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なぜ? サッカー日本代表 『決定力激増』の秘密を解き明かす

清水英斗サッカーライター
2026 FIFA W杯 アジア最終予選(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

『決定力不足』―。その昔、日本代表の試合を評する記事で、頻繁に使われたフレーズだが、最近はほとんど見かけなくなった。


試合を決定付けるゴールを奪い切れず、悔しい結果に終わったとき、「決定力不足」は決まり文句のようにメディアの見出しを飾ったものだ。ところが、近年の日本代表は得点ラッシュが日常。そうした過去のキーワードとはすっかり縁が遠くなった。

現在開催中の北中米W杯アジア最終予選でも、5勝1分けでグループCの首位を走る日本は、6試合で22得点(失点2)と圧倒的な数字を叩き出し、他チームを圧倒している。

また、単純な得点の量だけではない。試合を決定付ける得点を奪う能力。たとえば、カタールW杯のドイツ戦やスペイン戦で2-1の逆転勝ちを収めたように、それほどチャンスが多くない、こう着した展開においても重要なゴールを挙げ、難しい試合をモノにする理不尽な力を発揮することも、昨今の日本代表は珍しくない。


決定力不足も、今は昔だ。いつの間にか時代は変わった。

なぜ、今の日本代表は得点を量産できるのか。こう着をぶち破る力は、どこから降ってきたのか。

この疑問について、2005年のJ2得点王であり、現在はW杯得点王の輩出を志す『TRE2030 ストライカーアカデミー』の代表を務め、日本初のストライカーコーチとしてブリオベッカ浦安などで活躍するFWの専門家、長谷川太郎氏に聞いてみた。


「一番大きいのは、個々が武器を持っていることです。そこで決め切る能力もそうですが、個の形があるので、たとえ相手に消されても、他の選手がその選手の形を利用してシュートに行ったり、得意なシュートパターンからこぼれるボールをねらったりと、お互いの武器を知りながら動くことで、チームが多彩なゴールを生み出しています。

 たとえば、オーストラリア戦。0-1から1-1に追いついた場面では、相手にマークされていた三笘(薫)選手が中へ移り、中村(敬斗)選手が外のウイングに入りました。中村選手の突破力を生かすために、三笘選手が相手をかく乱し、スペースを与えたことが、一つのゴールにつながっています。

 小川(航基)選手もそうです。上田(綺世)選手と比較すると、クロスに対してファーサイドに入り、打点の高いヘディングをねらうことが多いですが、味方はその良さを生かそうと精度の高いクロスを蹴っています。また、小川選手がファーへ流れる分、空いたニアサイドは、鎌田(大地)選手や守田(英正)選手が2列目から入って来る。こうした場面では、それぞれが仲間の良さを知って動いていることを強く感じます。

 個人がはっきりとしたプレースタイルを持っているので、周りは合わせやすいはず。さらに、日本はどの選手もゴールを目指してプレーしているので、個人が消されても必ず他の選手が入ってきます。相手に的を絞らせません。

 相手はわかっていても止めるのが難しいし、わかって抑えに行くと、違う人が決めに来る。日本は海外でプレーしている選手が多く、決定的な仕事によって評価が上がることを理解しているので、全員がゴールに向き合ってプレーしています。ポジションに関係なく、自分が決着をつける、自分が決めるというメンタリティーでプレーする選手が増えたと感じます」

個々がはっきりとした武器を持つこと。その武器をお互いに知り、連係することで、攻撃の的を絞らせないこと。そして、全員が試合を決めるメンタリティーを持つこと。これは日本の決定力が激増することになった、基本的な要因と言える。

上田綺世の背後への動き

次は、より詳細なポイントを取り上げたい。長谷川氏は、決定力が大幅にアップした現代表のプレー映像を見せ、現場のストライカー指導に生かすことが多いという。その一つに、1トップ、上田選手の動き出しが挙げられる。

「上田選手の背後への動き出しはタイミングが良く、味方がパスを出しやすいように、わかりやすい動き方をしているので、私が指導する選手に映像を見せたり、動き方をシュートトレーニングに組み込むなどして、参考にさせてもらっています。

 たとえば、斜めに動くことをダイアゴナルと呼びますが、そのまま斜めにニアサイドへ走ると、DFの前を走る格好になり、ぴったりとマークに付かれてしまいます。そこで上田選手の場合は、横に、少しファーに膨らんで、一度DFの背中を取り、そこから、味方にタイミングを合わせてダイアゴナルに動き出します。相手DFの視界から消えた状態で動き出すので、マークを外してシュートへ持ち込みやすくなる。もちろん、そのままプルアウェイしてファーをねらうことも、選択肢になります。

 さらに、2人のCB(センターバック)の間を突くことも巧みです。たとえば味方のサイドバックがボールを持ったとき、遠いほうのCBの前にいるとします。そこからダイアゴナルに走ると、並走してマークされるので、もう一人の、近いほうのCBの背中へ向けて走ります。つまり、ディフェンスラインを横切ることで、マークの受け渡しがどちらか、迷うようなコース取りをするわけです。背後に走られたボールに近いほうのCBは、ボールを見ているので、背中へ走られると気付かない場合が多く、遠いほうのCBはスペースを空けて追走するべきか迷います。そこに絶妙な間があるわけです。その間を通過するぐらいのタイミングで、上田選手はパスを呼び込むので、味方もパスを出しやすくなります。

 どちらの動き出しも、共通しているのはDFの死角を突き、背後を取ることです。あれだけ味方にはっきりと動きを見せながら、DFに対しても駆け引きをし、戸惑う状況を作っているのはすごいと思います。

 古橋(亨梧)選手も、上田選手と同じで、DFの視界から消えて背後をねらう動き出しが巧みです。それに加えて、古橋選手の場合はGKとの1対1のシュートの流し方がうまい。ファーストタッチするとき、力は抜けているけど、コントロールと同時にスピードが上がり、相手を少し引き離す。そうやってコースを作ってシュートを流し込むプレーが絶妙です。スピードが上がる中でも、外に流れすぎないように、左右共に蹴り分けられるように運び、GKとの間合いを意識しながら流し込む。セルティックの試合でも巧みなゴールは多いので、この選手が代表に入らないのかと、驚きながら見ています」

決定力を高めるゴールテクニックについて、この前編では1トップの代表的な駆け引きを取り上げた。中編では久保建英や堂安律など、サイドプレーヤーが決定力を上げる秘密について探求する。

取材協力:STRIKER One

『ストライカーワールドセレクト』 2024/2025

https://academy.tre2030.com/news/striker-world-select2024-2025/

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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