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配信中止! 壇蜜主演「宮城県観光PR動画」とは何だったのか!?

碓井広義メディア文化評論家

先日、宮城県のテレビ局から取材依頼がありました。壇蜜さんが出演した、宮城県の「広報動画」をめぐる騒動について話を聞きたい、とのことでした。日本広報協会が主催する「全国広報コンクール」映像部門の審査員を、もう10年以上も務めさせていただいていることから、こうしたオファーがあったのだと思います。

ただ残念ながら、この時はタイミングが合わず、取材に応じることが出来ませんでした。

今週、宮城県の村井嘉浩知事が、近々動画サイトから削除すると明言した、宮城県の観光PR動画とは、そもそもどのような内容で、何が問題だったのでしょう。あらためて、この広報動画について考えてみたいと思います。

壇蜜主演 観光PR動画「涼・宮城(りょうぐうじょう)の夏」

●日本家屋の廊下

着物姿の壇蜜、歩いてくる。

N(ナレーション)「仙台藩主、伊達家家臣の末裔といわれている、お蜜」

●座敷 

現在の伊達家主人と思われる着ぐるみのキャラクター、畳に寝そべっている。

壇蜜「この暑さにまいってしまったのですねえ」

頷く、キャラ。

壇蜜「涼しい宮城へ お連れいたしましょう」

N 「お蜜の使命、それは家臣の末裔として殿方に涼しいおもてなしをすること」

壇蜜「みやぎ、イっちゃう?」 *この時、「う」のところで唇のアップとなる。

着ぐるみ、鼻血が出る。

●天空

壇蜜が白い衣装で天を舞っている。

壇蜜「こちらですよお~」

キャラクターに、ずんだ餅を食べさせる。

壇蜜「はい。ふっくり、ふくらんだ、ず・ん・だ」 *「だ」で唇のアップになる。

壇蜜「肉汁、とろっとろ。牛の、し・た」 *「た」で唇のアップ。

壇蜜「え?おかわり? もう、欲しがりなんですから~」

●空をゆっくりと飛ぶ壇蜜とキャラ

壇蜜「気持ちいい~」

●伊達正宗の像

壇蜜「450歳、おめでとうございます」

正宗像の肩に、ほほを寄せる壇蜜。

壇蜜「むねりん・・」

正宗像が照れて顔が赤くなり、鼻の下が伸びる。

●空を飛ぶ壇蜜とキャラ

前方から巨大な「亀」が空中を泳いでくる。

壇蜜「あ、亀さ~ん」

亀の頭を手のひらで撫でながら、

壇蜜「上、乗ってもいいですか?」

亀がにんまりして、赤くなった顔がアップに。

●亀の背中に乗って飛翔する壇蜜とキャラ

壇蜜「気持ちいいですかあ? 涼しいですかあ?」

●玉手箱が飛んでくる

壇蜜「あ、あれは宮城からのお土産かもしれません」

キャラが箱を開けると、一気に白い煙が出る。

●元の座敷 

きりっとした顔になったキャラ。

壇蜜「涼しげで、す・て・き」

キャラの頬にすりすりする壇蜜。

N 「宮城の玉手箱には、こんな効果もあるらしい。めでたし、めでたし」

●フリップ風の画面

「夏でも涼しい仙台・宮城の旅。涼・宮城(りょうぐうじょう)の夏」と表示。

N 「夏でも涼しい仙台・宮城の旅 涼・宮城(りょうぐうじょう)の夏」

●座敷の2人 

正座して、正面に向かって頭を下げる。

壇蜜「お待ちしております」

唇がアップになって、

壇蜜「あっ!」

●フリップ風の画面

壇蜜「という間にイケちゃう・・」

画面には「という間にイケちゃう」&「東京―仙台 約90分」の文字。

●松島の空

壇蜜「りょう・ぐう・じょう」

――以上、2分36秒。

「(宮城に)イっちゃう?」

「ふっくり、ふくらんだ(ずんだ餅)」

「(牛タンの肉汁)とろっとろ」

「(牛タンのおかわり)もう、欲しがりなんですから~」

「(亀の頭をなでて)上、乗ってもいいですか?」

「気持ちいいですかあ?」

「あっ、という間にイケちゃう・・」

・・・といった”いかにも”なセリフを、”いかにも”なセクシータッチで壇蜜さんに言わせたうえに、これでもかと繰り返し映し出される「くちびる」の、どアップ。

いやはや、何とも(笑)。よくぞこれだけストレートな性的イメージを連打したものだと、逆に感心してしまいます。この企画にゴーサインを出した県の担当者も含め、「これ、ウケるよなあ」という制作側の皆さんのニヤニヤ笑いが見えるようです。

もちろん、セクシーな要素を盛り込むことも表現方法の一つではあります。ただし、「TPO」みたいなものは、ありますよね。何しろ「行政機関が作って流す、観光客誘致のための広報映像」なのですから。

ひねりも、工夫も、芸も、あらばこそ(=まったくない)。見ている側が赤面してしまうようなレベルの直截な表現であり、ひと言で評するなら、品が無さすぎ(笑)。

観光客誘致と言いますが、これを全国のフツーの市民が見て「ああ、仙台・宮城って素敵だなあ。行ってみたいなあ」と思うに違いない、と判断すること自体が、フツーの市民の感覚を読み違えている、というかナメているのではないでしょうか。

というのは、全国広報コンクールに入選する映像作品を見る限り、各地の地方自治体は、もっと真剣に「広報動画」の制作に取り組んでいるからです。

地方自治体の「広報動画」は・・・

全国広報コンクール「映像部門」では、全国各地の地方自治体(県や市町村)が制作した広報番組、広報ビデオ、広報動画などを扱っていますが、各都道府県で第1位になった広報映像が集められ、審査の対象となります。

ここ何年かの間に、映像作品の傾向がずいぶん変わってきました。以前は数本だった「広報動画」が徐々に増え、現在はかなりの割合を占めるようになったのです。

しかしこれは、全国各地で放送されている広報番組自体が減少したわけではありません。広報番組と並行して、広報動画が当たり前のように制作されるようになり、また映像作品としての質やレベルが飛躍的に向上したことの結果なのです。

ちなみに動画の内容に関して言えば、「シティプロモーション」と呼べるものが多くなっています。今年の入賞作の中から、印象に残ったものを数本、紹介してみましょう。

■ 『室蘭市広報動画「砂がおしえてくれた街」』室蘭市(北海道)

中学3 年生の鈴美は、ある日、路地裏にある小さなアンティークショップに入ります。棚に並ぶ古めかしい瓶の中に、手紙のようなを見つけます。女主人から「それは買った人だけが読める」と言われた鈴美は・・・。

室蘭の街を熟知した、市内在住という映画監督の起用が成功しています。まず映像が美しい。そして物語に街のイメージを喚起する、好ましい風情があります。“霧の街”室蘭の面目躍如。小道具の使い方も巧みで、瓶の中の詩、地図、タクシー…。見ているうちに、ふと室蘭に行ってみたくなるのは、作品のシティプロモーションとしての狙いが的中した証拠です。

■『世界一の豪雪地帯』青森市(青森県) 

豪雪地帯・青森市。市民の除雪や、青森空港除雪隊「ホワイトインパルス」について、西部劇調で紹介しています。「青森市ならでは」の魅力を、映画の予告編のような3 分動画にまとめました。

北国にとって、雪は一種の宿命とも言えます。この作品が優れているのは、宿命である雪との暮らしを、嫌ったり嘆いたりするのではなく、割り切って笑い飛ばしていること。「いっそ楽しもう!」という逆転の発想です。映像も編集も凝っていて、実にスタイリッシュ。

ウエスタン(西部劇)に見立てるしゃれっ気、リンゴという青森を象徴するアイテムの使い方、そして「ドカ雪三兄弟」のネーミングにニヤリとさせられました。

■『てなんど小林プロジェクト サバイバル下校』小林市(宮崎県)

小林市のまち並みを、ひたすら駆け抜けていく女子高校生。彼女は何に怯え、何から逃げているのか? このまちに一体何が起きたのか・・・。

「うらぎり」をテーマに高校生たちが企画し、制作した作品です。小林市の地域資源は「人」だと結論づけた高校生が、「人」をモチーフに、視聴者を裏切る形で表現しました。

昨年も、移住促進PR ムービー「ンダモシタン小林」が全国的に話題となりましたが、今回の新作はよりパワーアップしています。動画制作ワークショップとの連動。ドラマのような映像と編集。そして登場人物たちの動きも、よく計算されています。

さらに“サバイバル下校”が、「人なつこい住民」を象徴するものだったというオチも見事でした。移住者増加の狙いはともかく(笑)、地元を知ってもらうコンテンツとしての効果は大きいと言えます。

・・・これらの「広報動画」には、壇蜜さんのような有名人は登場しません。有名人を起用しなくても、見る人の興味を引く広報動画は作れるのです。

もちろん、今回の宮城県の広報動画に関しては、壇蜜さんに罪があるわけではありません。またその起用自体が悪いわけでもありません。せっかくの壇蜜さんを生かす内容、生かす表現になっていなかったことが残念なのです。

もっと言えば、作った人たちの「価値観」がズレていたのではないでしょうか。宮城県の関係者の皆さんには、広報動画を何のために作り、誰に見せるのか。そして、動画を見た人たちに何を感じてほしいのか。そんな当たり前のことを、もう一度考えてみていただきたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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