【大河ドラマ光る君へ】藤原道兼がちやはを斬殺して返り血を浴びたまま帰宅したことがもたらす「恐怖」
大河ドラマ「光る君へ」第1回「約束の月」では、主人公・紫式部(劇中では、まひろ)の母・ちやはが、藤原道兼(藤原兼家の息子。道長の兄)の手で斬殺されるシーンが描かれていました。道兼自ら手をかけ、返り血を浴びる光景にネット上では「サイコパス道兼」「返り血がめっちゃホラー」との声も上がっていました。道長や紫式部が生きた平安時代、血は穢れたものと見做され、忌避される対象でした。
園韓祭(平安京宮内省内に祀られていた園神と韓神との祭り)において「鼻血」の穢れにより、官人が交代したこと(851年)や、賀茂祭において内裏に血の穢れが及んだため、勅使の参入が停止(839年)されたこともありました。血がなぜ穢れとされたのかについては「血は死を印象付けるから」という考察が一般的です。
ちなみに、死も穢れとされ、それは死穢と呼ばれます。死穢は、人間のみならず、動物(牛や犬)も含まれました。牛の死穢に触れたものが内裏に参入したために、祭りが停止されることもありました(919年)。穢れは人に伝染すると考えられていたのです。ドラマにおいて、道兼がちやはを殺し、返り血を浴びたまま、帰宅したことは、血の穢れを他人に伝染させることであり、実際にはタブーであったのです。
(主要参考文献一覧)
・福崎孝雄「血に対するケガレ意識」(『現代密教』8号、1996年)。
・井出真綾・牛山佳幸「古代日本における穢れ観念の形成」(『信州大学教育学部研究論集』第9号、2016年)。