「ポケモン」と類似指摘の「パルワールド」大ヒット 割れる見解と今後 エンタメの未来を揺るがす可能性も
愛らしいキャラクターたちと冒険ができるPC用ゲーム「Palworld(パルワールド)」がわずか5日間半で800万本の大ヒットを飛ばしています。一方で、アニメやゲームで世界的な人気を誇る「ポケットモンスター」シリーズに登場するキャラクターの「ポケモン」と似すぎている……という人が続出し、賛否両論になっています。理解する上でのポイントを三つ挙げて、考えてみます。
◇「ポケモン」と重なるという声
「パルワールド」は、ポケットペア(東京都品川区)が手掛けたゲームで、不思議な生き物「パル」が暮らす世界を舞台に、プレーヤーはパルを捕まえ、育て、戦わせるなどして冒険をします。同作のPVも公開されていますが、さまざまな人気ゲームをイメージさせる内容で、プロモーションとしては目を引きます。ゲーム自体の評価は良いのが現状。ともあれ「パルワールド」のキャラクター「パル」のデザインが「ポケモン」と重なるという声が多いのもこれまた確かです。
「パルワールド」の大ヒットを受けて、ゲーム関係者らに当たったのですが、「そもそも触れるのが難しい」という声を含めて、さまざまな意見がありました。
さらに株式会社ポケモンが25日、「他社ゲームに関するお問い合わせについて」と題したリリースを配信。「2024年1月に発売された他社ゲーム」と特定の固有名詞を避けながらも「弊社は同ゲームに対して、ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません」「ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」と明言しました。同ゲームが「パルワールド」を指すのは、これまでの事実関係を踏まえれば、容易に推測がつくところです。
もちろん、現在はリリースだけであり、具体的行動に移すかは別問題ですが、「パルワールド」への“牽制(けんせい)”にはなります。このような警告的なメッセージは、著作権侵害の事案で、使われる手法の一つです。
今後ですが、何らかの実力行使に踏み切るのか、それとも静観を続けるのか……ということになります。もちろん、水面下で交渉が進む可能性もあるでしょう。第三者ができるのは静観のみ……となります。
◇著作権がらみの話は大変
今回の問題を理解する上で、最初のポイントは、著作権がらみの話は、複雑かつ難解であることです。何せ、知的財産に精通する関係者に取材しても、この手の話は見解が異なるし、行政機関に問い合わせても、かなり言葉を濁される傾向にあります。この「パルワールド」問題ですが、関係者に聞いても、そもそも訴訟になるかもわからないし、仮になったとしても結果の予測がつかない……という感じでした。
ゲームがらみで著作権違反の法廷バトルといえば、2000年代に、人気ゲーム「ファイアーエムブレム」の類似ゲームについて争ったケースがあります。任天堂が訴訟して最高裁までもつれ込み、一部は勝訴しました。しかし認められたのは、被告側が「商品を混同させた」という不正競争防止法についてであり、ゲームソフトへの著作権侵害は認められませんでした。
書籍のように文字の羅列であればシンプルゆえに、「著作権侵害」の判断は比較的つきやすい傾向にあります。しかし、グラフィックやストーリー、音楽などを組み合わせるゲームでは、表現が多彩な分、類似性の立証は、相当難しいというのがこれまで経験、取材した限りの実感です。
ただし、今回の話について、「ポケモン」は世界規模での知名度を誇る作品であるから、過去の例と単純比較できず、むしろディズニーのキャラを模倣したようなものでは……という指摘もありました。その指摘も一理ありますし、ゆえに予想がつかないのです。
◇どう転んでも影響大きく
二つ目のポイントは、「パルワールド」が短期間で世界規模で大ヒットをしたゆえに、どう転んでも影響が大きくなることでしょう。
800万本売れたゲームを「発売中止」にすると仮定した場合、ただですむはずがありません。ファンがゲームの発売元を訴えるようなケースも考えられるという意見もありましたし、そうでなくても影響は大きいでしょう。
そして現状維持のままで推移しても、ただではすまない可能性があります。大ヒットしたのですから、アニメ化・映像化の企画は出るでしょうし、当然見た目が似ているのですから、アニメ「ポケモン」への影響も出るでしょう。ポケモンは、アニメやゲームだけでなく、社会貢献をするなど、社会的な信用を積み上げてきました。いまや、無敵だったコンテンツと、そのビジネスモデルが揺らぐ可能性があるわけで、看過できるのか……ということです。
また今回の手法が「問題なし」であれば、他の人気コンテンツに寄せて新しいゲームを作る流れが加速すると考えるべきでしょう。現在急速に拡大している技術の進歩は、さまざまな問題を抱えつつも、エンタメの創作活動を根底から変えているのは認めざるを得ません。そして「パルワールド」は(今のところ)大きな経済的成果をあげたわけで、ビジネス視点で見るならば「続け!」となるでしょう。
こうした動きを「エンタメの進化」と見るか、「大丈夫なのか」と見るか……これまた判断の難しいところです。
◇創作が停滞する可能性
三つ目は、今回の流れを受けて、著作権侵害への判断が厳しくなり、ゲームひいては、創作が停滞する可能性です。
創作では、オマージュ・パロディー的に人気作品の一部を取り込むのはよく使われる手法です。もちろん、完全にゼロから作り出すケースもあるのかもしれませんが、創作は基本的に先達を参考にして改良を加えたり、そこから自分なりのものを積み上げる面があります。影響を受け、真似をして、真似をされ……互いに影響しあうとすら言えます。だからこそ、著作権法も著作権者に過度の保護をせず、公共とのバランスを取ろうとするわけです。
そうした厳しい争いの中で、勝ち残った作品がのし上がっていくわけです。「売れる」というのは、世間の“支持”とも言えるのですが、さりとて「何をしても良い」と言い切れるでしょうか。悩ましい問題なのです。
◇エンタメビジネスの持つ可能性と怖さ
今回の「パルワールド」は、「ポケモン」の存在をある種の“踏み台”にして、この大ヒットを創出した……と取られてしまう点が気になります。もし関係ないのであれば、「ポケモン」とまったく違うキャラクターデザインにしてしまえば、こんな問題はおきなかったはずでは……という意見もありました。むしろ「ポケモン」がコンテンツの世界観を守るために避けていたことを、あえて取り込んだのではないかと取れてしまう……という声もありました。そして、世界中のファンが興味を示し、わずか5日半で800万本以上も売れたという事実に、改めてエンタメビジネスの持つ可能性と怖さの両方を感じます。
そして創作で、モデルに寄せることはどこまで許され、どこからがダメなのか。手本にしたと指摘された側は「問題ない」と主張するのでしょうが、手本にされた側は違う考えを持つ。それもまた当然と言えます。
果たして、この問題がどう着地するのか。ですがいずれは、技術の進歩ゆえに、どこかで突き当たる問題がたまたま出てきた……というとらえ方もできるでしょう。いずれにしても、エンタメの未来を揺るがす可能性がある事案であるのは確かで、今後の動きを注視したいと思います。