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スタジアムでのウザい経験を解消する椅子の特許について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:特許7112743号公報

「席移動のストレス アイデアで解消 座面の一部にへこみ 印版製造の名宝・森会長が特許」というニュースを読みました。「スタジアムや劇場などの観覧席で、休憩時間に席を立つ際に移動がしづらい」という問題を解決するための特許です。権利者のメーカーは椅子メーカーではなく、印版を作っている会社です。いくつか実用新案登録はありますが、特許登録はこれが初めてのようです。

特許番号は、第7112743号、発明の名称は「ウエーブ形座面チェアー」です。登録されたのは昨年の7月です。なお、出願時は本人出願で、補正対応時から弁理士先生が代理人として入っています(ぶっちゃけ最初から弁理士に入ってもらった方が良かったと思います)。請求の範囲(補正後)の内容は以下のとおりです(請求項1個しかありません)。

【請求項1】

スタジアムや劇場の観覧席として、複数個を横方向に連結し、且つ、前後に配列して使用するチェアーであって、

前記チェアーの座面の形状は、各チェアーの前面中心部及び隣接する2つのチェアーの境目の前面境目部に、それぞれ半円形の凹みを施して、これら連結した複数個のチェアーの座面の前面がウエーブ形となり、

席立ち者の通行時に着席者が体勢を斜めにすることにより、当該着席者の片方の膝が前記前面中心部の半円形の凹みに納められ、他方の膝が前記前面境目部の半円形の凹みに納められ、

前列席との間隔となる前記着席者の膝前スペースを広く確保可能にしたウエーブ形座面チェアー。

内容はタイトル画像を見た方がわかりやすいでしょう。(1)のように座面をウェーブ型にすることで、(2)のように通常時は脚の置き場を確保すると共に、(3)のように人が通る時にはスペースを確保しやすくするという発明です。いかにもありそうな気がしますが、新規性・進歩性を否定するような文献は見付かっていません。

この席移動は、通る方も通してあげる方も結構ウザい経験になるので、まさに、「必要は発明の母」を地で行った特許だと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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