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「どぶ板(DOBUiTA)マーケティング」で絶対達成! ~空中戦と地上戦を融合したマーケティング手法

横山信弘経営コラムニスト
マーケティング活動の「どぶ板営業」版(写真:アフロ)

「どぶ板営業」のマーケティング版

「どぶ板営業」という言葉があります。「どぶ」とは、側溝や排水溝のことを指し、「どぶ板」とは、人が落ちないように「どぶ」を覆う板のことです。この「どぶ板」まで入り込んで営業すること――転じて、地道で徹底した営業手法を俗に「どぶ板営業」と呼びます。(言葉の成り立ちには諸説あります)

「どぶ」から連想するとおり、感覚的には「古臭い」「泥臭い」営業手法だと受け止める人が多いことでしょう。精神的にキツい営業手法で、敬遠する人もいるはずです。とはいえ、「どぶ板営業」の他に「どぶ板選挙」という表現もあるように、営業のみならず「地道」に「徹底」して行動することは大事なことだと言えます。

マーケティングにも、この「どぶ板」的な発想が必要だと私は考えています。まずマーケティングを解説するうえで、コストの視点で考えてみます。マーケティングに関わるコストは3種類あります。

■ 経済的コスト → お金

■ 時間的コスト → 時間

■ 精神的コスト → ストレス

コストをお金だけだと捉えている人は、マーケティングのみならず、ビジネスをするうえで大きなマイナスです。必ず3種類あると考えましょう。テレビや新聞、雑誌など、マスメディアを使った宣伝広告はお金がかかります。自分でブログを書いたり、メルマガを発行して結果を出そうとすると時間がかかります。すぐに結果が出ないからです。お客様ひとりひとりに面と向かって話したり、電話を掛けるとストレスがかかります。これが精神的コストです。

次にアプローチの視点で考えてみます。アプローチには以下の2種類があります。

■ パーソナルアプローチ → 「1」対「1」

■ マスアプローチ → 「1」対「不特定多数」

マーケティングアプローチの方法として、広告やWEBプロモーションといった、マスアプローチしか思いつかない人は問題です。必ず2種類あると受け止めましょう。同じ空間にいたとしても、「1」対「1」以外は、すべてマスアプローチです。セミナーやイベント系で、目の前にお客様がいても、大勢に向かってコミュニケーションをとっている限り、パーソナルアプローチとは呼びません。

次に、アプローチに対するリターンを考えます。リターンは以下の3種類です。

■ 認知

■ 関心

■ 行動

「認知」というリターンは、単に「知っている」「気づいている」ということ。何らかのアプローチをしたら、必ず相手が認知するかというと、そうではありません。「選択的認知」という言葉があります。情報が届いていても、人間は無意識のうちに認知する対象を選択しているものなのです。「認知」は重要な指標ですので覚えておきましょう。

「関心」というリターンは認知のみならず「興味」「関心」を抱いてもらえたかという指標。最後の「行動」というリターンは、何らかの意思決定をして行動を起こしてもらえたかどうかです。

ある商品があり、それを100人に告知したら、100人の人に「認知」されたかどうかはわかりません。そして、「認知」されたらすぐに「関心」を持ち購買や採用といった意思決定をするかというと、そういうこともありません。多くの人に認知してもらうよう徹底すること、興味をもってもらえるよう地道なマーケティング活動をすることが重要です。この発想が「どぶ板マーケティング」の原点だと受け止めてください。

コピーライティングを駆使し、イケてるチラシを作って、一発でお客様をひっかけようという発想は、実のところかえって効率が悪いのです。効率が悪い、ということは、つまりリターンの絶対数と比較して、投じたコストが大きすぎるということです。

「コスト」「アプローチ」「リターン」の特徴

それでは、前述した「コスト」「アプローチ」「リターン」の概念を持って、それぞれの特徴を以下に箇条書いたします。

● てっとり早く結果を出すためには、「経済的コスト」か「精神的コスト」をかけたアプローチ手法を選択する。つまりお金か、ストレスをかける。巨額コストがかかるテレビCMか、飛び込み営業、テレマーケティングなどのストレスをかける。

● ウェブサイトやブログ、メルマガなど、自分メディアによるマスアプローチは「時間的コスト」がかかる。つまり、すぐに結果は出ない。また、優良なコンテンツを配信し続けてファン獲得をしなければならず、継続力のない人には「精神的コスト」がかかる。ただし「経済的コスト」をかけずに個人のメディアを持つという、大きなメリットが得られる。

● マスアプローチは、やればやるほどコンバージョン率が悪くなる。つまり、四大広告を含む、メディアを使った活動は、よりいっそうお金をかけないと期待どおりの結果を出しづらい。WEBプロモーションも同じで、ホームページの閲覧数やメルマガの読者数など、ファンを増やし続けないと、現状維持の結果をもたらすことはできない。

● 個人によるパーソナルアプローチ、紹介や口コミ……等は、関係性に比例するが、総じてマスアプローチに対しコンバージョン率はきわめて高くなる。ただし、個人が持つ関係性の深い知人には限界がある。

「パーソナルアプローチ」のポジション

これらの特徴の中で、最も重要なのは「パーソナルアプローチ」のポジションです。電話や面談など、1対1でアプローチする価値を理解できない人は、想像以上に遠回りし、余分なコスト(お金か時間)を支払ってマーケティング活動することになると肝に銘じましょう。

とりわけ、五大広告(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、ネット)でしか実績がない人は、マーケティングの基本がわかっていないと考えて間違いありません。(たとえば大手広告代理店に勤めている人が、個人で独立すると、とたんに結果を出せなくなる)

実際に、広告代理店の営業にヒアリングしてみてください。

「今度の日経新聞で、来月の展示会の広告を出したいのですが、どこの広告欄に載せることで100人を集められますか?」

相手が真面目な広告代理店の営業なら「わかりません」と正直に答えるでしょう。本当にわからないのです。展示会の特性、開催場所、時期、などを考慮し、どの枠に当てはめたら、どれぐらい人がそれを閲覧し、興味を持ち、会場に足を運ぶだろうと、推測したり、検証したりしても、実際の結果は常にブレるからです。したがって、「やってみないことには、わからない」のが正直なところ。これがマスアプローチの特徴なのです。

「マスアプローチ」のポジション

マスアプローチでお客様の「行動」というリターンを期待すると、大きな経済的コストが必要となります。きわめて効率が悪いため、基本的には「認知」「関心」のリターンを望むことです。1万人にリーチするような広告や宣伝をし、どれぐらいの人が「認知」したか、「関心」を寄せたかを計測し、そのマスアプローチの有効性を検証するのです。

当たり前ですが、どれぐらいの人が「認知」したか、「関心」を寄せたかを計測するためには「パーソナルアプローチ」が不可欠です。実際に電話をしたり、面談をすることで、確認をとることができます。

「当社からDMが届いていたと思いますが、ご覧になられたでしょうか?」

「ああ、届きましたよ。ちゃんと見ています」

「来月の、当社のイベントについてご案内が入っていたと存じます」

「ええ、確認しました」

「そこに大きな文字で、『このDMを受け取った人にだけ、すごい特典がもらえる』と書いてあったのですが、それもご確認いただけてますでしょうか?」

「え! 特典!?」

……このように、人間というのは、何かを見ているようで、見ていないもの。何かを聞いているようで、正しく聞いていないものです。どんなに文字を大きくしても、図柄を使って目立たせようとしても、この現象は防ぎようがありません。

ミスコミュニケーションを防ぐためには「質問&確認」をすることです。これを省略すると、話が噛み合わなくなっていきます。ですから、マスだけでなく、パーソナルでの双方向コミュニケーション(リアルタイムな双方向)で検証作業を繰り返しましょう。

結果を出すためには、パーソナルアプローチが不可欠

マスアプローチに依存したマーケティングは、日用雑貨や食品などの一般消費財だけにすべきです。

マスアプローチ一辺倒だと結果が安定しません。外部環境の変化に強く影響を受けます。それを防ぐためにパーソナルアプローチを活用します。自動車の販売がとても良い例です。マスの広告も打ちますが、最終的にお客様に「行動」を促すのは、販売ディーラーのセールスパーソンです。いっぽう電化製品も店舗で売っていますが、家電量販店などは購入手続きをサポートするだけで、お客様にお店へ来るように連絡をかけたり、積極的にニーズをうかがい、商品の提案をしたりすることはありません。マスアプローチに依存したマーケティングと言えます。

だからこそ、日本の自動車メーカーと家電メーカーは、技術力が高く良い商品を出し続けているのに明暗を分けた、とも言えます。

最後に「どぶ板マーケティング」のポイントを2つ記します。

■ 必ず「パーソナルアプローチ」をマーケティングの軸にする。「マスアプローチ」は認知度向上が目的と割り切る

■ 「顧客資産」のデータベース化

拡散型のマスアプローチをするのであれば、テレビCMや屋外広告、ホームページ、ネット広告でもよいでしょう。しかし、先述したように、どれぐらいの「認知」「関心」のリターンを得られたのかを検証しなければなりません。

「どぶ板マーケティング」は「パーソナルアプローチ」を軸に据えますので、「顧客資産(見込み客)」のデータベース化が絶対不可欠です。相手のアドレス(住所や電話番号、メールアドレス等)を入手するプロセスを、マスアプローチの手順の中に含め、正しく運用します。そしてお客様の情報をメンテナンスし続けるのです。

つまり、「どぶ板マーケティング」には、

● パーソナルアプローチの仕組み(営業、テレマーケティング部隊等)

● マスアプローチの仕組み(マス広告、WEBプロモーション等)

● データベースの仕組み(SFA/CRM等)

といった3つの仕組みが必要です。

「どぶ板マーケティング」というネーミングだけを聞くと「地道」「徹底」という意味合いが含まれている分、古臭い、泥臭い手段だと受け止められることでしょう。しかしながら、マスメディアやインターネットなどの一方通行的なマーケティング活動は、

相手が誤解しようが関係ない。とにかく送り付けて引っかけろ!

的なニュアンスが多分に含まれています。マスアプローチに頼ったマーケティング活動はスマートのように見えても、ある意味、乱暴です。ミスコミュニケーションを織り込み済みでマーケティングしているのですから。

「どぶ板マーケティング」はマスアプローチ(空中戦)とパーソナルアプローチ(地上戦)をうまく融合させたマーケティング手法です。お客様と正しく”向き合う”マーケティングという意味においては、「どぶ板マーケティング」は正攻法であると言えます。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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