長友佑都が語る「インテルでキャプテンマークを巻いて見えたもの」
ミラノダービーで
クラブ創設は1908年。欧州屈指のビッグクラブであるインテルは、セリエA優勝18回を誇る。スクデットの数では、29回優勝のユベントスの後塵を拝しているものの、セリエAで唯一、下部リーグへ降格したことがないことでも知られている名門だ。
12月22日、ミラノのジュゼッペ・メアッツァ(サンシーロ)で行われたセリエA第17節、インテル対ACミラン。インテルの長友佑都は後半37分、MFエステバン・カンビアッソが交代で退く際、黄色のキャプテンマークを手渡された。リーグ戦では通算179度目というミラノダービーで、日本人がキャプテンマークを巻く日がとうとうやってきた瞬間だった。
1-0で勝利した試合後、「すごく感動した」とコメントしていた長友は24日、クリスマス休暇を利用して帰国。感激の“初キャプテンマーク”を振り返った。
歴史の詰まったキャプテンマーク
「ミラノダービーという伝統の一戦で、100年以上の歴史の詰まったキャプテンマークをつけて戦えたのは感動的だった。つけて重みを感じることができた」
長友は、試合から2日たってもまだ興奮冷めやらぬ表情だった。
「キャプテンマーク…これまで巻いたことあるのかな」と首をかしげながら考えていたように、本人も記憶にないという“初体験”。
「いきなり巻いて、その巻いた試合がミラノダービーというのは、ちょっとなかなかない。インテルという伝統あるクラブで戦う重みを背負ったという感じ、マークを巻いてあそこで戦う感じは、つけなければ分からなかった」
思い起こせば2013年2月25のミラノダービーでは、試合中に左膝を負傷し、後半32分に途中交代。12/13シーズン後半戦の大半を棒に振ることになる深刻なケガだった。だが、そこで肩を落とすばかりでないのが長友だ。
「今年はひざのケガから始まってつらい時期があったが、ケガをする前よりも成長したということを確実に実感している」
とはいえ、思い描いていた理想の成長曲線のライン上に今の自分がいるわけではないのだともいう。
「今は良い状況だけど、去年思っていた『来年はこれくらいの自分でありたい』という想像を上回ってはいない。思っていたところには達していない」
忸怩たる思いも抱えながら過ごしていた年の瀬。気力、体力、技術、経験が兼ね備わった、27歳という最良の年齢で2度目のワールドカップを迎える勝負の14年を見つめようとしていたとき、サプライズとも言える出来事が訪れた。それがミラノダービーでのキャプテンマークだった。
「あれには巻いてみないと感じられない重みがあった。言葉にできないものを感じた」
今までに沸き上がったことのない初めての感情だった。五感が新たな刺激を受けた。長友は目を輝かせた。
「だからこそ、来年は想像の向こう側に自分は行けるのではないかという気持ちになった。自分にはまだ出し切っていない能力、まだ呼び起こせていない能力、眠らせている能力がある。数字ではない。言葉にもまだできない。でも、自分が大事にしている感覚。来年はそこへ行けるという自信がある」
イタリアに渡って4年目を迎える14年
南アフリカでのワールドカップを戦い終えた後の10年7月、FC東京からセリエAチェゼーナへ移籍した。翌11年1月には移籍期限ぎりぎりのサプライズ契約でインテルに移籍した。長友は節目節目でいつも、「世界一になる」という夢を口に出しながら前進してきた。
「ただ、正直なところ、今までも夢を語っていたけど、イタリアに渡った後というのは何も見えてはいなかった。今は本当に夢への光が見えていて、そこに走ればいいのだなというのが分かってきている」
14年はブラジルでワールドカップが行われる。6月14日のグループリーグ初戦の相手であるコートジボワールとは長友自身、過去2度の対戦経験がある。
一度目の対戦だった08年5月24日(豊田スタジアム)は代表デビュー戦。日本はコートジボワールを相手に玉田圭司のゴールで1-0で勝利を収めたが、この時のコートジボワールは主力を欠いていた。
二度目の対戦は10年6月4日、南アフリカワールドカップ前最後の国際Aマッチとしての戦い。0-2で敗れたこの試合では互いにベストメンバーでの戦いだったが、世界的ストライカーのディディエ・ドログバ(現トルコ・ガラタサライ)は田中マルクス闘莉王との接触プレーで右ひじを骨折し、前半15分で退いている。
それでも長友にとっては「今までやってきた中で一番強かった」という強烈な印象が残っているが、今度はワールドカップでの対戦であり、ドログバも出てくるだろう。もちろん、他の主力もしっかりいる。
「夢は、それを遮る壁を乗り越えないとつかめない。それが厳しいんですけどね」
まずはフルメンバーのコートジボワールに勝つ。その壁を乗り越えれば、夢という光に向かって加速していくだろう。漠然とした言葉をあえて口にすることで具体的な道筋を見いだしてきた長友の目の前に、また別次元への階段が広がっている。