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会社員が自営業者の年金を「助けて損する」は勘違い 厚生年金と基礎年金の調整とは

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
Adobe Fireflyで筆者がAI作成した会社員と自営業者の対立図…?

会社員の厚生年金が自営業者の国民年金を助けてあげる? それ間違いですよ

会社員は厚生年金制度に加入し厚生年金保険料を納めています。年収の9.15%が給与明細から引かれているのは大きな出費です(同額を別途、会社も負担している)。

自営業者やフリーランスなど会社員でない働き方をしている場合、国民年金制度に入り国民年金保険料を納めています。こちらは年収によらず定額で2024年度は16980円となっています。

さて、「会社員の厚生年金が、自営業者の国民年金を助けるとかふざけるな!」とネットやニュースでは炎上気味です。これは、厚生年金と基礎年金の調整期間を一致させるため、次回の法改正で「厚生年金の財源で国民年金を助ける」と一部で報じられたためです。

タイトルだけ読むと「なんで会社員が自営業者を助けなくちゃいけないんだ!」となるわけですが、そもそも論として「自営業者を助ける」「国民年金を助ける」と書いているメディアやYouTube動画はすべて間違いです。

実はその調整対象として「会社員自身」も含まれているからです。

そもそも調整するのは「基礎年金」であって会社員もこれに含まれることを大誤解している

「国民年金」を助ける、とすればこれは自営業者を助けることになります。そうだとしたら確かに違和感があります。しかし今回の調整を行うのは「基礎年金」です。

会社員は厚生年金保険料を払う中で「厚生年金分+基礎年金分」の2種類の年金保険料を納めていることになっています。65歳になると国民年金に相当する「老齢基礎年金」と純粋な厚生年金に相当する「老齢厚生年金」をもらいます。

制度としては別立てとなっており、それぞれ給付水準の調整(引き下げ)を行っていたところ、厚生年金のほうがポジティブサプライズが相次ぎ、調整はもうすぐ終わりそうなところまできました。年金積立金の運用は好調、高齢者も女性も国が思っていた以上に働く社会に変化したことが主な要因です。

基礎年金のほうはむしろ逆で、デフレ期に年金額を単純マイナス改定はしなかった影響などがあって、まだまだ水準を引き下げる必要があります。これは収支のバランスを調整して破たんさせないためですが、さらに数十年も水準を引き下げ、30%近く引き下げるのは影響が大きすぎます。

調整が続くのは「基礎年金」といいましたが、基礎年金の水準が下がるということは「基礎年金だけしかもらえない自営業者」も影響を受けますが、「厚生年金と基礎年金をもらう会社員」も影響を受けることになります。

基礎年金の水準低下を抑えるということは、「自営業者も会社員も」その効果が生まれるわけです。ちなみに会社員(国民年金の第2号被保険者。公務員含むと自営業者(国民年金の第1号被保険者)の人数は、4513万人と1449万人ですから、ざっくり「3:1」でメリットがある会社員のほうが3倍いることになります。

(専業主婦、つまり国民年金の第3号被保険者はもともと厚生年金の財源でまかなわれる)

99.9%の会社員も、今回の調整で年金額が増える

「厚生年金+基礎年金」をもらう会社員にとって、厚生年金は減らないけれど基礎年金は減っていくことはいいことではありません。

今回の調整期間の一致を行えば、会社員の年金水準も99.9%はプラスになると厚生労働省は試算しています。残りの0.1%というのは20歳から60歳までの40年、年収が1080万円を超えているような人(夫婦なら世帯で2160万円)が該当します。これはもう、特殊な条件ですから、ほぼすべての会社員にとってプラスといっていいでしょう。

基礎年金部分の給付は、税財源を半分用いることになっているのでその影響もありますが、少なくとも「会社員の金を、自営業者に回すので、会社員は損」ではないことはいえます。

「会社員の損 vs 自営業者の得」のような構図で解説するニュースや記事、動画についてはミスリードを誘っていますから注意してください(ミスリードどころか、最初から誤解して解説していることも多い)。

調整の理由は「バッド」ではなく「グッドサプライズ」と考えてみたい

今回の調整期間の一致ですが、むしろ厚生年金の調整が早期終了することにより起きた「グッドサプライズ」です。厚生年金のほうももっと調整され、給付水準がカットされる可能性もあったからです。

また、今回の一連の報道は、「付け替え」のイメージを植え付けるものですが、そもそも厚生年金と基礎年金は付け替えせざるを得ない仕組みでもあることは最後に少し指摘しておきます。

会社員は「合計18.3%」と率で納めて、自営業者等は「月16980円」と定額で納めており、どこかで18.3%分から基礎年金の給付に必要な分を回す必要があります。資料では2019年度の基礎年金給付24.1兆円のうち国民年金制度から3.3兆円、厚生年金制度から20.7兆円を出しています(端数あり合計合わず)。

むしろ「付け替え」ルールはきちんと明記されており、、そのルールを変更することも予め議論に供して新しい法律としてしっかり明記しようとしているのが、今回のニュースの本質です。

なんとなく、年金制度は適当にやっている印象がありますが、何十年も前に決めたルールを律儀に運用しているからこそズレが生じていると私は感じています。しかしこれは仕方がないことです。

むしろ修正にあたって情報公開をしており、それはまともな行政のまともな改正方法だと思うのですが、いかがでしょうか。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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