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「パルワールド」新会社設立でソニーがバックに なぜ

河村鳴紘サブカル専門ライター

 今年1月に発売され、総プレーヤー数が2500万人を突破した人気ゲーム「パルワールド」(PC、Xbox Series X/S、Xbox One)。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)、SME傘下のアニメ会社・アニプレックス、同ゲームを開発したポケットペアの3社が、同作のライセンス事業を手掛ける新会社「パルワールドエンタテインメント」の設立で合意したと発表しました。狙いについて考察してみます。

◇コンテンツ強化のカギ握る映像化

 「パルワールド」と言えば、大ヒットの一方で、人気ゲーム「ポケモン」との類似性が指摘され、関係者やファンの間で激論となりました。

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 株式会社ポケモンが名指しこそは避けたものの同作を意識したと思われるリリースを出し、任天堂の株主総会の質問にも「らしき」ものが出るほどです。ゲーム自体の評価は高いのですが、「いわくつき」の一面があることは否めません。それはそうとして、それでもこれだけのヒットを飛ばせば、ゲーム以外のビジネス展開があることは、想定通りです。

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 サプライズは、ソニーグループのSMEが「パルワールド」のビジネス拡大に手を挙げたことです。新会社は、3社が出資するジョイントベンチャーで、「パルワールド」の各種ライセンス(ゲームを除く)を集約し、世界での多角的な展開を加速・拡大するのを目的としています。アニプレックスの名前がある以上、アニメ化は当然、想定されているでしょう。SMEが名前を連ねているのも、新会社の信用度を高めてくれます。

 ゲーム「パルワールド」への疑念ですが、大手が嫌うのはこの手の“爆弾”です。当然ながら念入りに調査済みのはずで、織り込んだ上での新会社設立なのでしょう。それでも何かが「さく裂」することもありうるのが、著作権関係の怖さですが……。SMEやアニプレックスの名前があることで、「ソニーグループがバックにつくのか。では大丈夫かも」などと疑念の軽減になる面はあるでしょう。

 「パルワールド」の今後のコンテンツ強化のカギを握るのは、何といっても映像化でしょう。ゲームのヒットで知名度は一定数あり、映像作品が支持されたらゲーム本編にもメリットは出ます。アニメビジネスは盛況で、原作不足に拍車がかかっていますから、SMEやアニプレックスにとっても、有力作品を取り込んだ利点は大きいと言えます。

◇ゲームとアニメのWヒットは至難だが…

 新会社について、「ポケモン」のブランドをマネジメントする株式会社ポケモンに見立て、ソニーがポケモンの真似をしたという見方もあるようです。単純化すればそう思うのも理解できますが、「パルワールド」の置かれた状況を踏まえると、異なるのではないでしょうか。

 株式会社ポケモンの誕生は、「ポケモン」のゲームやアニメの人気を受けてランセンス・コントロールが難しくなった状況があり、それを受けて窓口の一元化を目指し、かつ難解だった各社の権利関係を整理するためでした。つまり既にコンテンツの持続的な人気があって必要ゆえに生まれたのが、株式会社ポケモンでした。

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 一方、「パルワールド」は、大ヒットしたとはいえコンテンツとしてはまだ“新参者”であり、そもそも、ゲームの人気を長きにわたって維持していけるのかという課題があります。さらに現時点でアニメが展開されているわけでもありません。今回のリリースでも触れられている通り、最も重要なことは「『パルワールド』の全世界における多角的な展開を加速させ、IPをより拡大していくことを目的」とある通り、ここからが勝負です。

 そもそも「ポケモン」のように、アニメとゲームの両方を継続させて、かつヒットさせることは至難です(片方でも難しい)。コンテンツの展開・浸透、イメージアップも含めて、新会社のやることは山積みなのですから。新会社の社長は、ポケットペアの社長ですが、SMEとアニプレックスの果たす役割はかなりのもの。アニメ「鬼滅の刃」や「Fate」「まどかマギカ」「リコリス・リコイル」などをヒットさせたように、映像でも「パルワールド」をヒットさせられるか。それを成しえたとして、継続させられるか。腕の見せどころでしょう。

 さらに言えば、アニプレックスは、実写コンテンツの制作も想定した動きを既に見せています。「パルワールド」のことを考えると、まずアニメの方が合っていますが、舞台は用意されているわけです。とはいえ、ジョイントベンチャーの宿命でもありますが、うまくいかなければ、解体されてしまう可能性があります。

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 ソニーグループは、電機大手にカテゴリーされていますが、売上高の多くは、ゲーム、音楽、アニメ、映画などのコンテンツビジネスで稼ぎ出していますから、既に「コンテンツメーカー」と呼んでも差し支えないのが実情です。

 以前であれば、ゲームの映像化というのは嫌気される傾向にありましたが、今では、映像やグッズなど、消費者との接触ポイントを多く作り、世界的に展開する流れになっています。特にアニメビジネスは海外配信が重要で、パルワールドの海外人気の高さは魅力と言えます。もちろん、グループ会社でゲーム事業を手掛ける「ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)」との連動も考えられます。多メディア展開で成功させるのは大変でありつつも、SMEやアニプレックスとしては、世界規模でヒットした作品を押さえたいのはその通りで、動くだけの理由があるわけです。

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 なお、この手の「協力関係」は、提携よりもカネを出す関係は強力で、ゆえに本気度は強いと言えます。ちなみに、資本金、3社の出資割合についてSMEに問い合わせたところ、現時点では非開示でした。それでもソニーグループがバックに付き、カネを出したことは大きな意味があり、今後の展開、周囲の動きを注視したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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