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くすぶりの日々が映画に。一躍時の人となった漫才コンビ「タモンズ」が示す“辞めない”ことの意味

中西正男芸能記者
「タモンズ」の大波康平さん(左)と安部浩章さん

大宮ラクーンよしもと劇場を拠点としてきた吉本興業所属の芸人によるユニット「大宮セブン」のメンバーとして活動してきた「タモンズ」。同じくメンバーである「マヂカルラブリー」「すゑひろがりず」らが結果を出していく中、大波康平さん(42)、安部浩章さん(42)のリアルな思いを描いた映画「くすぶりの狂騒曲」が公開されるなど一気に注目度が上がっています。心が折れても辞めずに続ける。その先で今感じることとは。

“くすぶり”が映画に

大波:映画のお話を聞いたのは2年ほど前ですかね。

最初は「大宮セブン」を題材に、くすぶっている芸人のリアルな状況を撮ると聞いていたんです。ただ、周りのメンバーはもう売れっ子になっているし、いつの間にか「タモンズ」を軸にするということになっていったんです。

安部:僕らはコンセプト通り、しっかりとくすぶっていたということで(笑)。ま、今もくすぶり中なんですけど、いつの間にか、本当にありがたいお話をいただくことになりました。

ただ、僕らで映画を作っていただくということで、ナニな話ですけど、吉本興業の中での小ぢんまりとしたホームビデオみたいな作品かと思っていたら、出演が和田正人さんに、駒木根隆介さん。マジやんかと(笑)。ますますありがたいばかりのことです。

大波:そんな中、コンビ結成16年以上の漫才賞レース「THE SECOND」で今年5月に決勝に進出することができました。

以前から大宮で年間450ステージほど出番をいただいていたのもありますし、関東の劇場出番でスケジュールはほぼ埋まってたんですけど、それが大阪とか福岡とか全国の劇場で出番をもらえるようになった。その余波は感じています。広くお仕事をさせてもらえるようになったといいますか。

映画のお話ももちろんですし、今年の「THE SECOND」もそうですし、辞めずに続ける。その意味を噛みしめてもいます。

いろいろと状況が変わった部分もありますが、今も昔も変わらないのが“ダイレクト課金で生きていく”ということかなとは考えています。

テレビやラジオのお仕事ももちろんありがたいんですけど、僕らが自分たちの幹だと思っているのが漫才とトーク。仮に、僕らが人気者になったとしても、テレビで1時間のネタはできないし、二人だけのトークというのも難しい。ただ、劇場で自分たちのライブをやるならば、それが具現化できる。

それを見たいと思ってくださる方から直接チケット代という形でお金をいただき、目の前のお客さんに満足していただく。ここが僕らの基本であるということは何がどうなっても変わらないんだろうなとは思っています。

もちろん、メディアに出していただくことで、新たに「劇場に行こう」と思ってくださる方が増えることはうれしいことですし、今回の映画きっかけでまたそういう方々が増えてくれたら、これこそ、ありがたいことだとも思います。

ただ、映画で僕の役をやってくださっているのが和田さんで、これがね、和田さんがカッコ良すぎるんです(笑)。和田さんが本気を出しすぎていて、和田さんを見て「この人、カッコいいな」と思って劇場に来てくださる方が、僕を見てどう思うのか…。その不安はガッチリありますけど(笑)。

安部:マイナスプロモーションにならなければいいんですけど(笑)。

辞めないという意味

大波:それと同時に、映画を見てもらうと分かるんですけど、僕らみたいな芸人なんかね、ごまんといるんです。夢を追いかけて出てきて、努力したけど負けた芸人。夢破れた芸人。ほぼそんな人ばっかりです。

でも、僕らがラッキーだったのは“周り”です。「大宮セブン」のメンバーがいてくれたのもそうだし、今回の映画を企画してくださった吉本興業の社員さん、劇場の皆さん…。そういった方々がいてくださったから、なんとかこの形になっただけで。

壁に当たって「無理や」と思って折れる。僕らも当然そんなことはありましたし、調子が悪くなった芸人はどんどん疎外感に支配されていってしまう。調子がいい芸人同士でイベントをやったり、仕事をやったりする中、どんどん距離ができていく。その距離がまた距離を生む。そんなこともありました。

安部:「М-1グランプリ」がいったん休止して「THE MANZAI」という大会が始まったあたりまでは、僕らも調子は悪くなかったんです。

ただ、また2015年から「М-1」が再開され、そこから3回戦あたりで敗退するようになってしまった。19年は2回戦で負けた。そこでもう辞めようとなったんです。

僕はこの人(大波)に誘われてこの世界に入っているので、この人がアカンと言ったら辞める。僕らからしたら「タモンズ」とはこの人ですから。全てを決めるのはこの人。その覚悟は持っていました。そして、その状況と一番近くなったのが19年の時だったんです。

大波:2回戦で負けたショックは本当に大きかったし、疎外感もあったんですけど、そんな中、大宮の楽屋だけは変わらない。いつもと同じ空気で迎えてくれる。そして周りがどんどん売れていく中で、他のメンバーがイベントなどにも呼んでくれる。新型コロナ禍で配信という形も生まれ、新たな収入も少し増えた。何があっても、大宮の支配人さんは僕らを気にかけてくれる。

辞めるという選択肢に手がかかっている中で、いろいろな流れがそれを止めてくれた。なんなんでしょうね、やっぱり周りの力。そこなんですよね。

安部:支配人も「タモンズ」を使ったら何か吉本興業の社員としてのポイントがたまっていくの?というくらい(笑)、助けてくださいましたし。

大波:芸人仲間にも、社員さんにも、配信というシステムにも助けられたんですけど、もう一つ奥のことを考えると、結局見てくださる、お金を払ってくださるお客さんがいる。そこがあるから、今も仕事ができている。それに尽きるんです。きれいごとではなく、痛感しました。

来年1月に久々に単独ライブもさせてもらうんですけど、僕らが面白いと思うものをダイレクトに届ける単独という場を、できるだけ大きくしていきたい。今は純粋にそう思っています。

そして、映画の和田さんをきっかけに見に来てくださったお客さんも「思ってたんとはちょっと違うけど、面白い」とまた来てくれる(笑)。そんな状況を生み出せるよう頑張るのみだと考えています。

(撮影・中西正男)

■タモンズ

1982年11月14日生まれの大波康平と82年5月24日生まれの安部浩章が2006年にコンビ結成。ともに兵庫県出身で高校時代の同級生として出会う。東京NSC11期生。大宮ラクーンよしもと劇場で活動する「マヂカルラブリー」、「GAG」などが所属する「大宮セブン」のメンバーでもある。「THE MANZAI2012」、「THE MANZAI2013」で認定漫才師50組に選ばれる。「大宮セブン」を題材にした映画「くすぶりの狂騒曲」(立川晋輔監督)が12月13日から公開される。出演は和田正人、駒木根隆介、徳井義実ら。来年1月22日には単独ライブ「DEADSTOCK」(東京・座 高円寺2)を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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