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『笑ラウドネス』が中堅以上の芸人のセカンドチャンス的な大会に?『M-1』のカウンターとなるシステム

田辺ユウキ芸能ライター
『笑ラウドネスGP2022』で司会をつとめた今田耕司(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

7月17日より配信が開始されたお笑いの賞レース『笑ラウドネスGP2022決勝』(ABEMA)で、スーパーマラドーナがエントリー1018組のなかの頂点に立った。

『笑ラウドネスGP』の特徴は、芸人や放送作家など「プロ」の審査員が不在なところ。勝敗の判定を下すのは「観客の笑い」のみである。つまり、観客にもっともウケた芸人が勝者となるのだ。芸歴、芸風などなんの制限もないため、全員がひたすら笑わせにかかってくる。

判定するAIは、観客の笑い声と拍手を計測・数値化。笑い声が起きていた時間と笑い声の音量を足し、ネタ時間(4分)で割って点数を算出するという(ただし鑑賞中は字面ほどややこしく感じることはない)。その点数がもっとも高かったものが優勝となる。

以前より観客の反応や投票で勝者を決める番組などがあったが、ここまで純粋に「観客のウケ」だけに特化した賞レースはなかったのではないか。

ハナイチゴが不満爆発「『M-1』予選では爆ウケしたのに落ちる芸人がいる」

『笑ラウドネスGP2022』は、『M-1』同様に今田耕司が司会をつとめている。ただシステム自体は、『M-1』をはじめとする現在のメジャーな賞レースのカウンターになっていた点が興味深かった。

たとえば、出場者らの煽りのVTR。そこに登場した芸人の何組かは、現在のメジャーな賞レースの審査方法に対する素直な感情を明かしていた。今大会の決勝進出者の1組であるハナイチゴのコンプライアンス小松崎は、『M-1グランプリ』の予選審査について「爆ウケしたのに落ちている芸人が結構いる。そしてウケていないのに勝ち上がっている人もいる。ウケていても(予選で負けたら)世間からしたら落ちた芸人と同じになっちゃうんです」と疑問を呈した。

たしかにお笑いの賞レースでは毎回のように審査員による採点やコメント、そして審査方法が物議を醸す。今大会で同じく決勝へと駒を進めたオダウエダは、『THE W 2021』で優勝したにもかかわらずSNS上でネタへの酷評が相次いだことについて、「賞レース史上、一番望まれていない王者」と自虐的に振り返っていた。

その点『笑ラウドネスGP』は、「ウケたら勝ち」というシンプルな方法だ。コメント出演している笑い飯・哲夫も「負けても納得できるのではないか」とそのシステムを肯定的にとらえた。2021年開催『笑ラウドネスGP』初代王者であるプラス・マイナスの岩橋良昌は、「『そんな笑かし方は卑怯や』とか関係ない。それを言う人は審査員とか芸人。目の前のお客さんはオモロかったら笑いますし。『お客さんにウケなくても、自分たちのやりたいことをやるんだ』という格好良さの人生は、僕には分からない」とはっきりと語っていた。通な見方は必要ない。「一番笑える芸人が優勝」というお笑いの原点にして究極を根ざしたものである。

ちなみにプラス・マイナスの兼光タカシは、ギャグの応酬でネタを展開する怪奇!YesどんぐりRPGへの講評時、『M-1』審査員・オール巨人のモノマネで「あれは漫才ちゃう」とジョークをとばした。すぐ「いや、冗談です。パワーがあったので(点数も)期待できる」と高く評価した。この場面も、ある意味『M-1』へのカウンターの象徴と言えるかもしれない。

『笑ラウドネスGP』の審査方法は、さまざまな賞レースのなかでも、出場者、視聴者ら誰もがもっとも納得できる形ではないだろうか。

『笑ラウドネスGP』は中堅以上が芸人を続けるきっかけになる?

ほかにも『笑ラウドネス』は、『M-1』などのメジャータイトルのカウンター的な要素を持っている。

2001年に始まった『M-1』について、立ち上げ人・島田紳助が「芸人を辞める機会を与えるための大会」と言ったのは有名なエピソードである。出場規定内に結果を残せなかった芸人たちが、自分たちの限界をそこで知ることで次の人生を歩むきっかけになる。そういった意味合いも含ませていた。

一方『笑ラウドネスGP』は、芸人を続けるきっかけとなる大会なのではないだろうか。

結成から何年目であるか、芸風がどうかなどは関係なく、観客を爆笑させる自信さえあれば誰でも参加できる。その結果、第1回では結成18年目(当時)のプラス・マイナスが優勝し、21年目(当時)の5GAPが準優勝。今大会は19年目のスーパーマラドーナが優勝した。彼らは、出場資格のなかに結成年数や芸歴が設けられている『M-1』『R-1』にはエントリーできない。『キングオブコント』は年数に関係なく出場できるが、やはり若手色が濃く、またコントに限られるため芸風の向き、不向きがある。

そんな中堅以上のコンビが『笑ラウドネスGP』で結果を出したことで、「自分たちも」と息巻くベテラン勢が増えるのではないだろうか。プラス・マイナスの岩橋良昌も「テレビに出ているのは同じ人ばかり。その下には何千、何万人の芸人がやっている。トンネルは長いけど、目の前のお客さんをしっかり笑わせることができれば仕事として繋がっていく。そういう大会だと思う」と、芸人でい続ける限りは誰でもチャンスがあるとコメントした。

戦いに飢えていたスーパーマラドーナ「かまいたちや千鳥みたいになりたい」

スーパーマラドーナは大会への参戦理由について「一緒に劇場に出ているかまいたちさん、千鳥さんには歓声が湧く。そういうふうになりたいから」と人気アップが目的だと語った。『M-1』では2015年から4年連続決勝進出の快挙を達成したが、2018年にラストイヤーを迎えた。「僕らは関西でも出られる賞レースがもうないですから。(『笑ラウドネスGP』で)独特の緊張感や戦う感じが味わえるのはワクワクしているし、楽しみ」と戦いに飢えていたのだという。

ただ、実績と経験を十分に持つスーパマラドーナの決勝進出を知った若手芸人たちは困惑。青色1号は「スーパーマラドーナさんいるんですか? そういうことはやめた方が良いっすよ」、ヘンダーソンは「スーマラさんおるやん…。漫才バカですね、本当に」と呆れ気味の表情を浮かべたところが印象的だった。

以前、筆者がとあるコンビを取材したとき「『M-1』で結果を残さなかったら、劇場での肩身も狭く感じるんです。このままラストイヤーを終えたら、ここにはいられない気がします。自分らはお笑いが好きで、単純にずっと人を笑わせたいだけなのに」と現在の賞レースのシビアな状況を語ってくれた。

『笑ラウドネスGP』は、今後を模索する中堅以上の芸人にとってのセカンドチャンスになるかもしれない。実際、経験豊富な芸人が本気で牙をむいたときの強さも実感できた。前述したように、今後は「芸人を長く続けるきっかけの大会」になるのではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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