも分かるんです。でも、なかなか頼れなかった。

 やっぱり「自分でやらないと」というのがありましたし、それをすると「ダメになる」ような気がして感謝はするけど頼れない。そんな時間を過ごしてきました。

 人に頼れない分、プレッシャーも自分にどんどんのしかかってきます。新喜劇を見るために全国から大阪・なんばグランド花月に来てくださいます。「せっかく来たのに、もう一つだったな」でお帰りいただくわけにはいかない。

 それは先輩方がつないできてくださった「新喜劇は面白い」というバトンを落とすことになりますし「面白い」と思ってもらうしかない。

 こんなことを言うのはアレなんですけど、常に口内炎ができてました。劇場での基本的なルーティンとしては隔週で座長週がある感じだったんですけど、1週間の公演が迫ってくると口内炎ができて、楽日を迎えると少しマシになる。また公演前になってくるとひどくなってくる。その繰り返しでした。

新喜劇ならではの救い

 それがここ1~2年くらいですかね。やっとなくなりました。

 ターニングポイントというのも大げさですけど、2年ほど前に内場勝則兄さんと父と娘の役をさせてもらう週があったんです。お父さん役の内場兄さんと娘役の私。あくまでもお芝居の中のことのはずなのに、内場兄さんが本当にお父さんのように私を笑わせてきたんです。

 私なんかが言うのは本当に烏滸がましいんですけど、内場兄さんは本当にお芝居がすごい方で、その力に引っ張ってもらったんだと思うんですけど、その瞬間はリアルな父娘として舞台に居る感覚になったんです。

 お芝居だし、役なんですけど、本当にその人間になった気がしましたし、本当のお父さんとワチャワチャしているような楽しさもありました。自分が心底その人になる。そして、舞台で楽しむ。そうすると、お客さまも楽しんでくださる。なんというのか、それを肌で感じたんです。

 周りの人の力をお借りする。助けてもらう。引っ張ってもらう。そして、甘える。その意味がそこで初めて分かった気がしましたし、不思議なことに、そのあたりから口内炎もなくなっていったんです。

 新喜劇やからこそ絶対に楽しんでもらわないといけない。新喜劇ならではの重圧もあったと思うんですけど、ずーっとつながりが続く新喜劇だからこそ助けてもらえた。入りたくて、入りたくて、仕方なかった新喜劇ですけど、今が一番「入って良かった」と感じます。

「バトンを渡す」とは

 座長もさせてもらって、今後の新喜劇を考えた時に思うことがあります。

 私自身が「アホみたいに笑って、気づいたら泣いていて、でもやっぱりアホみたいに笑っていた」という新喜劇を見て、入りたいと思いました。

 今、自分がその舞台に立たせてもらっている以上、今の子どもたちにそう思ってもらえる新喜劇を作り続けないといけない。そして、またいつか私たちの新喜劇を見て「入りたい」と思ってくれる人が出てくる。その流れを作るために、毎日頑張らないといけないなと思います。

 あと、これは私個人の話なんですけど、今、タクシーに乗らせてもらったりすると、ドライバーさんがほぼ毎回おっしゃるんです。

 「花紀京、岡八郎の時は、そら、もうオモロかったでぇ!ほんでまた、(間)寛平ちゃんや(木村)進ちゃんの時もメチャクチャやったけどオモロかった!」

 本当にいつもおっしゃいます。それだけの先輩がいらっしゃったからこそ今があるし、あと何十年か経って新喜劇の若手がタクシーに乗った時にこんなことをいってくださっていたらなと思うんです。

 「昔は藍ちゃんっていうごっつい女の子がおってなぁ。それがホンマにオモロかったんや!」

 もしそれができていたら、バトンを渡せたことになるのかなとも思います。

 …大丈夫でしたかね?まじめな話ばっかりになってますかね(笑)?でも、本当に今思うことばっかりですし、一つ一つ積み重ねていきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■酒井藍(さかい・あい)

1986年9月10日生まれ。奈良県出身。磯城郡田原本町出身。高校卒業後、専門学校を経て奈良県警で交通課の窓口業務をしていた。2007年、吉本新喜劇の「第3個目金の卵オーディション」に合格し、奈良県警を退職し吉本新喜劇入り。「ブーブー。ブーブー。私、人間ですねん」などのフレーズと人懐こいキャラクターで一躍人気者に。17年、吉本新喜劇初の女性座長に就任することが発表された。30歳での座長就任は1999年に座長制度が導入されて以降、吉田ヒロと小籔千豊が就任した時の32歳を超える最年少記録となった。関西テレビ「よ~いドン!」、MBSテレビ「せやねん!」などに出演中。「吉本新喜劇65周年記念official book」が7月19日に発売され「女芸人として」をテーマにした藤山直美と酒井藍の対談も収められている。また7月7日から65周年記念全国ツアーがスタート。9月15日には酒井の地元・奈良のたけまるホールでも公演が行われる。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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