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エピックゲームズ VS アップル+グーグル 世界を巻き込んだ新世代ゲーム戦争のゆくえ

黒川文雄メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト
チャイナジョイ2018(@上海)テンセントブース 筆者撮影

「Fortnite」のポテンシャルのすごさを感じたイベント

筆者が「Fortnite(:以下フォートナイト)」の人気のすさまじさを実感し再認識したのは、昨年(2019年)のことだ。

それは、愛知県常滑市のセントレア空港に隣接した新設展示場「アイチ・スカイ・エキスポ」(Aichi Sky Expo)のオープニングイベントとして、2019年8月30日~9月1日の間に、eスポーツ体験やトーナメントマッチ、さらにはK-POPライブなどの総合イベントとして開催されたAICHI IMPACT! 2019でのことだ。

写真:愛知インパクト フォートナイト オールスタードリームマッチ ステ-ジ 筆者撮影
写真:愛知インパクト フォートナイト オールスタードリームマッチ ステ-ジ 筆者撮影

最終日の2019年9月1日、「フォートナイト オールスタードリームマッチ」が開催、会場は立ち見が出るほどの盛況ぶりで、立錐の余地もないほどだった。それもそのはず人気プレイヤー、配信者が一堂に会したからだ。前日に開催された「格闘ゲーム」のトーナメントの来場者のほとんどはオトナばかりだったこともあり、「フォートナイト」の観客の多くが小学生か中学生の家族連れだったことに驚かされた。

(↑愛知インパクト公式ツィッターより)

来場者の多くは「フォートナイト」でゲームの楽しさを知り、これからもその楽しさを享受し続けることに違いない。

そのイメージがダブるのは、1996年にリリースされた「ポケットモンスター」シリーズのように、代替わりしつつも、初代からのファンも半永久的にファンとして、プレイヤーとして遊び続ける。そして、極論すれば親から子へ受け継がれるコンテンツたりうるポテンシャルを持つものが「フォートナイト」だ。

全世界の「フォートナイト」プレイヤーは3億5000万人いるといわれているが、そんなプレイヤーたちのみならず、ゲーム開発者までも巻き込んだ騒動が、開発元のEpic Games(以下:エピックゲームズ)とアップルとグーグルのあいだに巻き起こった。

このコラムではその争点と、その要因、そして顛末の行方を考察してみたい。

8月13日のエピックゲームズの動画は周到に用意されたものだった?!

ことの始まりはアップルが、8月13日に「フォートナイト」をアップストアから削除(BAN※)したことが始まりだ。

そして、その動きに追随してグーグルの「グーグルプレイ」からも削除、それに対して、エピックゲームズはアメリカの裁判所に削除の差し止め命令を出すことを提訴した。

(※BAN 禁止 排除 破門 などのネット用語)

ここの決裂に至る導火線のようなものは以前からあったことは容易にうかがい知れる。

それは、アップルのアップストアとグーグルのゲームストアにおける課金手数料の30%の取り分をめぐっての諍いだ。

課金手数料の30%はそれぞれのポータルにアプリとして販売されるものや、アイテム課金されるものすべてに対してトップオフされるもので、それぞれのポータルには日々想像できないほどの金額がチャリンチャリンと落ちている。

今回の騒動の引き金になったものは、エピックゲームズが「フォートナイト」で行った「メガプライスダウン」キャンペーンというもので、「フォートナイト」のアプリからの直接の購入(エピックディレクトペイメント)すれば最大20%オフを訴求するもので、この直接課金をプレイヤーに促すことから、それらは規約違反として、アップストアからはタイトル削除に至った。

これはエピックゲームズに限らず、月に数十億円程度の売り上げのあるゲームパブリッシャーならば、この30%をポータルに搾取(という表現がこの場合は良いかもしれない)されているキャッシュがあれば「ゲーム開発をもっと充実できる」「アイテムやフィールド、キャラクター開発にもっと資金を充当できる」「もしかしたら自分たちでポータルそのものを作れる」という発想になっているはずだ。

おそらくエピックゲームズの考えていることは、最終的に交渉に決裂すれば…

「自分たちで(「フォートナイト」など自社コンテンツの)ポータルそのものを作る」

…という選択肢もあるのではないだろうか。

おそらく、このBANとエピックゲームズの反旗に至る行動までには、アップルやグーグルとエピックゲームズをはじめ、有力なパブリッシャーのあいだで、さきの30%の手数料課金の値下げ交渉も幾億度となくされてきたことだろう。しかし、フェアな取り組みを前提としているアップルやグーグルがそれ呑むことはなかったのだろう。

そして、いつか来る交渉決裂の日に向けて、エピックゲームズが準備し公開した下記の動画だ。

これらは「アップルからBANされました」、ハイ、作りましたという即席な工程でできるはずがない。つまり伏線として「来るべきジャッジメントデイ」が双方にあったと思って間違いないだろう。

(↑エピックゲームズ 公式ツイッター 公式動画)

1984年、アップルは同じようなキャンペーンしたきた過去がある

アップルの歴史に詳しい方ならば、一発でわかると思うが、このエピックゲームズが公開した動画自体が良くできたアップルのパロディ動画だ。

1984年、初代マッキントッシュを導入する際には先行する巨人IBMに対して、映画「1984」の世界観になぞらえて制作されたコマーシャル動画がある。その動画のイメージは、原作ジョージ・オーウェルが1949年に執筆したSF小説「1984」であり、映画版は、ジョン・ハート(エレファントマン主演)と名優リチャード・バートン主演によるもので近未来の恐怖政治を描いたものだった。

(※アップル「1984」のコマーシャルに関してはアップル公式ムービーがないため、興味のあるかたは 「アップル」「1984」「コマーシャル」などで検索をお勧めします)

つまり1984年当時、アップルにとってIBMはパソコン市場を独占し支配し、新規参入を排除する恐怖政治の象徴のようなものだったに違いない。36年を経た2020年、パソコン市場の恐怖と支配の象徴だったIBMにとって代わって、アップルこそがゲームとコンテンツの恐怖と支配の象徴なのだとエピックゲームズは一般に訴えている。

この動画のなかで恐怖支配を行うキャラクターは少しかじられたリンゴ顔で、リンゴのなかには虫まで湧いている…そこまで徹底してアップルを貶めるような構図になっていることに注目すべきで、それらを開放するのは「フォートナイト(エピックゲームズ)」であり、そのプレイヤーであるフォートナイトを支える世界のプレイヤーやファンとともに立ちあがろうではないかという総決起を促すような動画であることが窺える。

その旗印はハッシュタグ #FreeFortnite いわば「フォートナイトに自由を」という、よく考えられた「オペレーション・フォートナイト(フォートナイト作戦)を展開している。

写真:アップル本社 クパチーノ 2016年筆者撮影
写真:アップル本社 クパチーノ 2016年筆者撮影

1990年代後半のマイクロソフトの事例に学ぶ…

近年GAFAとして謳われる「グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン」のように一私企業があまりにも力を持ちすぎた場合は規制に乗り出すという可能性の報道もある。それらが実際に絵空事ではないと思う背景には、1990年代の後半に、アメリカのマイクロソフト社は、自社のブラウザーソフト「インターネットエクスプロラー」を一般市場に対して強力に導入推進を行い、他社製品が公平な競争のうえで成り立たない「反トラスト法(独占禁止法)」に違反したという判断がなされアメリカ連邦地方裁裁判所がマイクロソフトの分割命令が下った経緯がある。

最終的にはマイクロソフトと連邦地方裁判所が和解することで会社分割は免れたが、その後数年はマイクロソフトの活動や事業規模にはやや陰りが見えたことは史実として明らかだ。

当時判決を下した裁判官はマイクロソフトを称して「GRREDY(強欲)」だと非難した。そしてそれは、その後、ビル・ゲイツ自身がマスコミなどの表舞台から遠ざかった要因にもなっていると思われる。

これらの事例ゆえに、GAFA解体論が決して実行不可能ではないということが窺える。

そのため、今回のアップルとグーグル、エピックゲームズのプレイヤーや開発者を巻き込んだ騒動が、もしかするとGAFAの強欲なビジネスモデルを変えるかもしないという憶測もあるのではないだろうか。

疑似米中抗争の側面もあるのか?

そして最後に付け加えておくべきは、エピックゲームズの株主構成である。

株式の半分50%は創業者であるティム・スウィーニー・CEOが保有しているが、40%は中国の巨大エンタテインメント企業「テンセント」が保有している。テンセントはエピックゲームズ以外にもeスポーツ系の良質なコンテンツを輩出するライアットゲームやアクティビジョンブリザード、スーパーセル、ユービアイソフト、日本ではプラチナゲームズ、エイミング、マーベラスへの出資も積極的に行っている。

しかし、テンセントは出資しても「君臨すれども統治せず」という基本スタンスを貫いており、各出資先からの評価はとても良い株主だと聞いている。おそらくエピックゲームズはテンセントから何かオーダーされて動いているようことはなく、自由にゲームを開発し自由に運営していると思われる。

写真:チャイナジョイ2018 テンセントブース 筆者撮影
写真:チャイナジョイ2018 テンセントブース 筆者撮影

とはいえ、チャイナマネーが投入された会社であることには変わりはなく、アメリカのエンタテインメント産業における米中代理戦争とも思えなくもない…といったら考えすぎだろうか?

ちなみにエピックゲームズはソニー(本体)と7月10日に出資契約の発表をしている。おそらくこれは来るべきプレイステーション5やソニーのモバイル戦略のなかの取り組みと思われる。

プレイヤーや開発者までを巻き込んだ戦いは勘弁してほしい

いずれにせよ。コラム中で挙げたトピックは推論にすぎない部分はあるが、「フォートナイト」を楽しんでいるプレイヤーとUnreal Engine(アンリアルエンジン)を開発に使っているゲームパブリッシャーや開発者にとっては大きなダメージであり、不都合な真実である。

自社でゲームポータルを作れないことはないエピックゲームズ、借り物のポータルを維持するために売り上げに対して大きく貢献していると思っているエピックゲームズ。しかし、アップルやグーグルは、ポータルは自分たちがゼロから作ってきたもので、その売り上げの30%でポータル維持しているし、常に不具合修正やアップデートや改良もやっている、それはそれで大変なんだぜ…というアパートの大家や管理会社のような主張も理解できる。

それらはおそらくどこまで行っても平行線のままかもしれない。

世界がコロナ禍のなかで、これからさきもゲームやエンタテインメントの需要は衰えることはないだろう。

今回のようなプレイヤーまでも巻き込んだ争いごとが長く続くのは得策ではない。

さらに個人的にはプレイヤーや開発者までをも巻き込んで #FreeFortnite を謳って、ネット界の巨人であるアップルやグーグルを包囲しようという焚き付けは、ちょっと前までよく見かけたネット著名人などがフォロワーを巻き込んで行う殲滅・ネットリンチ作戦のように思えて好感は持てない。大人のケンカは大人同士で見えないところで解決してほしいと思うのは私だけではないだろう。だって、ゲームは楽しいものだから。

【追記】

黒川塾 96チャンネル にても今回の解説動画をアップしました。よろしければ、こちらもご覧ください。

(24日 18時誤字脱字修正しました)

メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト

黒川文雄 メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/株式会社ジェミニエンタテインメント代表 アポロン音楽工業、ギャガ、セガ、デジキューブを経て、デックスエンタテインメント創業、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHN Japan (現在のLINE、NHN PlayArt)などでゲームビジネスに携わる。現在はエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行うとともに、精力的に取材活動も行う。2019年に書籍「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」を上梓、重版出来。エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰し「オンラインサロン黒川塾」も展開中。

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