なぜ仕事ができない人ほど、人の話を聞くときにパソコンでメモをとろうとするのか?
■人の話を聞きながら、メモをとれるのか?
私はセミナーや講演をする際、必ず受講者に「メモ」をとるように伝える。しかしパソコンでメモをとることは禁じている。パソコンでのメモを勧めない理由は以下の2つだ。
(1)脳の思考系が鍛えられない(思考のインフラが構築されない)
(2)話の論点・本質を見抜く力が養われない
まず「人の話を聞きながら、メモをとる習慣」があるかどうか以前に、そもそも「メモをとる習慣」があるかについて考えてみよう。
習慣とは、無意識のうちにできることを指す。意識することなくメモをとる習慣がある人が、さらに効果的なメモのとり方を知ろうとするのはいいことだ。しかしメモの習慣がない人は、まずメモをとる習慣を身に着けることが第一だ。
<参考記事>
■脳を鍛える「メモの達人」の技術 メモのとり方5段階レベルをすべて解説!【5200文字】
■「思考のインフラ」とは?
技能を手に入れる前に、下地となるインフラが整っているかについて意識している人は少ない。私は「思考のインフラ」と呼んでいる。それでは「思考のインフラ」――習慣はどのようにしてできるのだろうか?
習慣は過去の体験の「インパクト×回数」でできている。脳内には、神経細胞によってできたネットワークが張り巡らされていて、無意識のうちに行動できるようになるには、そのネットワーク間をストレスなく電気信号が伝達するよう、インフラが整備されている必要がある。そしてそのためには、外部から大きな刺激を受けるか、同質の刺激を連続して受けるかしかない。つまり「インパクト×回数」が必要なのだ。
「メモをとる」習慣を身につけるには、当然「回数」が重要だ。意識的にメモをとる回数を短期間のうちに増やす。そうすることで、無意識のうちにできる状態(無意識的有能状態)を手に入れることができる。
■なぜ同時に2つ以上のことを実行できないのか?
メモをとる習慣がない人は、最初から「メモのとり方」など気にしてはいけない。「質」よりも「量」。とにかく場数を増やすことが大切だ。
「脳の焦点化の原則」からすれば、脳は同時に2つ以上のことに焦点を合わせることができない。つまりメモをとる習慣がない人が、メモのとり方を意識しながらメモをとることはできない、ということだ。
さらに人の話を聞きながらメモをとることは、一段と難易度が高い。習慣がない人は「メモをとっていると話に集中できなくなる」ことだろう。
メモの習慣がない人が陥りやすいのが、「パソコンを使ってメモをとる」行為だ。メモデータを後から再利用するため、意図的にパソコンで記述する、という方もいるかもしれない。しかし私はおススメしない。
メモの習慣がない人でも、パソコンを使うとメモをとることができる。
なぜか?
それは話を聞くスピードと、キーボードで打ち込むスピードが近いからだ。ブラインドタッチで打つことができる人は、それほどストレスを感じることなくパソコンでメモをとることができるだろう。
しかし、キーボードを使ってメモをしていると文章をまとめる力がつかない。会議議事録をとる、原稿を口述筆記する、というのならともかく、耳に入ってきたものをそのままテキストデータに変換してアウトプットしていると、思考を働かせる余裕がない。メモを残すことができても、メモの内容が頭に入ってこないのだ。
■メモの習慣をつけるには「思考の多層インフラ」が必要だ
実のところ、紙とペンを使い、人の話を聞きながらメモをとるには、
(1)話を聞く
(2)話の内容を理解する
(3)話の内容を理解したうえで短い文章にまとめる
という「思考のインフラ」が必要だ。つまり、「話を聞いてメモをとる習慣」といっても、何層ものインフラが整備されていないとできないものなのだ。
これらを同時に実行するのは簡単ではない。しかし「人の話を聞きながらメモをとる習慣」を若い頃から体得している人は当然、脳の「思考系」が鍛えられている。
脳の基礎体力がつき、頭の回転が速くなるのだ。さらに、人の話を聞きながら効果的な図柄を挿入したり、ポイントを整理して箇条書きまでできるようになれば、相当なスキルだ。5~6種類の「思考のインフラ」が組み合わされないと実現できない。
ついついパソコンでメモをとりたくなる人は、単純にメモをとる「思考のインフラ」がないからだと自覚しよう。面倒であっても場数を増やし、紙でメモをとるインフラを脳内に構築していくのだ。何層もの「思考のインフラ」が構築されれば、他の技能もまたそのインフラの上に乗せることができるようになる。
<参考記事>